バーンスタイン若き日の名演/マーラー「巨人」 | geezenstacの森

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バーンスタイン若き日の名演
マーラー「巨人」

曲目/マーラー
交響曲第1番「巨人」
1. 第1楽章 Langsam, Schleppend, wie ein Naturlaut - Im Anfang sehr gem??chlich 15:10
2. 第2楽章 Kr??ftig bewegt, doch nicht zu schnell 08:18
3. 第3楽章 Feierlich und gemessen, ohne zu schleppen 10:19
4. 第4楽章 St??rmisch bewegt 18:57

 

指揮/レナード・バーンスタイン
演奏/ニューヨーク・フィルハーモニック

 

録音/1966/10/04,22 リンカーンセンター、ニューヨーク

 

P:ジョン・マックルーア、トーマス・シェパード
E:フレッド・プラウト、エド・ミハイルスキー

 

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 今年3月アマゾンに注文してようやく先日届きました。当初この「マーラー/交響曲全集」は3月21日発売の告知があったのですが、全く違っていました。その時点ではHMVもタワーもこの商品の発売すら予告していなかったので不思議に思っていましたが案の定でした。そして、その2社が6月初め早々に販売を開始したにもかかわらず、アマゾンは中旬と出遅れです。まあ、一つの救いは予約時点では2,171円でしたが、最低価格保証ということで1,999円になっていたことです。更にこの時は2点で10%引きのセールを開催していましたから最終支払い価格は1,799円となりました。少々の遅れは帳消しです。

 

 2011年9月にバーンスタインの「Bernstein Symphony Edition」なる60枚組のセットが発売されていましたが、その中にも勿論このマーラーの交響曲全集は含まれていました。その時、DSDリマスタリングされたものがこの全集でも採用されています。アンドレアス・マイヤーによるもので2009年に行なわれています。「Bernstein Symphony Edition」でも「大地の歌」は含まれていませんでしたが、こちらの全集も交響曲ではないということで含まれていません。ただし、その割には12枚目の交響曲第10番に「亡き子を偲ぶ歌」がカップリングされて収録されています。そして、このセットではレコード発売時のオリジナルジャケットの紙ケースに収録されています。これも、「Bernstein Symphony Edition」に収録されたCDとは違う点です。また、CD自体もそのLP発売当時のデザインで尚かつLP仕様のトラックまで刻んだデザインが採用されていて古いファンには懐かしい限りです。2枚組で発売された交響曲第2、3番なんかはちゃんとした見開きジャケットで、LP1、LP2の刻印もちゃんと変えて印刷されています。更に凝っているのは、虫眼鏡で見ないと確認は難しいのですが、内周にはちゃんと商標権を謳った文言が刻印されています。えらいこだわり様です。

 

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 さて、この交響曲第1番はジャケットの左上に「ニューヨーク・フィルハーモニック125周年」の記念盤であったことが記されています。このマークが着いているものはこの第1番と第6番だけです。このLPの発売は1968年1月で、その年のシーズンが丁度「ニューヨーク・フィルハーモニック125周年」にあたっています。まあ、バーンスタインが全集の中間点でこの第1番を録音したということで、ターニングポイントの1曲と捉えていたのでしょう。余談ですが、武満徹の名曲「ノヴェンバー・ステップス」はこの「ニューヨーク・フィルハーモニック125周年」の委嘱作品でもありました。そして、この曲を初演したのは小沢征爾だったのです。
 
 1967年11月9日、ニューヨーク・リンカーン・センターで、横山勝也(尺八)・鶴田錦史(琵琶)とをソリストに、小澤征爾指揮ニューヨーク・フィルハーモニックにより初演された曲は、空前のセンセーションを巻き起こしたと伝えられています。この日、武満徹は間違いなく「世界の武満」となったといってもいいでしょう。小澤と共にクラシック音楽界で最も有名な日本人芸術家誕生の瞬間であり、小沢がその後この曲を「サイトウキネン音楽祭」の開幕の曲に選んだのは周知の事実です。

 

 1967年当時、マーラーはまだ一般的には知られていませんでした。個人的には、当時のマーラー体験といえば、70年代に入ってからワルターの巨人とクレツキの交響曲第4番しか聴いていません。何しろマーラーの交響曲全集はこのバーンスタインがアブラヴァネルとともに進めていた企画です。当時知られていた「巨人」のレコードはワルター、クレツキ、ロスバウト位しかなかったのではないでしょうか。このCD裏面もきっちり当時のLPの解説がコピーされています。今ではこの4楽章の版が一般的ですが、バーンスタインのこのLPのジャケットにはわざわざ「改訂版」の但し書きがあります。第1稿はブダペスト稿と呼ばれる5楽章の交響詩として作曲されているもので失われています。第2稿は「花の章付き」と呼ばれるこれも5楽章のものです。一般にはその後の第3稿が採用されて一般に流布しています。でも、当時はこれが改訂版だったのですな。なをこの改訂で四管編成に書き換えられ、中でもホルンは4本から7本に増強されています。なを、1967年にマーラー教会から全集版の楽譜が出版されていますが、バーンスタインがその楽譜を先行して使ったかどうかは確認出来ませんでした。

