ヤンソンス/ショスタコーヴィチ交響曲全集 | geezenstacの森

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ヤンソンス 
ショスタコーヴィチ交響曲全集

曲目

 

こちらを参照して下さい。

 

EMI 09463674402

 

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 以前このセットはEMIからショスタコーヴィチ生誕100周年を記念して2006年に全集として発売されていました。今でもカタログに残っているので確認すると、EMI 3653002の番号で発売されています。そちらのセットは8,000円ほどするのですが、曲の組み合わせも全く同じ内容で、今回取り上げるセットは2,000円を切ります。一見すると海賊盤の様な気がしますが、ボックスセットの裏面にはちゃんとEMIのロゴが入っています。つまりは正規の音源ということになります。何故こんなに低価格で販売されているかというと、このセットはオランダの新聞社「フォルクスクラント」がライセンス発売するセットになっているからです。要するにスポンサーがついているということですな。まあ、そんなことで解説はすべてオランダ語です。それだけ我慢すれば、このセットは一番安いショスタコの交響曲全集ということになります。これは買うっきゃないでしょう。

 

 マリス・ヤンソンス[1943-2019]は、1971年にレニングラード・フィルを指揮してプロ・デビューし、1973年からはムラヴィンスキーに招かれて副指揮者をつとめたという経歴の持ち主で、1986年のレニングラード・フィル来日公演でのムラヴィンスキーの代役としての見事な演奏は語り草になっています。そんなことでムラヴィンスキーから多くの物を吸収している指揮者です。この全集で一番古いのは交響曲第7番で1988年です。この年は奇しくもムラヴィンスキーが亡くなった年で、その縁のあるオーケストラをヤンソンスが指揮をして全集をスタートさせたということになります。ここにもヤンソンスの意気込みが感じられます。実際この録音は欧米で評価され、欧州を代表するレコード賞、オランダ・エジソン賞(1989年)を受賞しています。

 

 

 もう一つ、この全集の特徴は、ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、バイエルン放送響、フィラデルフィア管、サンクト・ペテルブルグ・フィル、ピッツバーグ響、ロンドン・フィル、オスロ・フィルという世界各国の8つのオーケストラを指揮して完成させた国際色豊かな全集です。違ったオーケストラで全集を完成させたのはハイティンクやアシュケナージなどがいますが、これだけ多くのオーケストラを使って全集を完成したのはヤンソンスだけでしょう。まあ、ベートーヴェンではクーベリックが同じような趣向で録音した全集がありますが、それと比べても遜色がありません。小生らの世代だとマリス・ヤンソンスよりも父親のアルヴィド・ヤンソンスの方を思い浮かべてしまいますが、今のマリスの活躍を見ると息子が父親を追い越したい良い例なんでしょうね。演奏はそういうオーケストラの特色を生かしたワールドワイドな世界感のショスタコーヴィチでいわゆる金管ばりばりの力で押し切る演奏とは一味違います。そんなことで、2006年に発売された全集としての評価はドイツでレコード批評家賞年間大賞を受賞したほか、フランスのル・モンド・ド・ラ・ミュジーク誌の年間賞、カンヌの国際音楽見本市MIDEMで最優秀レコーディング部門と最優秀交響楽レコーディング部門の2つを制するなど多数の賞を獲得しています。

 

 まだ、全部を聴き終わったわけではありませんが、全体にスマートな演奏の全集になっています。バルシャイの全集はどちらかというと、やや無骨な一面が感じられたのですが、さすがEMIの録音は響きのバランスが豊僥で、メジャーの貫禄を伺わせます。トータルの演奏もオーケストラの纏まりが格段に良く、強いて言うなら地方都市のオーケストラと都会のセンスのあるオーケストラの違いがあります。
 
 個人的にショスタコの交響曲では5、7、9、12番の4曲が一番好きなのでまずそれらを聴いてみました。この全集、作曲順に並んでいるのではなく、12番は2番とのカップリングになっています。珍しい組み合わせですが、是にはそれなりの理由があるようです。何となれば、交響曲第2番は単一楽章の交響曲ですが、第2部のAllegro - Poco meno mosso - Allegro moltoの部分のモチーフが、交響曲第12番の第4楽章で使われているからです。それでも、この曲は前衛的な響きはするし、後半の合唱もレーニン讃歌になっいてどちらかというとあまり聴く機会の無い作品といえるでしょう。こういうカップリングだと、どうしても第2番が先に収録されているので、12番の予習のような気持ちで聴くとより12番が楽しめるという趣向と割り切るのが良いでしょう。

 

 先にバルシャイの演奏を取り上げていますが、こちらは第1楽章からやや遅めのテンポで主題をじっくり演奏しています。個人的にはドゥリヤンの演奏を思い起こさせてくれる掴みです。そんなことで一気にこの演奏に惹き込まれてしまいます。最初はゆっくりでいつの間にか高速にギアーアップです。オーケストラが優秀なので聴きごたえがあります。前年からバイエルン放送交響楽団のシェフを務めているいますから、もう手兵のような物でしょう。すっかりヤンソンスのペースで思い通りにオーケストラをドライブしています。もう、ここまで来ると証言は関係ないといった感じの演奏です。バルシャイのようなロシアの土臭さはありませんが、2000年代の新しいショスタコを聴く気分です。

 

 それは第9番にも言えます。元々バロディ色の強い曲ですが、ヤンソンスはそういう曲の持つ軽快さを前面に出して第1楽章からいかにも楽しげに音楽を作り上げています。第2楽章もあまり暗くならず、割とあっさりと片付けています。第3楽章もめちゃくちゃ快速で僅か2分半あまりで駆け抜けていきます。こりゃあ退屈している暇はありません。こういう演奏なら子供でも楽しめるのではないでしょうかね。面白いことに第5楽章は6分半弱と結構じっくりと演奏しています。要は最終楽章に焦点を合わせた音楽作りをしているのでしょうな。この楽章でのティンパニの鳴らし方は聴きものです。

 

 

 ヤンソンスはショスタコの交響曲第5番は2回録音しています。最初は上の第9番を録音したオスロ・フィルとの物で1987年に録音しています。これはヤンソンスのEMIデビュー盤でした。ところが、この全集では1997年に再録されたウィーンフィルとの演奏を収録しています。この演奏は一応ライブ収録されたことになっていますが、演奏に傷が多かったらしく事前録音のテイクがかなり含まれているようでFMでライブ放送された音とはかなり違っているようです。ただ、この演奏が採用された大きな理由は、オスロフィルの演奏に比べて全体に遅くなっているのが溶く地用です。オスロフィルとの演奏は41分あまりと超高速の演奏でした。それは、主に第1楽章のテンポですが、オスロフィル14:09、ウィーンフィル15:47となっています。どちらかというと、高速演奏はロシアの指揮者に多い特徴で、そういう意味ではヤンソンスは1990年代にかなり西欧ナイズされてきたと捉えることが出来そうです。下の演奏は、バイエルン放送交響楽団とのライブのショスタコの5番です。ウィーンフィルのテンポに近い物です。

 

 

 全集として完成されたヤンソンスのショスタコーヴィチの交響曲全集、デッカのハイティンク盤とがっぶり4つに組んでも面白い出来映えです。そして、今の時点ではバルシャイ盤を差し置いてコストパフォーマンスの面ではトップでしょう。何しろ普通のCD一枚の価格で全集が買えちゃうんですから!!やっぱり、これはもう買うっきゃないでしょう。