文五捕物絵図

「文五捕物絵図」というドラマを記憶されている方は相当のご年配の方でしょう。何しろ1967年から、NHKテレビ(後8・0)で約1年半にわたって週に1回放送された作品です。このドラマが小生の時代劇の原点になっているといっても良いでしょう。その以前でも、「隠密剣士」(1962-1965)がありましたし、古くは「白馬童子」(1960)、「崑ちゃんのとんま天狗(1959)」なんかもありましたがいわゆるヒーローもので主人公だけが目立つというストーリーでした。ところがこの「文五捕物絵図」は一応主人公は文吾なんですが、一人で事件を解決する訳ではなく、集団での捜査をメインにして描いていました。そういう点ではリアリティがアルドラマだったんですな。当時は、この番組と「ブリズナーNO.6」というイギリスドラマが一番好きでした。ともにNHKで放送されていたんです。今ではとても考えられない斬新さでした。
斬新といえばこのドラマ、演出は和田勉でした。和田勉は、このドラマで、名実ともに演出家・和田勉として認められたといっても過言ではないでしょう。原作は何を隠そう松本清張で、杉山義法、倉本聰、佐々木守、といったそうそうたるメンバーが脚本を書いていました。
何といってもこの作品の特色は、松本清張の現代小説を時代劇に翻案したという点でしょう。大元は「紅刷り江戸噂」という松本清張の時代劇作品なんですが、それにプラスして、彼の代表作である「張り込み」や「ゼロの焦点」なんかのプロットを利用して時代劇にしていました。
和田勉氏によると、清張の現代小説は思想的な面で刺激が強すぎて、当時のNHKではドラマ化がしづらいという背景があり、それならば時代劇の形を借りて──ということで企画されたのだということです。主人公の岡っ引きの文五(杉良太郎)の下に手下五人を配置し、そこには丑吉(露口茂)を筆頭として、与之助(東京ぼん太)などもいました。いってみれば当時TBSで放送されていた「七人の刑事」の時代劇版といえない事もありません。残念なことに…そのフィルムは、現在たった1本しか残っていないそうですが、その現存する貴重なストーリーは「第12話・武州糸くり唄」だそうです。時々時代劇専門ちゃんネルで放送される事があるようです。今日のバックにはそのテーマソングが流れています。いわゆるサントラですね。
当初主演には竹脇無我を予定したそうですが松竹に断られ、一度は栗塚旭に決定しかけたのですが、スケジュール調整がつかないということで流れてしまっています。そこに他の役で出演が決まっていた杉良太郎を主役にしてはどうかという意見が出され、当時はまだ売れない歌手だった杉が、主役が決まっていないと聞き「自分にやらせてくれ」と申し出たところ、演出の和田勉があっさりとOKを出したということです。まあ、これには裏があり、元々プロデューサーの合川明は新人を主役にして金をかけないで、ヒット番組を作りたいと思っていたことや、杉自身は歌手に未練があったが、所属事務所サイドでは、俳優なら売れるのではという思惑があったということもあるようです。
ところで、お聴きのように冨田勲の音楽は時代劇らしからぬ軽快なリズムを刻みます。オリジナルの演奏は、コンセール・レニエが演奏していました。下がその音源が含まれる映像です。
さて、オリジナルは勿論モノラルですが、これを東京交響楽団が演奏したCDが発売されています。以前に紹介していますが、今回はその演奏で思いっきり聴いてみましょう。なを、当然この作品は冨田勳がオーケストラアレンジを担当しています。なをこの「文五捕物絵図」はCDでは「文吾捕物絵図」と表記されていますが、NHKでは「文五捕物絵図」と表記しています。