梟の城 | geezenstacの森

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梟の城

著者 司馬遼太郎
発行 新潮社 新潮文庫

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 織田信長によって一族を惨殺された怨念と、忍者としての生きがいをかけて豊臣秀吉暗殺をねらう伊賀者、葛籠重蔵。その相弟子で、忍者の道を捨てて仕官をし、伊賀を売り、重蔵を捕らえることに出世の方途と求める風間五平。戦国末期の権力争いを背景に、二人の伊賀者の対照的な生きざまを通して、かげろうのごとき忍者の実像を活写し、歴史小説に新しい時代を画した直木賞受賞作品。---データベース---

 解説によると司馬遼太郎の最初の長編小説という事のようです。仏教系の中外日報に連載されたという事ですが、色仕掛けが絡む中々の内容でよくぞ続いたものだと思います。しかし、世に出てみれば第42回直木賞直木賞を受賞する傑作となり、はた又は忍者ブームを先取りする小説となったということでは画期的な作品といえるでしょう。ただ、発表されたのは昭和34年という事で、その後改訂されているとはいえかなり文体としては古く、読みにくい漢字も多いので今の学生はちょっと読むのに手こずるのではないでしょうか。

 伊賀忍者の葛籠重蔵、風間五平、木さる。そして謎の女・小萩。それぞれの思惑が入り乱れる忍びを主人公とした小説です。多分この主人公の葛籠重蔵は名字が読めないのではないでしょうか。ツヅラと読みます。今はツヅラは葛篭と書きますからね。さて、舞台となるのは、秀吉の晩年です。冒頭は下柘植次郎左衛門が葛籠重蔵に会うところから始まります。ここで伊賀忍者の歴史に触れていきます。織田信長が登場し、伊賀天正の乱で伊賀忍者が壊滅させられた歴史が語られていきます。さすが、「鳴かぬなら鳴かせてみようホトトギス」といわれた信長です。殺戮戦を展開して地歩を固めた訳ですな。そういえば信長は比叡山焼き討ちもやっていますからね。かなり強引だった事が分かります。こういう歴史的背景に乗っ取ってこのストーリーは進んで行きます。

 ストーリーは葛籠重蔵かせ秀吉を暗殺すべく動き回るというのが骨子ですが、ここに女の「くノ一」が絡んできます。これが一筋縄ではいかないほど敵になったり味方になったりとコロコロ態度を変えるのですからまさにハラハラドキドキのストーリーです。しかも、伊賀と甲賀が入り乱れて登場して来ます。ここに堺商人の今井宗久が絡んでくるところがこの小説のミソですね。そういう意味ではなかなか原作は面白く描かれています。不思議なのは甲賀忍者は一体で動いているのに、伊賀忍者はどうも統率がとれていない様なところがある点です。まあここでは、伊賀の忍びは単独で仕事に当たり、自らの欲望に忠実であるとしています。対比されるのは甲賀の忍びは、集団で仕事に当たり、忠誠心が高いと描かれていきます。まあ、方々の小説でこうした設定が多く、本書もそれにならっているといっていいでしょう。

 さて、伊賀の地侍は寿永四年、壇ノ浦で敗走した平家の後裔だそうです。このなかに伊賀平左衛門慰家長というものがあり、源氏の世になって伊賀の奥地でひっそりと暮らします。服部ノ庄に住んでいたのが服部党といい、柘植に住んでいたのが柘植党となったそうです。そして、対比される甲賀は源平藤橘の様々な族姓をもつ家に分かれており、頭立つ家がない。そのため、甲賀五十三家と呼ばれる家の合議で裁断していたことがしられています。ここら辺の事は、下記を参照下さい。


 原作が新聞小説という事で、間尺的に中間部がやや膨らまされており、やや冗長な展開になっている事は否めません。師匠に当る下柘植次郎左衛門がなぜ京と伊賀を姿を変えて行き来するのか理由はぼやけていますし、そもそもそんな行動をとるなら自分が伊賀忍者の指揮をとればいいものをと思ってしまいます。途中であっさり殺されるのも不思議な感じです。ただ、クライマックスの展開は息をもつかせぬ描写で、特に重蔵が甲賀の摩利支天洞玄に復讐する辺りからは壮絶な忍者戦になり、ハードボイルド的な展開です。そして、最後の伏見城への侵入。風間五平の尾行を知りながらもそれをかわしつつ秀吉のもとへ参上する出際の描写は見事です。

「重蔵が考える秀吉は、ふしぎな運の恵まれ方をした」という言葉の中に、卑賤に生まれながらに天下人に成り上がった秀吉に対する、尊敬とも不思議さをも含んだ気持ちが察せられます。秀吉のあまりに年老いた姿に、重蔵は暗殺を止めます。このとき、十蔵の忍者としての戦いは終了します。小説ではこの後の展開は、がらりと様子を変えていきます。いつの間にか重蔵を追っていた風間五平は石川五右衛門となっています。いゃあ、ここに釜湯での五右衛門が登場するとは思いもしませんでしたが、この結末、まさに忍者に化粧されたようでけっこうツボを得ています。

 さて、この作品、1963年と1999年に映画化されています。後者は篠田正浩監督の作品で、複雑なストーリーを上手い脚本で纏めています。一部登場人物の殺され方が原作とは違っていますが、骨格は徳川家康と服部半蔵まで出てくるので映画の方が分かりやすい様な気がします。ただ、原作を読んでから映画を見た方が作品としてはよく理解出来るでしょう。映画化された「梟の城」は下記で鑑賞出来ます。



 この本、戦国武将に興味のある人にはお勧めの一冊です。