リーラ・ジョセフォウィッツのデビュー盤
曲目/
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調
1. Allegro Moderato 17:46
2. Canzonetta: Andante 6:57
3. Finale: Allegro Vivacissimo 9:29
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲二短調*
4.Allegro Moderato 15:24
5.Adagio Di Molto 9:11
6.Allegro, Ma Non Tanto 7:12
ヴァイオリン/リーラ・ジョセフォウィッツ
指揮/ネヴィル・マリナー
演奏/アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ 録音/1994/10/12-14 オール・セインツ教会
1995/01/04-06 セント・ジョージ教会*、ロンドン
P:ウルスラ・シンガー
E:セース・ハイイコープ
指揮/ネヴィル・マリナー
演奏/アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
1995/01/04-06 セント・ジョージ教会*、ロンドン
P:ウルスラ・シンガー
E:セース・ハイイコープ
Philips 446131-2

恥ずかしながら、このリーラ・ジョセフォウィッツの名前はこのCDで初めて知りました。とはいっても、単体のデビュー盤では無くデッカから2009年に発売された「ヴァイオリン・マスターワークス(35CD)」に収録されていたもので初めて知った次第です。このセット、古今東西のデッカ、フィリップスに録音された名盤で構成されていたのですが、何とメンデルスゾーン、チャイコフスキーやシベリウス、それにブロコフィエフの協奏曲がこのリーラ・ジョセフォウィッツで収録されているのです。てっきり、チャイコフスキーならチョン・キョンファ、メンデルスゾーンならムローヴァだと思っていたので、この人選には面喰らったのを覚えています。録音当時若干18歳の少女でしかなかったのです。いえ、正確にいえば19977年10月20日生まれですから、チャイコフスキー録音時には17歳でした。そんな年齢のいかないリーラ・ジョセフォウィッツに、このセットのメジャーな協奏曲を任せているのです。これにはびっくりです。
小生の場合は、あまり演奏家を意識してCDを購入するということはしません。ですから、評判のアーティストのCDをリアルタイムで購入するということは滅多にありません。この時も、別にこの組み合わせだけを意識して入手したわけでなく、その他にもグリュミオーとハスキルのモノラルながら名演のベートーヴェンのヴァイオリンソナタ全集とかクレーメルのバッハ、チョン・キョンファのサン・サーンス、アモイヤルのブラームスのソナタとかきらりと光る名盤がちりばめられているので注目したわけです。もともと、輸入盤で聴くということは解説何かは無視で、演奏本意で聴く姿勢を貫いています。ですから、オリジナルが発売された時、やれチャイコフスキーはシカゴのストラティヴァリウス協会から貸与されていたストラディヴァリ(1708年製のルビー)で、一方のシベリウスはハーバート・アクセルロッドより貸与された1793年製のグァルネリ・デル・ジェス(エーベルゾルト)を使って演奏しているというふれこみで話題になったことも知りませんでしたし、この録音が1994年9月30日のカーネギー・ホールでのニューヨークデビュー公演の成功でフィリップス・レコードの副社長であったコスタ・ピラヴァッキがその直後に5年間の専属契約を結んだということも知りませんでした。
フィリップスは力を入れたんでしょうな。でも、この初出時のレコ芸では特選盤には選ばれず、普通の推薦盤止まりという評価でした。今思えば順当な評価かなと思えます。まず、チャイコフスキーですが神童に相応しいテクニックでバリバリ弾いています。オーケストラと会わせるのも上手いのでしょう。ニューヨーク・デビューはこのネヴィル・マリナー/アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズのサポートで行なっています。しかし、どうも聴いているとテクニックだけ先行して歌心がついて来ていません。ましてや、話題のストラディヴァリウスですが、音色がノーブルすぎてどうにもチャイコフスキーの音楽のもつ土着性が全く伝わって来ません。こういう違和感のあるチャイコフスキーも珍しいのではないでしょうか。ためしに、ムローヴァ/小沢のデビュー録音を比較に聴いてみました。こちらは、さすがにチャイコフスキーコンクールで優勝しただけのことはある自身の民族性を濃厚に感じさせる演奏で、聴く度に感銘します。
多分、リーラ・ジョセフォウィッツはお嬢様育ちなんでしょうな。まだまだ人生経験が浅いということが音楽から聴き取れてしまいます。それでも、第3楽章は第2楽章とはうってかわってちょっと本気度を見せた演奏になっています。ジプシー風の主題をかなり、粘っこい表現で聴かせます。バックのマリナーもそつのないサポートですが、こちらも、表現自体はあっさりしているのでいまいち重量感に不足しています。
どちらかというと、シベリウスの方が出来がいいようです。前掲のレコ芸の推薦の評価もこちらをチョイスしてのものの様な気がします。弱音で始まる開始からピンと張りつめた空気感が漂って来ます。グァルネリの音色もシベリウスに相応しいものです。イギリスという国の国民性は北欧に共感があるようで誰の演奏を聴いてもはずれということがありませんが、マリナーのサポートもこちらの方が生き生きとしています。録音スタッフは同じですがロケーションが違うと、こうも音楽が変わるのかという見本の様なCDです。全体のフィリップストーンという印象にはさほどの違いはありませんが、こちらの方がライブに近い響きがします。新しい楽器が余程気に入ったのか、ジョセフォウィッツは伸び伸びとシベリウスに立ち向かっています。さすがに、このシベリウスは注目らしく、YouTubeに音源がアップされていました。
まだまだ若いので今後どのように伸びるか楽しみですが、得てして神童的な扱いを受けたアーティストは大成が難しいものです。最近は移籍してワーナーに移っているようですが、果たして若手の中で頭角を現してくるのでしょうか。しばし注目です。ただ、この演奏、初出以来何度も再発されているようですが、単独では日本では現在は廃盤状態です。