カラヤン/オーケストラ作品集2 | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

カラヤン/オーケストラ作品集
2
曲目/
1.Tchaikovsky: 1812 Overture, Op. 49 17:22
 1958/01/07,02/06 キングスウェイ・ホール、ロンドン
2.Mendelssohn: The Hebrides Overture, "Fingal's Cave" 10:17
 1960/09/16-19 グリュンネヴァルト教会、ベルリン
3.Suppé: Leichte Kavallerie - Overture 7:14
 1960/09/21 キングスウェイ・ホール、ロンドン
4.Offenbach: Orpheus In The Underworld - Overture 9:42
 1960/09/23 キングスウェイ・ホール、ロンドン
5.Berlioz: Le Carnaval Romain Overture, Op. 9 9:18
 1958/01/09 キングスウェイ・ホール、ロンドン
6.Respighi: The Pines Of Rome 22:46
 1958/01/10,13 キングスウェイ・ホール、ロンドン

 

指揮/ヘルベルト・フオン・カラヤン
演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2
  フィルハーモニア管弦楽団 1,3-6 

 

P:ヴァルター・レッグ
E:ホルスト・リントナー、フリッツ・ガンス

 

Disky ROY6474

 

イメージ 1

 

 CD初期にEMIがDiskyにライセンスしたカラヤンのオーケストラピースの一枚です。マスタリングはEMIが1988年に行っています。購入時は、廉価盤扱いでしたがCDケースはこのシリーズ用にプラケースは「Royal Classics」の刻印と王冠が印刷されていて高級感があります。オランダプレス盤でEMIのステレオ初期の名盤が90枚ほどのシリーズで発売されていました。コンピュレーション物のハシリでしょうか、ここでも76分以上収録されています。CPは高いですね。所有していることもすっかり忘れていました。

 

 これらはカラヤンのディスコグラフィを見ても本当にステレオ初期だということが分かります。カラヤンのステレオ録音は1955年5月頃から実験的に始まっていますが、本格的に全面ステレオになるのは1957年5月ぐらいからです。この頃には既にベルリンフィルの常任指揮者になることが決まっていて、フィルハーモニアとのコンビはそろそろ終焉に向かっています。平行してEMIはカラヤンとベルリンフィルとの録音をはじめていますが、要はEMIからDGGへ移るための手切れ金みたいな形でのセッションであったようです。

 

 このCDに収録されている冒頭のチャイコフスキーの「1812年」は後のベルリンフィルとの再録音物とは違い冒頭の合唱は収録されてはいません。そういう意味では正当な唯一のセッション録音ということになります。このフィルハーモニアとの録音は録音専用のオーケストラだったこともあり、まさにカラヤンの手兵でした。そんなことで、カラヤンは自分の主張をとことん貫き通す演奏をしています。驚くのはこの時代のカラヤンはまだまだフルトヴェングラーの亡霊に染まっているかのように大胆にテンポを動かしていることです。ロシアの主題が奏される部分なんかは、とことんテンポを落として思いっきりロマンティックな表情を作り出しています。カラヤン自身はトスカニーニに私淑していたことがあちこちに書かれていますが、こういう演奏を聴く限り、とても、そんなようには伺えません。そういう意味ではベルリンフィルとの再録よりも別のカラヤンを汁という意味ではこのフィルハーモニアとの録音の方が面白いかもしれません。また、この1988年のマスタリングは結構成功している方で、今聴いてもテープヒスなどはあまり感じられず、EMI録音のもこもこした音の曇りも感じなくて、以外と馬力のある録音がなされていることに気がつかされます。実はこのマスタリングは2008年のカラヤンコンプリート・レコーディングでもそのまま採用されています。この演奏でも最後の大砲の音などかなりド派手に収録されていてEMIもなかなかやるじゃん、という印象です。

 

 2曲目はベルリンフィルとの「フィンガルの洞窟」です。録音会場はEMIはグリュンネヴァルト教会、既に始まっていたDGとはイエス・キリスト教会と棲み分けが出来ています。グリュンネヴァルト教会はベルリンの南西にありフルトヴェングラー通りとヴェルナー通りの交差点近くにあり、高速道路のアウトバーンも近いところから録音会場としては使えなくなったんでしょうな。DGのイエス・キリスト教会はそれよりもやや南に下ったところにあり、静閑な住宅街の一角にあります。ここも美しい響きで収録されています。

