
本所五間堀にある「鳳来堂」。父親の古道具屋を、息子の長五郎が夜鳴きめし屋として再開。朝方まで営業している店には、父親の友人たちや、近くに住む武士、芸者や夜鷹までさまざまな人々がやってくる。その中に、かつて長五郎と恋仲だった芸者のみさ吉がいた……。『ひょうたん』の世界から十数年後、待望の続編登場!---データベース---
情にほだされ、傷ついても。心もお腹も満たしておくれ。本所五間堀にある「鳳来堂」。父親の音松が営んでいた古道具屋を、父の死後、息子の長五郎が居(い)酒(ざか)見(み)世(せ)として再開する。朝方まで営業しており、父親の代からの友人である料理茶屋や酒屋の二代目たちや、近くに住む武士、芸者などさまざまな人々がやってくる。かつて長五郎と恋仲だった芸者のみさ吉も舞い戻ってきた。芸者仲間の話によると、彼女の息子である惣助はどうやら長五郎との間にできた子どもらしい……。---出版社の説明---
情にほだされ、傷ついても。心もお腹も満たしておくれ。本所五間堀にある「鳳来堂」。父親の音松が営んでいた古道具屋を、父の死後、息子の長五郎が居(い)酒(ざか)見(み)世(せ)として再開する。朝方まで営業しており、父親の代からの友人である料理茶屋や酒屋の二代目たちや、近くに住む武士、芸者などさまざまな人々がやってくる。かつて長五郎と恋仲だった芸者のみさ吉も舞い戻ってきた。芸者仲間の話によると、彼女の息子である惣助はどうやら長五郎との間にできた子どもらしい……。---出版社の説明---
宇江佐真理さんの単行本としては最新作です。この作品は、前作となる「ひょうたん」を読んでいないとちょいと話の筋が分らなくなるところがあります。作品は小説「宝石」の2010年7月号から2011年10月号まで掲載された6編の連作短編が収録されています。雑誌掲載時の副題が「本所五間堀・鳳来堂」というもので、この作品でもその「鳳来堂」が舞台になっています。しかし、前作の鳳来堂は古道具屋でしたが、この作品ではタイトルの「夜鳴きめし屋」になっています。
各タイトルは独立していますが、最初から最後までを貫いているのは、長五郎とかつて恋仲だった芸者のみさ吉、そしてみさ吉の息子との関係。「もしや、あの息子は俺の子か」という長五郎の疑念、「もし息子だったら・・・」という葛藤などがあり、父親としての感情が知らず知らず湧いてくるストーリーですが、何時もながらのクールなタッチの筆運びの中にもユーモアがちりばめられているという人情話になっています。
♦夜鳴きめし屋
父親の音松が亡くなると、実家に戻り古道具屋を継いだ長五郎でしたが、質屋と古道具屋は似ていても非なるもので商売がたち行かなくなり、居酒見世へと商売替えをしす。当初一緒に見世を切り盛りしていた、料理上手の母親のお鈴も亡くなり、長五郎は28歳になりますが、ひとり身のまま今日も店を続けています。営業時間は夕方6時ごろから翌朝の朝方まで、そんなことで「夜鳴きめし屋」と呼ばれています。或る日、馴染み客のひとりである深川芸者の駒奴から、みさ吉の旦那が死んで、ひとり息子と共に和泉屋に戻った事を聞かされた長五郎は、若かりし頃のほろ苦い思い出が蘇ります。質屋の手代だった頃に惚れた女がみさ吉だったのです。
父親の音松が亡くなると、実家に戻り古道具屋を継いだ長五郎でしたが、質屋と古道具屋は似ていても非なるもので商売がたち行かなくなり、居酒見世へと商売替えをしす。当初一緒に見世を切り盛りしていた、料理上手の母親のお鈴も亡くなり、長五郎は28歳になりますが、ひとり身のまま今日も店を続けています。営業時間は夕方6時ごろから翌朝の朝方まで、そんなことで「夜鳴きめし屋」と呼ばれています。或る日、馴染み客のひとりである深川芸者の駒奴から、みさ吉の旦那が死んで、ひとり息子と共に和泉屋に戻った事を聞かされた長五郎は、若かりし頃のほろ苦い思い出が蘇ります。質屋の手代だった頃に惚れた女がみさ吉だったのです。
♦五間堀の雨
駒奴に貸した提灯を届けに、長松という7、8歳の子が店にやって来ます。母親は和泉屋の芸者なので、晩飯は外で食べるのだといいます。早速その晩、長松は惣助という同じく和泉屋の芸者の子と連れ立ってやって来ます。話の流れから長五郎は、長松がみさ吉の子ではないかと思うのですが、もし一夜限りの契りを結んだみさ吉の子であれば、それぐらいの年になっています。しかも、妾になった旦那は子種が無かったといいます。自分の息子であっても不思議はありません。
