ペシェクの新世界 | geezenstacの森

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ペシェクの新世界

曲目/
ドヴォルザーク/交響曲 第9番 ホ短調 「新世界より」 Op.95
1. Adagio, Allegro Molto 11:09
2. Largo 10:20
3. Molto Vivace 7:33
4. Allegro Con Fuoco 10:58
ドヴォルザーク/アメリカ組曲イ長調Op. 98b:
5.Andante con moto 4:26
6.Allegro 3:54
7. Moderato (alla Pollaca) 4:25
8. Andante 3:42
9.Allegro 3:17
10.スメタナ/交響詩「モルダウ」 T 111 10:56

 

指揮/リボル・ペシェク
演奏/プラハ交響楽団

 

録音/2000

 

sony essential masterworks 88697643032

 

イメージ 1

 

 ペシェクは1980年代にバージン・レーベルにドヴォルザークの交響曲全集を録音しています。また、2004年にはチェコ・ナショナル交響楽団とビクターに交響曲第8、9番をカップリングして録音(VICC-60449)しています。その彼がさらにそれとは別に新世界を録音していたということは耳にしていなかったので、この録音の存在を耳にした時には訝しく思いました。それも、ドイツソニーからだけ発売されていますし、いきなり新譜で廉価盤扱いというのも解せません。ペシェクは海賊盤全盛期にBELLA MUSICA(原盤は悪名高いPILZか?)からスロヴァキア・フィルと新世界を録音したものが発売されていますから、その音源と一緒なのかとも思いましたが、演奏時間を調べると全く違います。ということは、ペシェクはこの「新世界から」を4度も録音していることになります。興味があるので演奏時間を調べてみました。

 

演奏者 第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章
スロヴァキア・フィル/1982 09:08 12:11 07:43 11:21
リヴァプール・フィル/1988 11:59 12:20 08:02 11:40
プラハ響/2000 11:09 10:20 07:33 10:58
チェコ・ナショナル響/2004 09:04 11:22 07:57 11:34

 一応録音順に並べてみましたが、年代によってばらつきがあり、第2楽章などはこの録音が一番速いことが分かります。もちろん聴感上も速く、しんみりと情緒豊かにといったものではなく、むしろ淡々とした表現で流しています。これは晩年に至るほど顕著なようで、ペシェクはここからも老人病には陥っていないことが分かります。かといって全体があっさりしているわけでなく、第3楽章は素晴らしく生き生きとした表現でスケルツォを表現しています。その切れ味はセル/クリーヴランドの演奏を彷彿とさせるもので、音楽が生き生きとしている分聴きごたえがあります。弦のアクセントの扱いが独特で、まるでぴちぴちと跳ねているという表現がぴったりのような新鮮さがあります。

 

 第4楽章もその乗りの延長のような演奏で、まるでオーケストラをあおり立てるようなテンポで突き進んでいきます。特に冒頭なんかは、前のめりになりながら突き進む様が収録されています。金管は全体にちょっと荒っぽく、第1楽章からホルンなどはもう少し上品に吹いてほしいなぁと思うところがしばしばありますが、木管はさすがにレベルが高いですね。チェコフィルのライバルでもあるオーケストラですから底力はあるのでしょう。中々の力演です。

 

 もともとペシェクはチェコはプラハの生まれです。幼少時代からドヴォルザークの音楽には親しんでいたでしょう。しかし、チェコ系の指揮者の中ではマイナーで、チェコフィルの常任指揮者を1982年から1990年まで務めていたにもかかわらず、日本ではさっぱり知られていませんでした。その間はノイマンが首席指揮者として君臨していましたから常任指揮者とはいっても陰に隠れた存在だったのが災いしたのかもしれません。しかし、イギリスに渡り1987年から1998年までロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督として活躍して花開きました。そんなことで、ドヴォルザークの交響曲全集もこの時代に完成しています。個人的にはクーベリックの全集よりもお気に入りです。

 

 このCDにはフィルアップには珍しい「アメリカ組曲」がチョイスされています。近年は「のだめ」で取り上げられた関係で「チェコ組曲」の方は少々知られるようになりましたが、こちらの曲はまだまだでしょう。これはプラハに縁のある曲で、もともとは「ピアノのための組曲」作品98として作曲されたものを、作曲者自身が編曲したものですが、生前は演奏されず、死後このプラハで初演されています。そんなことで、作品番号は98Bとなっています。ちなみに交響曲第9番「新世界より」が作品95、やはり「アメリカ」と呼ばれる弦楽四重奏曲第12番は作品96、そしてこの曲が作品98ですから、ドヴォルザークの代表作として知られる作品と時を同じくして書かれたことがわかります。ドヴォルザークとしても実り多き時期だったのでしょう。5楽章からなる作品で、ペシェクはこの曲をロイヤル・リヴァプール・フィルとも同じ「新世界から」との組み合わせで録音しています。何かこだわりがあるのでしょうかね?多分聴けばドヴォルザークの作品だなぁと分かるのではないでしょうか。20分あまりの曲です。

 

 

 ここでの演奏は録音レベルがやや低くおとなしい曲の印象になってしまっていますが、本来はフルオーケストラのために編曲されていて中々ダイナミックな部分もある素敵な曲です。ペシェクは慈しみのある表現で優しく包み込むように演奏しています。多分デッカのドラティ/ロイヤルフィルとは対極に位置する演奏でしょう。

 

 ここではさらに、アンコールピースのようにスメタナの「モルダウ」が収録されています。これもどちらかといえば淡白な演奏で、アップテンポでさらりと演奏しています。そういう面ではちょいと物足りなさを覚えてしまいそうですが、こういう収録順にこだわりがあるのなら、これはアンコールピースと捉えた方がいいでしょう。そういう気持ちで聴くと、弾むようなリズム感に満ちたフレーズを弦に指示していたりしていて存外に楽しめます。このテンポ、実はカラヤン/ベルリンフィルの録音タイムと同じです。そんなことで、中々楽しめるアルバムになっています。