 

 この曲はマーラーの20代最後を飾る交響曲です。そして、この曲を演奏したバーンスタインは当時は40代のバリバリの指揮者です。作曲家としても脂の乗って来た頃で八面六臂の活躍をしていました。そういう意味で、これは当時のバーンスタインを物語るかのように非常に勢いを感じる演奏です。第1楽章からこの曲の持つ「情熱のほとばしり」を感じさせる演奏で、全楽章に渡りテンポの緩急は大きく自由自在に変化し、テンポアップする箇所では、なだれ込むような迫力です。金管をはじめ、木管楽器も緊張感を維持しつつ切れ味のいい音色で常に音楽を前進させています。
 
 この時期ニューヨーク・フィルハーモニックには名手が揃っていました。フルートにはジュリアス・ベイカー、クラリネットのスタンリー・ドラッカー、ホルンのジェームス・チェンバース、トランペットのウィリアム・バッキヤーノなど枚挙にいとまがありません。この録音でも彼らのソロが冴えています。一方、コンマスはこの年、ジョン・コリリアーノからデイヴィッド・ネイディアンに変わったばかりです。そんなことで、弦のアンサンブルにはちょっと荒さが伺えるのではないでしょうか。

 

 録音の直前の1966年9月29、30日の定期演奏会でこの曲を取り上げています。それ以前にも、ツァーで9月13日から25日にかけて都合9回のコンサートでも取り上げています。そしてこの録音に望んだのでしょうが、何時ものバーンスタインと違って一発録りで決めることは出来なかったようで10月22日に追加録音を行なっています。多分満足のいかなかった部分が有ったのでしょうな。まあ、それだけ力が入った録音ということもいえましょう。当初国内盤は1968年4月に日本コロンビアからOS980として発売されました。そしてレコ芸では推薦盤になっています。この年の7月には全曲が全集(OS2011-24)として発売され、こちらも推薦盤になっています。その時の評は、以下のものでした。

『バーンスタインはこの曲を非常に緻密に、一音一句かみしめるようにくりひろげていく。劇的緊張感と愛情とをこれだけのおゆとりのある大きな波を持って表現し得た彼の洞察は非常に高く評さねばならない。バーンスタインは19世紀の満ちあふれたソノリティに、明晰でかつ鋭い20世紀の感覚と神経を注ぎ込んで、マーラーを現代に生かしている。』
 

 

 

 多分、この時の批評は大木正興氏だと思いますが、的確な批評です。ワルターのマーラーはマーラー直系だということもあって、多分に19世紀的なマイルドな演奏であったと記憶していますが、バーンスタインは直情型でメリハリの利いた切れ味の鋭い解釈でワルターのマーラーとは一線を画しています。多分、この演奏を当時聴いていたらワルターの演奏に洗脳されていて、とても受け入れがたいものだったと考えます。現在では多様なマーラーの演奏が氾濫していますから、この演奏を聴いて拒否反応を起こすことはありませんし、今となってはテンポの揺らし方なんかについてはいかにも時代を感じさせるなぁという感想になってしまいます。

 

 しかしこの解釈、晩年の遅い演奏になる前のフレッシュなバーンスタインは、その後のマーラー演奏の試金石としてターニングポイントになったものでしょう。70年代に入ると俄然とマーラーブームが起こって著名な指揮者がこぞって録音しだします。

 

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     交響曲全集のボックスデザイン

 

 何時もいわれるように、バーンスタインの演奏は没入型の典型的なものでしょう。しかし、ここには同郷のユダヤ人としての血が流れていて爆演の一歩手前で押し留まっています。これは多分22日に追加収録した成果なんでしょう。最初に残したマーラーの全集の足跡、ここにはしっかりと作曲家としての分別と指揮者としての構成力がバランス良く調和し、新しいマーラー像を確立しているといえます。晩年、セッションではコンセルトヘボウ、映像ではウィーンフィルなんかとの再録音があり、どうもこのニューヨークフィルとの演奏が霞んでしまっていた時期がありますが、個人的にはこの若き日のバーンスタインの「巨人」の方が好きです。YouTubeには晩年のコンセルトヘボウやウィーンフィルとの録音しかアップされていない様なので、このニューヨークフィルの演奏をアップしておきます。演奏は個人的には多分この楽章を追加収録したのではと思う第2楽章です。の2楽章は特徴的で他の指揮者は7分台で演奏していますがバーンスタインは8分以上かけて演奏しています。