駒奴に貸した提灯を届けに、長松という7、8歳の子が店にやって来ます。母親は和泉屋の芸者なので、晩飯は外で食べるのだといいます。早速その晩、長松は惣助という同じく和泉屋の芸者の子と連れ立ってやって来ます。話の流れから長五郎は、長松がみさ吉の子ではないかと思うのですが、もし一夜限りの契りを結んだみさ吉の子であれば、それぐらいの年になっています。しかも、妾になった旦那は子種が無かったといいます。自分の息子であっても不思議はありません。
♦深川贔屓
長松と惣助は三日と開けずに鳳来堂へ通って来ます。子たちの評判を聞いて、増川も駒奴と訪れますが、長吉はその増川の子供だったのです。彼は捨て子で、増川が自分の子供代わりに育てたということを知ります。そして、惣助の方がみさ吉の息子だと知らされます。どうやら二人は長五郎とみさ吉の経緯を承知しているらしいのです。後日、当のみさ吉が「鳳来堂」を尋ねて来ます。その時、長五郎は、みさ吉に惣助が自分の子であるか聞くのですが、久しぶりに会ったというのにみさ吉は死んだ旦那の子だと答えてあっさりといなされてしまいます。何とももどかしい展開ですが、それほど女のあしらい方を知らない長五郎はうろたえます。そんなことで、客である夜鷹の「おしの」にみさ吉のことを相談します。
長松と惣助は三日と開けずに鳳来堂へ通って来ます。子たちの評判を聞いて、増川も駒奴と訪れますが、長吉はその増川の子供だったのです。彼は捨て子で、増川が自分の子供代わりに育てたということを知ります。そして、惣助の方がみさ吉の息子だと知らされます。どうやら二人は長五郎とみさ吉の経緯を承知しているらしいのです。後日、当のみさ吉が「鳳来堂」を尋ねて来ます。その時、長五郎は、みさ吉に惣助が自分の子であるか聞くのですが、久しぶりに会ったというのにみさ吉は死んだ旦那の子だと答えてあっさりといなされてしまいます。何とももどかしい展開ですが、それほど女のあしらい方を知らない長五郎はうろたえます。そんなことで、客である夜鷹の「おしの」にみさ吉のことを相談します。
♦鰯三昧
惣助がひとりで鳳来堂を訪ねてきます。聞けば、長吉は既に幇間に弟子入りし、自身も浅草の質屋菱屋に奉公が決まったと告げます。菱屋は長五郎の伯父の店で、長五郎自身も奉公していた経緯があります。他人とは思えない惣助が奉公するとあって早速、菱屋へ挨拶に出かけます。菱屋も代が替わり今は若内儀となる従兄弟のお菊が養子を迎えています。かつては長五郎にも養子にならないかと話があったほどです。そのお菊から、惣吉が長五郎の父親の音吉に似ていると言われ女の直感の鋭さにたじろぎます。
さて、この小説は舞台が居酒屋ということもあり、各話で当時の庶民の食べ物が出て来ます。ここでは大量に仕入れた鰯を使ってかまぼこを作る件があります。昔は蒲鉾はガマの穂に似ていた形をしていたようで語源はそこに由来します。まあ、今では考えられませんがこの頃は鰯のすり身に卯の花を混ぜて作ったようです。長五郎は大して料理が出来るわけではありませんが、母親から教わった酒の肴ぐらいの料理は一通り出来ます。それほど手の込んだものではないのでやってみようかなという気にさせてくれます。宇江佐真理さんの作品にはこういう手料理が紹介された「卵のふわふわ」という作品もありなかなか蘊蓄があります。
♦ 秋の花
このところ無沙汰の対馬府中藩の中屋敷に務める浦田角右衛門が、吉原の妓を身請けする話を駒奴が聞きつけて来ます。一介の武士が身請けなど聞いた事もない話ですが、当の角右衛門は思い詰めている様子らしいのです。国には妻子がいるのに江戸勤めが長くなると、男とは病気が出るようです。どうも裏で屋敷に出入りしている紙問屋がけしかけている節もあります。ただ、誰も彼に意見出来そうな人物が思い浮かびません。菱屋へ顔を出した帰り、浅草で浦田を見かけた長五郎は声をかけますが浦田は吉原帰りでした。結局長五郎は浦田に意見することになってしまい、怒らせてしまい伸ま。
惣助がひとりで鳳来堂を訪ねてきます。聞けば、長吉は既に幇間に弟子入りし、自身も浅草の質屋菱屋に奉公が決まったと告げます。菱屋は長五郎の伯父の店で、長五郎自身も奉公していた経緯があります。他人とは思えない惣助が奉公するとあって早速、菱屋へ挨拶に出かけます。菱屋も代が替わり今は若内儀となる従兄弟のお菊が養子を迎えています。かつては長五郎にも養子にならないかと話があったほどです。そのお菊から、惣吉が長五郎の父親の音吉に似ていると言われ女の直感の鋭さにたじろぎます。
