ビートルズの幽霊 | geezenstacの森

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ビートルズの幽霊

著者 葉山 葉
発行 ワニブックス

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 愛すべき反骨のロック王者ジョン・レノン。その壮絶な生涯を追って世界9カ国へ―ビートルズが熱く生きた街々で知られざる逸話が彼らの息づかいとともにあのジョンがビートルズが今甦る―。「もし、ジョンが生きていたら、作家になっていたかも…」。リバプールのホテルのバーで交わされた意味深長な会話からストーリーは始まる。
 デビュー前のハングリーなジョンたちが繰り広げた知られざる行状、ヒット曲連発後のワールドツアーで味わった栄光と挫折、ビートルズ解散後にメンバーが遭遇する運命のいたずら、ジョンを狙う暗殺者の行動を追った戦慄のラストシーン…。3年の年月をかけて世界9カ国にビートルズの足跡を追ったドキュメント・トラベルストーリー。---データベース---

 ザ・ビートルズにとって特別な2010年は、ジョン・レノンにとってもメモリアルな年。 1940年10月9日の誕生から70年、1980年12月8日に暗殺されてからちょうど30年なのでした。この本は、その2010も年も押し迫った12月8日にこだわって出版されています。そういうことで、タイトルも、「ビートルズの幽霊」なんて名前になったんでしょうなぁ。個人的には決してビートルズフリークではないので、ビートルズのオリジナルLPもCDもほとんど持ってはいません。同年代でありながら、何時も蚊帳の外にいたというのが正しいでしょう。でも、不思議なことに縁は感じます。ビートルズの映画で未だにDVD化もされていない「レット・イット・ビー」もリアルタイムで劇場で見ています。現在では、「ゲット・バック」のライブ・シーンだけがこの映画から独立してビデオ化されていますね。

 そんなことで、映画からビートルズに入ったといっても言いでしょう。「イエロー・サブマリン」や「ヘルプ!4人はアイドル」なんかは今でもレーザーディスクで所有していますが、公式アルバムは「レット・イット・ビー」しか持っていません。そういう乏しい体験しかビートルズに関しては持っていないので、この本は新鮮に思えました。ただ、ファンからすれば小説ではないし、かといってルポルタージュではないし、ドキュメントではないしと言った中途半端な構成で不満が残るんではないでしょうかね。

 形的には、ビートルズ所縁の地を巡り、そこで、当時のビートルズの幽霊(当時の彼ら)に出会っていくという私小説か、ビートルズの伝記か、旅行記か、それらのMIXか、不思議な形の本となっています。勿論冒頭はビートルズの出身地でもあるイギリスはリヴァプールから始まります。ここでは、パブで一人の大学教授に出会うシーンから始まります。それが、冒頭の「もし、ジョンが生きていたら、作家になっていたかも…」という言葉になり、旅行記からタイムスリップしてジョンの学生時代にタイムスリップしていきます。ファンなら当然知っている様な「ストロベリー・フィールズ」がリヴァプールにある戦争孤児院"Strawberry Field"をモチーフにした作品であること、また、「ペニーレイン」は現在では通りの名前になっていますが、本来は奴隷商人の名前なのだそうでそういうことを知ってか知らずか、ポールの曲は美しいメロディで綴られています。

 現地に足を運んでの、現在との対比の中でストーリーは過去のビートルズを語っていきます。ハンブルグでの辛い思い出も、そこで出会った人々のサポートがあってこそ訪問が数度に及んだことが細かく記されていきます。そこには決してビートルズの輝かしい部分だけではなく、汚点として記録されていることも取り上げられていきます。とりわけ当事者だった、ホルスト・フィッシャー(トランぺッターのホルスト・フィッシャーとは違うだろうなぁ?)の口から語られる話しは生々しいものがあります。

 そして、デビューのきっかけとなるマネージャーのブライアン・エプスタインとの出会いとロンドンへの進出。デッカには見放されたもののEMIのジョージ・マーティンに見いだされたビートルズはスター街道まっしぐらに突き進んでいきます。そこにはハンブルグ時代の尖った先鋒的なビートルズではなく、きっちりマネージメントされたビートルズはエプスタインの庇護のもと作り出されたビートルズへと変貌させられています。しかし、これこそがスターというものでしょう。今思えば頭はマッシュルームカットですが、服装はちゃんとネクタイを締めたジャケット姿で、さすが英国のグループだということを納得させられます。

 ビートルズの幽霊というタイトルながら、ストーリーはジョン・レノンに焦点が絞られています。最初の妻のシンシアとの出会いは好意的に描かれています。そして、彼らが住んだヒースロー空港にほど近いウェイ・ブリッジにあるケンウッド邸へ作者は出かけていきます。ここはトム・ジョーンズやクリフ・リチャードが住んでいた高級住宅地です。本来なら守衛がいて門前払いを喰らうのが当たり前の場所ですが、ちょうど工事中ということで、不動産業者を装って大胆にも侵入してしまいます。ここら辺はドキュメントタッチでなかなか面白いです。その邸内を見て回りながらフラっシュ・バック的にジョンとシンシア、そして息子のジュリアンのことが語られていきます。

 そして、シンシアとの破局は小野ヨーコがジョンに接近したことで現実となってしまいます。今では悪女としての刺々しさが薄れたヨーコですが、ここでは憎しみを込めて彼女のことが書き散らかされています。まあ、映画の「レット・イット・ビー」の中でもスタジオの中でジョンに寄り添うように振る舞うシーンが登場し、うっとうしく感じられたのがまざまざと蘇って来ます。映画はドキュメントタッチで描かれていますから、他のメンバーから疎ましい存在だったこと、これが原因でビートルズが解散に突き進んでいることがまざまざと分かります。

 ビートルズを解散したジョンはニューヨークに移り住みます。それも、最初はヨーコが最初の夫である一柳慧(いちやなぎとし)氏と過ごしたグリニッジビレッジのアパートに住むのです。まあ、ヨーコの策略でしょうね。ここを拠点にレノンは麻所持で通常よりも重い10年間の禁固刑をうけた反体制活動家ジョン・シンクレアの救済コンサートへの出演、アッティカ刑務所の入所者家族のための慈善コンサートに出演するなどして反戦活動家と行動を供にしていきます。最終的にはニューヨークはダコタ・アパートの最上階に住むことになります。ここには一時、レナード・バーンスタインも住んでいたことがあります。

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                         ダコタアパート

 ラストではジョン・レノンを射殺したマーク・チャップマンが登場します。彼が殺害時に持っていたのはサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」というペーパーバックで、彼はその本に、「これが僕のいい分である」と記しています。このジョン・レノンの暗殺シーンは清水義範氏の「イマジン」にも描かれています。

 なかなか良く書けているジョン・レノンストーリーですが、せっかくルポルタージュ形式で書いているのですから最後も冒頭に登場した大学教授を登場させて締めくくるという形の方が形的には纏まったように思います。実名は登場しませんが、リヴァプールにあるホープ大学の教授のようです。他の記事でマイク・ブロッケン博士だとわかりましたが、彼がビートルズ講座というものを開設しています。なんでも、この講座の受講希望者は全世界で100名以上いた様なのですが、試験があり、最終的に受講出来たのは14名だったとか。そもそも受講資格は、芸術・人類学の分野で大学修士課程を修了していること、音楽ビジネスの経験があることなんだそうです。結構厳しいわ。最後は、ジョンのラストアルバとなった「ダブルファンタジー」から「スターティング・オーバー」でも聴いてみましょうか。