ツァハリアスのモーツァルト | geezenstacの森

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ツァハリアスのモーツァルト

曲目/モーツァルト
Piano Concerto #20 In D Minor, K 466
1. Allegro 13:19
2. Romance 8:20
3. Allegro Assai 7:30
Mozart: Piano Concerto #22 In E Flat, K 482*
4. Allegro 13:36
5. Andante 9:02
6. Allegro, Andante Cantabile, Allegro 12:20

 

ピアノ/クリスチャン・ツァハリアス
指揮/ダヴィッド・ジンマン
演奏/バイエルン放送交響楽団
  ドレスデン国立歌劇場管弦楽団*

 

録音/1989/04/18-21 ヘレクレスザール、ミュンヘン
   1985/06/25-28 ドレスデン、ルカ教会
P:ゲルト・ベルク、テオドール・ホルライザー
 ゲルト・ベルク、ヘインツ・ウェグナー*
E:ゲルハルト・フォン・ノベルスドルフ
 ホルスト・クンツ*

 

独EMI 5099908710123 4

 

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 以前クリスチャン・ツァハリスを取り上げたのは1年ほど前です。それにしても、彼は日本では人気が無いようですね。この記事を書こうとネットを検索しても、小生の以前のブログ記事が第2位で検索されるほどですから・・・(^▽^;。でもって、「検索スパイシー」で引っかかる内容も、小生のブログの記事でした。このクリスチャン・ツァハリアス氏。2008年には指揮者として来日し、「ラ・フォル・ジュルネ」に登場していましたから見聴きはしているはずです。なんで、こんなにも不人気なんでしょう。EMIも日本では殆ど彼のCDを発売してこなかったことも原因なんでしょう。調べた限りではEMIの国内現役盤はオムニバス盤以外ゼロです。個人的には、ツァハリアスは好きです。他のビアニストには無い斬新な解釈は聴いていて新しい発見があります。決して最初に聴くピアニストではありませんが、凡百の演奏を聴くより刺激的で思わず耳をそばだてて聴いてしまいます。

 

 そんなわけでドイツではカリスマ的な人気を誇るピアニストですが、日本では残念ながらキワモノ扱いとしか捉えられていないようです。今年に入って、EMIの廉価ボックスの中に彼のモーツァルトのピアノ協奏曲全集とソナタ全集が発売されましたが、誰も取り上げていない様なので今回取り上げることにしました。今回はピアノ協奏曲全集の中から20番が収録されたものです。れにしても、このピアノ協奏曲全集、豪華です。何がって、サポートするバックが尋常ではありません。何しろ指揮者では、ここで登場するダヴィッド・ジンマンをはじめ、ネヴィル・マリナー、ギュンター・ヴァント、イェジー・マクシミウクが分担してサポートしています。これだけの指揮者をバックに演奏することだけでも凄いと思います。さらに、この全集の特徴は、単にピアノ協奏曲だけを収録するのではなく、2台のピアノのためのソナタK.448も合わせて収録しているのです。これ、たった3小節で間違える「のだめカンタービレ」で一躍知られるようになった曲ですからね。

 

 さあ、第20番です。この曲はモーツァルトの最初の短調で書かれたピアノ協奏曲としてもつとに有名です。第1楽章の低音域でうごめく暗く悲劇的な主題で開始されることから、さぞ重厚な演奏を期待してしまいますが、これがさもありなんで、あっさり淡白に演奏されてしまいます。バックハウスやゼルキンらの演奏を聴き慣れている人はまるで肩すかしを喰ってしまうことでしょう。こういう掴みですから、最初から拒否反応を起こしてしまう人も多いのではないでしょうか。それでもって、速いテンポでぐいぐい音楽が邁進していきます。多くのピアニストが14分以上かけてじっくり演奏するこの楽章をツァハリアスは13分ちょいで駆け抜けていきます。まるで悲劇性を無視した様な解釈ですが、この疾走感のあるテンポはある意味痛快です。まるで、グレングールドがK.331を超スローテンポで演奏したのと真逆の行き方です。

 

 この曲はベートーヴェンやブラームスが愛した曲でカデンツァを残していることでも知られていますが、ここではツァハリアスは自作のカデンツァを披露しています。その演奏を聴いてみましょう。

 


 でもって第2楽章のロマンツェでは、自由に装飾音を入れまくっています。最近は古典派の時代の作品でも結構装飾音を入れる演奏が増えて来ましたが、モダンピアノでそういうことをやるって言うのも珍しいでしょう。まあ、モーツァルトの時代でもこういうことは日常的に行われていたことは知られていますからさもありなんです。でも、全うなピアニストの演奏とは違いますから面喰らいますわな。要はカデンツァの延長と捉えれば良いのでしょう。

 

 驚きはこの後の第3楽章がピークです。何がびっくりかはまず聴いてみて下さい。

 

 

 開いた口が塞がらないというのはこういうことを言うのでしょう。初め聴いた時には何が起こったのか全く理解出来ませんでした。突然CDプレーヤーが壊れたのかなとびっくりしたものです。しかし、何度リピートを聴いても同じ音がします。これは不良CDだ!と思ったぐらいです。最近粗製濫造気味でそういう商品が多いですからね。でも、これはまっとうなツァハリアスのモーツァルトでした。つたない情報をたぐって調べてみると、このカデンツァの前の突然の和音はなんでも、オペラ「ドン・ジョヴァンニ」の冒頭の和音をSPレコードで流しているらしいのです。ちなみにスペアナで確認するとこの部分だけ左右同音型でモノラルであることが分ります。こういう仕掛け、そういえば彼の演奏では「トルコ行進曲」でも最後にシンバルを入れるというパフォーマンスをしていましたわな。実演ではこんなことは不可能ですから、セッション録音だけの仕掛けといってもいいでしょう。それにしても、ジンマンまでがこういうパフォーマンスに付き合っているのですから大したものです。まあ、この後ジンマンはチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団とベートーヴェンでブレイクするわけですから、そういう目は以外とこんな処にあったのかもしれません。

 

 さて、この全集は録音会場もいろいろなところが用いられています。20番はヘレクレス・ザールでしたが、クレジットを見ると22番の録音の方は音響の素晴らしいドレスデンのルカ教会です。聴いていてもその違いがしっかりと聴き取れます。指揮者は同じでも、バックのオーケストラや録音会場の違いで、こうも違いが生じるのかという印象を感じます。どちらかというと、22番の方がピアノの音の残響が豊かでオーケストラの音と一体感があります。ただ、音の粒立ちという点では20番の方がキラキラしています。

 

 

 ツァハリアスの方向性は一緒で、こちらも装飾音を付加した変化球の演奏ですから好みは別れるところでしょう。こちらの方が録音が4年ほど前なので幾分表現はおとなしく感じられます。でも、普通のモーツァルトのピアノ協奏曲を聴き飽きた人にとっては刺激的な演奏であることには違いありません。機会があったら取り上げることにしますが、このツァハリアスの全集、第26番「戴冠式」のカデンツァでもオルゴールと競演するなど、こちらも期待に違わない斬新な演奏になっています。