告白 | geezenstacの森

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音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

告白
監督 中島哲也
脚本 中島哲也
原作 湊かなえ
製作 島谷能成
百武弘二 ほか
製作総指揮 市川南
音楽 金橋豊彦
主題歌 レディオヘッド「ラスト・フラワーズ」
撮影 阿藤正一  尾澤篤史
編集 小池義幸
製作会社 東宝映像制作部  リクリ
配給 東宝
公開 2010年6月5日
上映時間 106分
製作国 日本

キャスト
森口悠子 - 松たか子
寺田良輝(ウェルテル) - 岡田将生
下村優子(少年Bの母) - 木村佳乃
森口愛美 - 芦田愛菜
桜宮正義 - 山口馬木也
戸倉 - 高橋努
少年Aの父 - 新井浩文
少年Aの母 - 黒田育世
少年Aの継母 - 山田キヌヲ
教授 - 鈴木惣一朗
教授の教え子 - 金井勇太
テレビの声 - 山野井仁

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 娘をレンタルビデオ店に連れて行った時借りて来たものです。娘は同時に原作も読んでいたようで、今話題のいじめ自殺事件とも関連がある様なのでついついいっしょになって観てしまいました。邦画はほとんど劇場公開時には観ないのでこの作品も2年落ちの鑑賞となりました。データをチェックすると2010年の邦画興行収入の第7位ということで派手に宣伝をやらかしていた「のだめカンタービレ」後編の劇場版興行収入を上回っています。この成績、R15+の指定を受けてしまったのですが、それでも口コミで尻上がりに観客動員が増えたというのは、それだけ人々に支持されたということであり鑑賞の価値ありということでしょう。

 原作は読んでいませんが、こちらの方もベストセラーとなっていて2009年度本屋大賞受賞(デビュー1作品目でのノミネートと受賞は共に発足以来初)、2010年4月、映画化に合わせる形で文庫本を出版し、それのみで約200万部のベストセラーとなったほか、Amazon.co.jpが発表した「2010年上半期Booksランキング・文庫(文芸)」では、販売期間がわずか2ヶ月であったにもかかわらず、1位に輝いています。まあ、内容が内容なだけに地上波テレビで放送されることは今後もないでしょうから、これはレンタルしか観る機会はないのでしょうな。ちなみにTSUTAYAのDVDレンタルランキングでは、2011年の年間トップになったそうです。

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 娘にいわせると、一部にストーリーの時系列が原作とは異なっているようですが、ほぼストーリーは小説の展開と同じのようです。大きな違いは原作の第3章で母親を殺してしまった原因を姉の聖美が母親の日記を読み背景を探るシーンがカットされているぐらいです。ですから、原作のポテンシャルを損なうことなく映画に没頭することが出来ます。ただ、どうみても、この作品ヒットの要素があまりありません。泣ける純愛ものではありませんし、派手なアクションがあるわけでもなく、同時期の笑えるコメディなどが大ヒット作となる傾向の中で、画面は暗く、大人になりきっていない子供たちの倫理観、いじめ問題、親子関係の歪みなど、現代社会の抱える様々な問題を内包したシリアスな展開になっています。ここに、聖職者といわれる教師がその教え子に鉄槌を下すというショッキングな始まり方をします。

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 これを中学一年の終業式の日に教職を去る担任が、自分の娘を殺された被疑者たちに少年法を盾に罰することの出来ないもどかしさをエイズで汚染された彼氏の血を牛乳に混ぜるという方法で挑戦するのです。教師は容疑者の名前こそ口には出しませんが、その犯人像を告げることで容易に誰かを特定することが出来ます。観ていると教師の復讐劇化と思えるのが当たり前なのですが、そこはそうなっていないのです。中学生たちは、先生の話をまともに聞こうとはしないし、好き勝手に携帯をいじくり回してはてんでバラバラのことをしているのです。こういうシーンを見せつけられると被害社であるはずの子供たちにもむかっ腹が立って来ます。じっさい、松たか子扮する先生の森口悠子の話し声はうるさくてまともに聞こえません。そういう状況の中で、先生は黒板に「命」の文字を書き、命の大切さを説いた後その爆弾発言をするわけです。いゃあ、一気に映画に惹き込まれてしまいます。

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 原作はここまでが第1部ですが、クラス替えのないまま子供たちは2年に進級します。エイズの恐怖に怯えながら一人は登校拒否に、もう一人は非感染者と診断が下されますが少しも反省することなくのほほんと学校に通います。こういう相対する反応を映画は淡々と克明に映像にしていきます。普段映画を見ているとここはちょっと手を抜いているな、とかこんな台詞ではご都合主義じゃんとか、こんな撮り方ないじゃんとケチを付けたくなるシーンが次々出て来て、日本映画のつまらなさが露呈してくるのですが、この作品にはそういうところがありません。

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 まあ、一つがっかりするところがあるとすれば、上の予告編でも分るように、クラシックの名曲が矢継ぎ早に登場することはありません。いや、全くここに流れている曲は使われていません。そういう意味ではちょっと裏切られます。しかし、原作にはない英語の授業でのダンスシーンは嵌まりました。何とKCサンシャインバンドの「That's The way I Like It」が流れるではありませんか。このシーンのみが唯一この映画のエンタティメントシーンであったと言っても過言ではないでしょう。

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 一応分類ではミステリー映画ということになっていますが、犯人は最初から分っているのでミステリーの面白さはあまりありません。それでも、出てくる登場人物がすべて共感出来るタイプの人間としては描かれていません。教師の森口悠子にしてもそうですし、まるで他人事のようにギャーギャー騒いでる1年B組の生徒達には、終始ひたすらイライラさせられます。さらに、操られているとはいえ、単純なだけを絵に描いたような熱血教師、寺田良輝、さらにはウチの子に限ってそんなことをするはずがない!犠牲者はウチの子の方だという典型的な過保護・モンスター・ペアレントな母親の下村優子。その誰にも共感を持って没頭することが出来ないのです。こういう映画はそうそうあるもんじゃありません。

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 この作品、正義とは何かという解答をつきつける映画ではありません。なぜなら、ここには機能していない教育委員会は登場しませんし、添え物的な校長も全く無視されています。ある意味ディフォルメされたリアリティがあるだけです。また、そうであるがためにこの映画の持っているテーマがストレートに伝わって来ます。そういう意味では本来はR15+指定なんかせずに堂々と中学生たちに見せるべき作品といえなくもありません。ある意味、現実の世界は映画の描いている世界を既に超越している部分もあると思うからです。とくにモンスターペアレントについては現実はこれ以上でしょう。

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 問題作で、いろいろな賞を取っている名作といえます。しかし、個人的には何度も繰り返し観たいと思う作品ではありません。でも、今からでは遅いですが、映画を観る前に是非とも原作を読むべきでしょう。小生はそれだけ失敗しました。