アンナー・ビルスマ
ハイドンチェロ協奏曲
曲目/
ハイドン/チェロ協奏曲 第1番 ハ長調 Hob.VIIb-1[カデンツァ:同時代]
1. Moderato 8:50
2. Adagio 7:57
3. Allegro Molto 6:02
ハイドン/チェロ協奏曲 第2番 ニ長調 Hob.VIIb-2(Op.101)[カデンツァ:アンナー・ビルスマ]
4.Allegro Moderato 12:47
5.Adagio 5:32
6.Rondo: Allegro 5:10
クラフト/チェロ協奏曲 ハ長調 Op.4[第3楽章カデンツァ:アントン・クラフト]
7. Allegro Aperto 8:41
8. Romance 5:35
9. Rondo Alla Cosacca 5:59
チェロ/アンナー・ビルスマ(マッティオ・ゴッフリラー[1695年ヴェネツィア])
指揮/ジーン・ラモン
演奏/ターフェルムジーク・バロック・オーケストラ
指揮/ジーン・ラモン
演奏/ターフェルムジーク・バロック・オーケストラ
録音/1989/10/29-31トロント,ハンバークレスト統一教会(カナダ)
P:ウォルフ・エリクソン
E:アンドレアス・ニューブロンナー
E:アンドレアス・ニューブロンナー
deutsche harmonia mundi RD77757

このハイドンのチェロ協奏曲は2004年に発売されたビルスマの70歳を記念した限定格安ボックス11枚組のセットには含まれていませんでした。それも、そのはず、これはまだ当時統合されていないDHMの録音であったからです。BMGがソニーと合併したのが2004年の8月で、この11枚組が発売されたのが奇しくもその8月でした。70歳記念には間に合わなかったということですな。ビルスマらしい刺激的なコンセプトで、発表当時話題となったアルバムです。ハイドンのチェロ協奏曲は堤剛と[ http://blogs.yahoo.co.jp/geezenstac/51086543.html デュプレ]のものを取り上げていますが、この演奏はそれらとは違うピリオド楽器ならではの鮮烈な響きがします。第1楽章はモデラートならぬアレグロの様な快活なテンポで、弾む様な展開です。響きがノーブルで、最初の序奏でもうビルスマの世界に弾き込まれてしまいます。あまりためを作らず、それでいて旋律線を朗々と歌わせるテクニックはさすがです。この第一番は文句なしの名演。ビルスマのバロックチェロ故の痩せているがきびきびとしたチェロが楽しめます。四の五の言う前にとりあえず聴いてみましょう。
このCDで注目されるのは第2番でしょう。初出のCDにはビルスマ自身がライナーを書いていますが、ハイドンが弟子のクラフトとの共作を示唆するなど興味深い内容になっています。そういう部分に注目してこの曲を聴いていくと、まず最初に第1楽章提示部の末尾から展開部の初めにかけての部分が全面的に削除されているのが聴き取れます。まあ、この部分は慣例的にジュベール編曲版に準拠したもののようで、過去にはフルニエ盤も同様な処理がされていました。ただ、ライナーノートを見ても、この曲がハイドンとクラフトの共作であるというビルスマの主張と関係があるのかとどうかは不明なところです。また、第三楽章の最後でもオーケストラによる主題の再現部分がカットされています。この辺りのところがイマイチ理解に苦しみますが、カデンツァについてはビルスマ自身が書いたものを演奏しています。この曲は当時ハイドンが楽長を務めていたエステルハージ家の宮廷楽団の第1チェロ奏者のアントン・クラフトの為に書いた曲で、そういう関係なら、メデンルゾーンに対するフェルディナンド・デイヴィッド、ブラームスに対するヨーゼフ・ヨアヒムのように助言を受けることはあっても、共作という処までは至らない様な気もします。確かに、作品としてはかなり高度な技法が取り込まれているので、何らかのサジェスチョンがあったことは伺い知れます。
それはともかく、演奏自体は非常に優れたもので、オーケストラとのの掛け合いと言いビルスマのチェロの響きは、変に出しゃばりすぎたところはなく、バランスの良い呼吸で曲の最初から最後まで楽しませてくれます。現代のチェロの響きのように決してスケールの大きな演奏ではありませんが、いい意味で中庸の演奏で、どっぷりとその音楽に浸ることが出来ます。録音がまた秀逸で、天井の高い教会特有の包み込む様なまろやかな響きが何ともいえません。
さて、このCD最後にその問題のクラフトのチェロ協奏曲が収録されています。作品の規模的にはハイドンのそれとほとんど同じものですが、その響きに関してはどちらかというとモーツァルト的な軽やかな響きのする曲です。アントン・クラフトはボヘミアの生まれで、このCDでは生没年を1749-1820としていますが、ドイツ語版のWIKIPEDIAでは没年が1929とされているなど不明な点が多いようです。面白いのは宮廷楽団を辞した後はウィーンでシュパンツィヒ(Schuppanzigh)弦楽四重奏団の創設メンバーとなり、活躍しています。このシュパンツィヒ弦楽四重奏団は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の多くを初演していて、更にはベートーヴェンの「三重協奏曲」のチェロのパートも、彼のために書かれたということのようです。
この曲、第1楽章の冒頭響きなんかを聴くと、モーツァルトか初期のベートーヴェンの作品の趣があります。確かに技巧的な部分では独奏チェロ・パートには名手的要素が盛られています。効果的なハイポジションや技巧的ダブルストッピングなどチェロの名手が好んで書きそうな作品です。で、技巧的な部分は確かにハイドンのチェロ協奏曲第2番と共通する部分が多いんですな。このあたりが、ハイドンのチェロ協奏曲第2番が偽作説が生まれた所以なんでしょう。ビルスマは名人級のテクニックをそう感じさせずに、早いパッセージもモノともせず実に軽やかに弾きこなしてしまいます。あまり演奏される機会のない曲のようですが、ビルスマの演奏で聴くと名曲に聴こえてしまいます。こんな曲です。
このCDは国内盤では2008年に「ドイツ・ハルモニア・ムンディ名盤撰50」の中の一枚で再発されています。その時のライナーはどうなっているのかは知りませんが、初出分にはオーケストラのメンバー表まで記載されており、ヴァイオリン12、ヴィオラ4、チェロ3、ヴィオローネ1、コントラバス1、チェンバロ1、フルート、オーボエ、ファゴット、トランペット、ホルン各2、それにティンパニ1という32名で編成されています。