
ある日突然地球は侵略者の魔の手に襲われた。放射能に覆われ、死の星と化した地球を救うために、巨大な宇宙戦艦ヤマトは謎の星イスカンダルを求めて宇宙へ旅立った。倒しても倒しても襲いかかる敵の軍団、次々と死んでいく乗組員。長い戦いの旅路の果てに、傷だらけのヤマトが目的地で発見したものは?壮大なスケールで描く必読の宇宙冒険ドラマ‼---データベース---
これは今は亡き朝日ソノラマのソノラマ文庫、第1号のいわゆる「石津版宇宙戦艦ヤマト」です。ひょんなことから入手しました。奥付を見ると初版は昭和50年11月10日となってますから、TVシリーズの放送終了から半年ほど経った頃ですね。入手したのはその23版で、昭和52年9月25日となっています。2年足らずでこの増刷ですから当時如何にこの小説が売れていたかが分ります。小生はいわゆるヤマト世代とはちょいと年齢層が違いますから、テレビもリアルタイムで見た記憶は有りませんし、映画化された時も劇場へ足を運んだ記憶は有りません。ただ、当時の社会現象でしたので動向は注目していました。
テレビアニメとしては殆ど注目されなかった作品ですが、こうしたノベライズが出版されたということが凄いことです。元々の作品は1974年10月と1975年2月にそれぞれ「地球滅亡編」、「地球復活編」として単行本で発売されています。つまりは、テレビアニメと同時にノベライズが発売されていたことになります。今から振り返ると「宇宙戦艦ヤマト」はアニメブームを巻き起こしましたが、それだけじゃなく今日のライトノベル全盛時代の萌芽にもなっていたのではないでしょうか。文庫版はこの2作を纏めた形で発売されています。それが増刷数に現れています。
時は西暦2199年正月、地球が突如として宇宙からの侵略にさらされるところから始まります。勿論これがガミラスで、冥王星から火星機智まで次々に後略されます。地球は滅亡寸前。そこにイスカンダルからの使者が訪れ、そこに一縷の望みを託し、宇宙戦艦に改造された旧日本軍の戦艦大和が出発する、という件は概ね同じです。しかし、地球に退却する古代進たちは月に不時着する着陸するサー車を発見する件はアニメでは火星になっていましたから設定は既に異なっています。アニメでは大国のエゴが地球防衛軍の弱体を招いたことはカットされていますが、原作は当時の世情をきっちり繁栄しています。
乗組員の基本設定は原案ですから変わりません。艦長の沖田十三をはじめ、古代ススム、島大助、真田佐助、徳川彦佐衛門、森雪、佐渡酒造、加藤三郎ら、若干名前の違う人もいますがお馴染みの顔触れですし、ガミラスの総統デスラー、イスカンダルのスターシャ、サーシャも同じ。大きな違いは物語のターニングポイントで登場するキャプテン・ハーロックでしょう。アニメでは勿論出て来ませんし、ここではこのハーロックが重要な活躍をします。人間関係から沖田艦長と古代との関係、首相と森雪との関係などなかなか面白い人間関係のドラマとして描かれています。
石津嵐の小説版は本作品の企画段階で没とされた豊田等の案を元に構成されており、スターシアがコンピュータであり、デスラーはスターシアにより創造された仮生命体である事。ヤマト乗員の殆どはイスカンダル星に到着迄に戦死又は事故死する事。放射能汚染された地球は回復不能でその環境に適応するよう生態改造を行う旨を告げられる事。仮生命体であるデスラーを倒すため、創造主たるスターシア(イスカンダル)を破壊する等、ストーリー・設定がアニメ版とは大幅に異なっています。この時代は松本零士の「銀河鉄道999」などにもみられるように機械文明にたいする警鐘の様な設定が多いのも特徴です。
テレビアニメでは「宇宙戦艦ヤマト」は無事地球に帰還しその後も様々なストーリーで活躍するという設定ですが、小説版は違います。ここは多分原案の豊田有恒氏の構想が生きているのか、ヤマトは地球に帰還しません。実際のヤマトと同じように片道運行のような結末です。なるほど、豊田氏は戦前の生まれで戦争体験者です。ヤマトの命運についてもこれが当然といえば当然の帰結と考えていたのではないでしょうか。そして、ヤマトに変わって地球に帰還するのは小型帆船型宇宙船ファントム号です。何とこれがハーロックが載っていた宇宙船です。途中から松本零士氏もこの企画に参加していますから、このキャラクターの原型としての設定でハーロックが登場していることは頷けます。ただし、アルカディア号ではないというのが、このころのアイデアということがいえます。
今考えると巨大な宇宙戦艦ヤマトなんですが、なんと乗組員は120名あまり。こんなんで本当にガミラスと戦うことが出来たのかと不安になる様な人員です。実際の戦艦大和は戦闘員を含めると3000名以上が乗艦していたはずですから、これでは戦うことも出来ません。ちなみに、この宇宙戦艦ヤマトには小型宇宙艇とと小型ロケット機が100機づつ搭載されていますが操縦士は60名なんですな。こんな設定ありえるでしょうかね。ですから、この小説でもガミラス艦隊と正面からの戦闘は行なっていません。出来るわけが無いんです。そんなことで、アクションシーンはほとんど無いというのがこの小説の唯一の欠点です。
もう一つ残念なのはこの小説地球が放射能汚染され滅亡の道を辿っているのですが、ヤマトの活躍があってもその地球は再生されないとしている点です。それだけ放射能汚染は深刻だということを認識しながら、原案者の豊田氏は原発を肯定し、福島原発の事故の後でも原発を支持しているのです。不思議なことです。
いまとなれば、これは「宇宙戦艦ヤマト」のアナザー・ストーリーといってもいい作品ですが。原点にはこんなストーリーがあったということで、機会があればぜひ読んでもらいたいものです。最後にオープニングの主題歌を聴きましょうか。