 

 このベルリンフィルとの録音は最初の物で、後のDG盤に比べるとややテンポは速いのですが基本的な構造は変わっていません。もともと、メンデルスゾーンはそんなに頻繁に録音していないカラヤンに取っては珍しいレパートリーといえるでしょう。DGの新録があるためにこのEMIの録音はあまり日の目を見ていません。そんな忘れ去られた演奏ですが、骨太のどっしりしたサウンドに支えられて、この新しいコンビのベルリンフィルから実に瑞々しい響きを引き出しています。例によって中間部はテンポを落としてじっくりメロディを歌わせていますが、こういう小曲にも手を抜かないカラヤンの技巧達者なところを充分見せつけています。多分表情付けは71年録音よりも濃いのではないでしょうか。カラヤンがデッカ、DGそしてEMIとヨーロッパ三大レーベルに君臨していた往時の帝王としての貫禄の片鱗を伺い知ることが出来ます。

 

 

 この後に収録されている曲もフィルハーモニア管弦楽団時代の演奏はほとんど忘れ去られています。最近でこそ、生誕100年の時にEMIがこぞってCD化をしましたが、単発では発売される機会はほとんどないといっても言いでしょう。スッペの「軽騎兵序曲」もDGの「ロッシーニ、スッペ序曲集」があまりにも有名なので、こちらの方は忘れさられています。さらにフィルハーモニアとはモノでも1955年に録音していますから、何をや言わんです。フィルハーモニアはベルリンフィルに対抗してか、かなり力の入った演奏を展開しています。この頃には録音専用という訳でなくコンサートもこなしていましたから、実力的にも力を付けています。個人的にはDGの録音の方がやや鈍重なイメージがするので、新鮮な気持ちで聴くことが出来ました。これは続くオッフェンバックの「天国と地獄」にも言えます。

 

 1955年にモノ録音しながら、1960年に再録音です。レッグはステレオ初期には懐疑的だったこの録音方式をこの時になって失敗したと思ったのではないでしょうか。モノで録音した「プロムナード・コンサート」と題されたアルバムをそっくりそのままステレオで再録しているところからもそれが伺われます。ましてや、これがカラヤンとフィルハーモニア管弦楽団との最後のセッション録音です。そういう思い入れのある録音のせいか、カラヤンはこの曲をデジタル時代の1980年になるまで再録音しませんでした。そういう意味では、この録音はカラヤンに取って充分満足の出来る物であったことが伺い知れます。

 

 

 ベルリオーズの「ローマの謝肉祭」序曲はこのアルバムを聴くまでカラヤンにこんなレコーディングがあること自体知りませんでした。そういう意味では貴重な録音です。もともと、カラヤンはあまりベルリオーズを録音していません。《ファウストの劫罰》作品24のラコッツイ行進曲や妖精の踊り、歌劇《トロイ人》より〈王の狩りと嵐〉(第2部第4幕間奏曲)ぐらいなもんです。どういうものか、この録音だけはやや音がしょぼいのが気になりました。

 

 最後はレスピーギの「ローマの松」です。カラヤンは「ローマの松」だけは2回録音していますが、「ローマの祭り」だけは録音しませんでした。そんなことで、」ローマ三部作」は完成していません。何でも屋の印象のあるカラヤンですが、結構こだわりはあるようです。そういえばストラヴィンスキーの3部作も「春の祭典」だけで「火の鳥」も「ペトルーシカ」も録音していません。不思議です。この録音、ダイナミックレンジを広く取っているのか最後の盛り上がりに焦点を合わせているのか、全体に録音レベルが低くて他の曲とのバランスが取れていないのが惜しまれます。84年の来日時にはこの曲を実演しているということは、十八番の一曲なのでしょうが、この最初の録音はやや慎重になりすぎたのかもしれません。それでも、クライマックスに向けての音楽作りの上手さはさすがです。後のベルリンフィルとの演奏でもカラヤンはこの曲のピアニッシモをかなり忠実に演奏させていますから、これはオーケストラとの信頼関係でこういう表現を取っているのでしょう。この演奏、ある意味デッカに録音したホルストの「惑星」のように当時としては衝撃的な録音であったように思います。その演奏を最後に聴いてみましょう。