デイヴィスのハフナーセレナーデ
曲目/モーツァルト
Mozart: Serenade #7 In D, K 250, "Haffner"
1. Allegro Maestoso, Allegro Molto 7:02
2. Andante 10:18
3. Menuetto 3:47
4. Rondo: Allegro 9:02
5. Menuetto Galante 5:39
6. Andante 7:48
7. Menuetto 5:07
8. Adagio, Allegro Assai 6:09
指揮/コリン・デイヴィス
演奏/バイエルン放送交響楽団
ヴァイオリン/アンドレアス・レーン
演奏/バイエルン放送交響楽団
ヴァイオリン/アンドレアス・レーン
録音/1988/01 ヘルクレスザール、ミュンヘン
P:ウィルフリート・デーニク
E:ヴォルフラウ・ブラウル、ゲルハルト・フォン・クノーベルスドルフ
P:ウィルフリート・デーニク
E:ヴォルフラウ・ブラウル、ゲルハルト・フォン・クノーベルスドルフ
BRILLIANT 99733(原盤 NOVALIS)

CD普及期にスイスのAVCによって録音されたものです。レーベルはNOVALISでしたが、とっくに市場からは姿を消しています。そういう音源からライセンスを取って発売したのがこのそしとです。先に紹介したブリリアントのモーツァルト全集の第3巻に含まれています。オリジナルは交響曲第32番とのカップリングでしたから、ここでのCPはこれ一曲という事でダウンしています。ただし、この第3巻には同時期にNOVALISに録音したセレナード第6、9番も収録されていますが、そちらの方には更に1曲プラスされているので相殺と言ったところでしょう。
コリン・デイヴィスは録音時このオーケストラの首席指揮者でした。ところが市場ではこの時期の録音はほとんど見向きもされていません。デイヴィスはこの後ドレスデン・シユターツカペレとモーツァルトの後期交響曲を録音しますが、そちらの方は全然注目度は上でした。そんな事で忘れ去られた一枚といえるでしょう。もともと、コリン・デイヴィスはフリップスと契約していましたが、このバイエルン時代には当時のRCAにかなり録音していましたからフィリップスは控えていたのかもしれません。ただ、個人的にはこのバイエルン時代のデイヴィスはほとんど印象がない事も確かです。
そんなことで、オリジナルは知らずにこのブリリアントで初めてであった演奏です。どういうわけか個人的にはモーツァルトは交響曲はあまり聴かず、協奏曲とかディヴェルティメント、セレナード辺りの方が好きです。ふつう「ハフナー」といえば交響曲第35番を指すと思いますが、小生の中では「ハフナー・セレナード」のイメージです。ザルツブルクの富豪ハフナー家の結婚式の前夜祭のために作曲された曲で8楽章からなります。ある意味交響曲より規模が大きいわけです。余談ですが、このセレナードが1776年7月20日に初演されたガーデンハウスは、いまもザルツブルクの、パリ-ロドロン通りというところに残っているそうです。本来はこの曲に先立って、行進曲K.249が演奏されています。つまり、前夜祭当日は、
1:行進曲K.249(会の開始の合図代わり。楽士はあらかじめ開場に待機)
2:第1楽章(式典の開始~新婚夫妻の披露)
3:第2~4楽章(新婚夫妻を中心とした宴の、ザルツブルク宮廷としてのアトラクション)---ヴァイオリン協奏曲を構成している。
4:第5~7楽章(歓談の合間の音楽)
5:第8楽章(終宴を盛り上げる)
2:第1楽章(式典の開始~新婚夫妻の披露)
3:第2~4楽章(新婚夫妻を中心とした宴の、ザルツブルク宮廷としてのアトラクション)---ヴァイオリン協奏曲を構成している。
4:第5~7楽章(歓談の合間の音楽)
5:第8楽章(終宴を盛り上げる)
というスケジュールで演奏されたようです。そういう言われを知ってこの曲を聴くと、様々なシーンを思い浮かべながら鑑賞する事が出来ます。でも当時は、聴き手は決して音楽に専心していたわけではなく、ワイングラスを傾けたり、料理に舌鼓を打ったりしていたのでしょうから・・・これが単なる「宴会」のための音楽だったとは、現代的な目から見れば大変もったいない話です。ですから、せめてこの曲を聴く時は他ごとをしないで正面から聴く事にしましょう。
で、K249の行進曲ってどんな曲だったっけ?ということで、まずはそれを聴いてみましょう。こうして前夜祭は始まっています。
式典は開始され、新郎新婦の入場です。音楽は扉が開いてね二人の登場シーンから始まるようです。厳かに、しかし希望に満ちた二人の登場を祝福するようです。会場の工法から登場して客席の間をにこやかに進んで行く様が描かれるとともに、やがて、弦の短いスタッカート気味の主題がひそひそ話で二人の事を話し合うお客の会話に聴こえてしまいます。デイヴィスの演奏は、こういう雰囲気をこけおどしでは無く、また変にアクセントを強調させる事無く実に真面目に描いています。まあ、こういうところがデイヴィスの中庸と評される所以なんでしょうな。
第2楽章はアンダンテです。ここで独奏ヴァイオリンが加わります。ここからはアトラクションのバックの音楽という事で、音楽は完全な脇役になります。時には笑いでかき消される事もあったでしょうから、ヴァイオリンにリードさせて音楽を作っていく仕掛けにしたのではないでしょうか。まるでこの部分だけを聴いているとヴァイオリン協奏曲の第2楽章のような雰囲気です。
第3楽章はメヌエットになっています。これもアトラクションのBGMですが、モーツァルトの音楽の構成上はきっちり目立つ音楽にしています。そういう点ではデイヴィスの演奏はやや控えめな表現かなと思えなくは無いです。で、ここでも独奏ヴァイオリンが登場する中間部のトリオは中々聴き所になっています。
第4楽章の余興の締めくくりは、とてつもなく規模が大きく、全部で455小節という規模になっています。そして何とここでは独奏ヴァイオリンはカデンツァを披露してしまうのです。現在の演奏では。クライスラーによる編曲によるなるものが使用されるのですが、ここではレーンの独自のカデンツァを披露しているのもこの演奏の特徴です。まあ、こんな演奏を展開されたらアトラクションより音楽の方に注目してしまうのではないでしょうかね。
上に紹介した括弧書きは想像のもので、実際には、ハフナーの友人で当時の大司教宮中顧問官、フォン・シーデンホーフェンは、その模様を次のように記録に残しています。「食事の後、私はハフナーの若主人が姉のリーゼルのために作らせた婚礼音楽を聴きに行った。それはモーツァルト作のもので、ロレート教会傍らの庭園で演奏された。」
さて、モーツァルトはこの作品を20歳の時に書いています。実際の演奏には1時間弱掛かる作品です。この当時の交響曲でしたら裕に2曲以上のボリュームです。じっくり味わったら、夕食会付きの音楽会ともいえる内容です。うらやましい限りですなぁ。で、デイヴィスはそういう楽しみを我々にここで提供してくれています。食事を楽しんでそれからゆっくり音楽を楽しんで下さいね、と。そういう気分で聴くとなんて心地の良い演奏なんでしょう。CDは廃盤ですからYouTubeで楽しんで下さい。
このハフナーセレナーデ、別に交響曲版があります。それは交響曲第35番とは違って、このセレナーデの第1、第5-第8楽章の5曲よりなるもので、この版による演奏はホグウッド/エンシェント室内管弦楽団が録音しています。確か手元に有ったはずですから、捜して聴いてみる事にします。