トスカニーニコレクション47/ロッシーニ序曲集 |
曲目/ロッシーニ
1.歌劇『アルジェのイタリア女』序曲 (1950年4月14日, カーネギー・ホール) 7:24
2.歌劇『ブルスキーノ氏』序曲 (1945年6月8日, カーネギー・ホール) 4:29
3.歌劇『セビリャの理髪師』序曲 (1945年6月28日, カーネギー・ホール) 7:05
4.歌劇『シンデレラ(チェネレントラ)』序曲 (1945年6月8日, カーネギー・ホール) 7:34
5.歌劇『どろぼうかささぎ』序曲 (1945年6月28日, カーネギー・ホール) 9:04
6.歌劇『コリントの包囲』序曲 (1945年6月14日, カーネギー・ホール) 9:05
7.歌劇『セミラーミデ』序曲 (1951年9月28日, カーネギー・ホール) 11:50
8.歌劇『ウィリアム・テル』序曲 (1953年1月19日, カーネギー・ホール) 12:01
指揮/アルトゥーロ・トスカニーニ
演奏/NBC交響楽団
演奏/NBC交響楽団
sonyRCA 88697916312

トスカニーニRCAコレクション(84CD+DVD)を購入しなければ多分生涯聴くことは無かった音源でしょう。もともとがトスカニーニをそんなに聴いていなかったし、レコード時代はステレオ時代になってからクラシックを聴き始めたので、わざわざモノラルのフルトヴェングラーやトスカニーニを聴こうともしませんでした。それがいいご時世になって1992年に発売された時は12万以上もしたセットが1万円未満で購入出来る時代になったので気軽に触手を伸ばせるようになりました。個人的にも、時代小説に目覚め江戸時代を再発見する機会に恵まれたのとリンクして古き良き時代の往年の名演にも食手が動くようになったということでしょう。
このセットはすったもんだのあげく、ようやく7月中旬に手もとに届いたものですが、この時期になってようやく落ち着いて聴くことが出来るようになりました。で、最初に取り上げるのはセットも中頃の47枚目に収録されているロッシーニの序曲集という一枚です。ロッシーニの序曲についてはレコード時代は大した録音は無く、ロンドンから発売されていたピエリーノ・ガンバのものが殆ど唯一という感じで聴いていました。それで目覚めて、ロッシーニが好きになったのですが、以後も機会ある毎に集めていました。セル、カラヤン、アバドなどが世に出て来まして、極めつけはマリナーのロッシーニ序曲全集なんてモノまで登場しました。これ、小生の中では隠れ名版なんですが、ようやくもうすぐこの全集がCDで復活するようです。
さて、ここで聴かれるトスカニーニのロッシーニはそれまで親しんできたロッシーニ感をちょっと覆してくれる演奏になっています。なにしろ実にキビキビした演奏で変にムードに流される部分が有りません。セルにしても傾向としては一緒なのでしょうが時に聴いていて退屈に感じる部分が有ったのですが、トスカニーニのこの演奏に関してはそういう部分が有りません。まさに、これからオペラが始まりますよ、という幕開けの音楽になっています。だから、これだけをコンサートの幕開けの小手試しの音楽として演奏しているという感じがしないんですね。でも、実際は録音年月日がバラバラなのをみても多分コンサートの幕開けの曲として演奏されたものが大半なのではと思われます。それでいてこういう演奏を残すのですからトスカニーニという人の音楽にたいする真摯な心構えが伝わって来ます。
ロッシーニの序曲って、結構完成された部分が有って最後の2曲でLPの片面を埋め尽くしてしまうほどの充実した作品です。そんなことで先にあげたガンバやセルのレコードは5曲止まりの収録でした。ここでは8曲も収録されています。お買い得感もたっぷりですわな。どういうわけか、1曲目の「アルジェのイタリア女」は1950年のライブ収録ですが会場ノイズに音楽が埋没している部分が有ります。それに比べるとラスト2曲の「セミラーミデ」と「ウィリアム・テル」はセッション収録で一番の聴きものになっています。
最後の「ウィリアムテル」何かは歌い出しのチェロのカンタービレの扱いに痺れてしまいます。ロッシーニの指定では♩-54のアンダンテですがメトロノームに正確だったというトスカニーニにしては早い様な気がします。しかし、他の指揮者に比べても決して早くはありません。全体で12分の演奏時間はむしろ遅い方です。それでいてダイナミックな演奏で聴かせる部分はちゃんと心得ています。オペラを知り尽くしている男の揺るぎないテンポなのでしょう。確かに他の曲ではキビキビしていますから、そう感じてしまうのでしょう。我々のトスカニーニに抱いているイメージがそうさせるのかもしれません。
とにかくテンポが早く、リズムのキレはシャープそのもの。メロディの歌わせ方はごてごてさせずストレートそのなのですが、とにかく前へ前へという感じで、煽るように音楽を進めていく様は狂熱的としかいいようがないものです。これからオペラが始まるぞという、わくわく感をいやでもかき立ててくれます。「セビリアの理髪師」など本編に入るまでの序奏的部分など、まるで快速特急みたいなテンポですし、テーマが始まると早々とテンションを上げ、まさしく狂熱的な勢いでラストまで駆け抜けるという感じです。「どろぼうかささぎ」で聴ける壮麗な後半部分のブリリアントさなど、思わず目もくらむほどでした。早めのテンポでトスカニーニが演奏するロッシーニ・クレッションドの凄さは昔からとても有名でしたが、これほどのものだったとはという驚きです。ちょっと言葉を失う凄さです。いゃあ、この演奏でロッシーニの序曲を最初に知ってしまったら、後の指揮者の演奏は何処かつまらないものに聴こえるかもしれません。他の指揮者を聴き尽くしてここに至るのが正解でしょう。
そんな素晴らしい演奏なのですが、残念ながらこれはモノラル録音。ステレオ時代まで後一歩のところで亡くなってしまいました。せめて後5年生きていてくれたならRCAの技術を持ってすれば素晴らしいステレオ録音が世に残ったことでしょう。いえ、フルトヴェングラーと違ってトスカニーニはれっきとしたステレオ録音を残しています。RCAはそれを公式に発売していませんが、海賊盤としては以前から世間に出回っています。このセット、残念なのはその音源を収録していないことです。個人的にはその音源は所有しているのでそれでどうのこうのということはありませんが、それがおまけでついていればこのセットの価値はもっと上がったのかもしれません。