さて、この小説は舞台が居酒屋ということもあり、各話で当時の庶民の食べ物が出て来ます。ここでは大量に仕入れた鰯を使ってかまぼこを作る件があります。昔は蒲鉾はガマの穂に似ていた形をしていたようで語源はそこに由来します。まあ、今では考えられませんがこの頃は鰯のすり身に卯の花を混ぜて作ったようです。長五郎は大して料理が出来るわけではありませんが、母親から教わった酒の肴ぐらいの料理は一通り出来ます。それほど手の込んだものではないのでやってみようかなという気にさせてくれます。宇江佐真理さんの作品にはこういう手料理が紹介された「卵のふわふわ」という作品もありなかなか蘊蓄があります。
このところ無沙汰の対馬府中藩の中屋敷に務める浦田角右衛門が、吉原の妓を身請けする話を駒奴が聞きつけて来ます。一介の武士が身請けなど聞いた事もない話ですが、当の角右衛門は思い詰めている様子らしいのです。国には妻子がいるのに江戸勤めが長くなると、男とは病気が出るようです。どうも裏で屋敷に出入りしている紙問屋がけしかけている節もあります。ただ、誰も彼に意見出来そうな人物が思い浮かびません。菱屋へ顔を出した帰り、浅草で浦田を見かけた長五郎は声をかけますが浦田は吉原帰りでした。結局長五郎は浦田に意見することになってしまい、怒らせてしまい伸ま。
江戸は火事が多いことでも有名ですが、ここでもみさ吉が身を寄せている「和泉屋」のある北六間堀町にも火が移りそうです。長五郎は心配して駆けつけます。幸いみさ吉は「かまくら」に上がっていて無事でした。しかし、和泉屋は類焼を防ぐために打ち壊しにあっていました。居場所を失ったみさ吉を長五郎は鳳来堂へと促しますが、ここでもすんなりとはいきません。間に「かまくら」の友吉が入ってくれようやく話がまとまります。店に戻ると惣助が心配して来ています。つかの間親子三人の時間が出来ます。しかし、、おしのの無惨な水死体が山城橋の袂に浮かびます。
♦鐘が鳴る
惣助が、菱屋の使いで鳳来堂を尋ねて来ますが、長五郎がお前の父親ではないと否定するとそのまま、行方が知れなくなります。菱屋の使いが来てその事を知り、長五郎はみさ吉のもとへ走りますがそこで、みさ吉が真実を告げていた事を知ります。後手になってしまったのです。長五郎は惣吉の行きそうなところを探しまわり、幇間に弟子入りした長松を尋ねます。はたして、惣助は長松のところに身を寄せていました。長五郎は自ら惣助の父親であることを告げ三人で一緒に暮らそうといいます。みさ吉が長五郎のところへ身を寄せるという言質は取っていました。
惣助が、菱屋の使いで鳳来堂を尋ねて来ますが、長五郎がお前の父親ではないと否定するとそのまま、行方が知れなくなります。菱屋の使いが来てその事を知り、長五郎はみさ吉のもとへ走りますがそこで、みさ吉が真実を告げていた事を知ります。後手になってしまったのです。長五郎は惣吉の行きそうなところを探しまわり、幇間に弟子入りした長松を尋ねます。はたして、惣助は長松のところに身を寄せていました。長五郎は自ら惣助の父親であることを告げ三人で一緒に暮らそうといいます。みさ吉が長五郎のところへ身を寄せるという言質は取っていました。
一方、浦田は晴れて国元へ帰ることが決まります。大晦日の夜はその角右衛門と「鳳来堂」で除夜の鐘を肴に飲みあう事にしています。しかし、長五郎は何時もと心持ちが違いそわそわしています。浦田にもそれが分ります。長五郎は実は女房がいることを浦田に告げます。そんなところにみさ吉は芸者のお座敷の姿で現れます。めっぽう界色っぽいその艶姿に長五郎はうっとりしてしまいます。今夜で芸者は最後のみさ吉の見納めの姿でした。三人で年越し蕎麦を食べていると除夜の鐘が煩悩を振り払うかのように響きます。「鳳来堂」の周りは寺が多くあちこちから鐘が響いてきます。鐘が鳴る、鐘が鳴る、煩悩を除く鐘が鳴る。
シリーズ第一作とは登場人物はがらっと変わりますが、これが宇江佐流の続編のあり方です。まあ、ライフワークの「髪結い伊三次シリーズ」は別として「斬られ権佐」しかり、「春風ぞ吹く」もそうでしたが世代が変わっています。こういう続き物を読むと、つくづく時代は続いているのだなぁと痛感してしまいます。しかし、江戸庶民の心意気はかわっておらず、この作品では最後に長五郎の父親が着ていた芝居の定式幕で拵えた父の形見の半纏が、しっかりと続き物であることを指し示しています。こういうところに下町の人情物を書いたら右に出る者はいない宇江佐さんの真骨頂があります。ぜひとも、先に「ひょうたん」を読むことをお勧めします。