パーフェクト・ブルー | geezenstacの森

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パーフェクト・ブルー

著者 宮部 みゆき
発行 創元社 創元推理文庫

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 高校野球界のスーパースターが全身にガソリンをかけられ、焼き殺されるというショキングな事件が起こった。俺、元警察犬のマサは、現在の飼い主、蓮見探偵事務所の調査員、加代子と共に落ちこぼれの少年、諸岡進也を探し当て、自宅に連れ帰る途中、その現場に遭遇する。犬の一人称という斬新なスタイルで、社会的なテーマを描く、爽快な読後感の長編デビュー作、待望の文庫化。---データベース---

 ようやく、宮部みゆき氏の長編の原点とも言うべき作品に辿り着きました。本来のデビュー作は「我ら隣人の犯罪」ですから、そちらは既に読了していますが、宮部氏の本領は長編小説にあると思っていますから、こちらは実質的なデビュー作といってもいいような作品です。ちなみに単行本としてはこの作品が一番早く1989年2月に出版されています。この作品がデビュー作にして衝撃的なのは語り手が、人間ではなく元警察犬ということです。この視点がこのストーリーにもたらす客観性が悲惨な事件であるにも関わらず、それほど残虐性を感じさせないのは一重にその点にあるのではないでしょうか。といっても、全編を犬の目を通して語らせているわけではありません。

 ストーリーは大きく分けて二つの部分に分かれます。前半100ページほどで殺人事件は表面上は解決してしまいます。それは、推理小説としては常套手段とでも言うべき一番安易な、犯人の自殺という形で決着してしまう体裁を取っています。まあ、ここまでの話しなら、ただの高校球児のねたみから起こった不幸な事件として簡単に片付けられてしまう部分で、物語の展開としては対して印象に残るものではありません。せいぜい、主人公とも言うべき蓮見探偵事務所の長女の加代子と諸岡進也の出会いの部分を描いたもので、見るべき展開はありません。この部分では元警察犬のマサとしても、不甲斐ない活躍で少しも目立ってはいませんからね。

 話しが、大同製薬に場面チェンジしてからが、このストーリーの本当の展開だと言えます。なぜ、製薬会社が登場するのか?そして、この会社を強請る人間がいるという事実から事件の背景部分が浮き彫りになっていきます。ここはもきちんと通常の文体で描かれていきます。この場面チェンジ、いかにもドラマ的な手法です。そんなことで、この作品はドラマ化されて、異例の劇場公開もされています。ただ、小説の中の大同製薬は実在のメーカーが富山県に存在するので映画では「三友製薬」に変更になっています。

 焼身殺人は犯人の自殺という形で終わってしまい、警察は捜査本部を早々と解散してしまいます。まあ、この点がこの物語をちょいと物足りなくしている点と言えないこともありません。警察サイドで登場するのは宮本刑事だけですからね。そういうことで、ストーリーの主体は蓮見探偵事務所が追うことになります。まあ、ここら辺は複雑になりすぎるのを恐れて警察サイドの展開はカットしたと見るのが妥当でしょう。最後にこの宮本警部は事件の真相が明らかになった時に再登場します。

 それにしても、このストーリーは高校野球の球児の問題や薬害の問題を取り上げています。こういう社会性のある問題を取り上げながらそれを巧に小説の中で問題提起している点は見逃せません。ここでは高校野球界のスーパースターの諸岡克彦が、焼き殺される事件の背景で同級生が絡んでいたことで、高校野球の地区大会出場を辞退する辞退に追い込まれます。実はそこにはライバル校の陰謀があるのですが世間はそれを知りません。また、それが公になることで、それとは全く関係のないところでがんばっている球児たちが犠牲になるのを防ぐために公にしないという計らいがあることも公にはなりません。それがどんなに矛盾しているか問題提起していますが、この問題については未だに現実でも何らかの形で出場辞退に追い込まれる球児たちがいます。

 そして、もう一つは薬害問題です。この小説と同時進行で現実には薬害エイズの問題がありました。形は違えど、製薬会社が引き起こした事件であることには違いはありません。ここでは一人の専務の策略が保身のために次々と殺人事件を引き起こしていきます。諸岡克彦も行ってみればその犠牲者の一人といっても言いでしょう。ですが、事件は意外な展開を見せて、どんでん返しの展開で終わります。この辺りは少々不満の残る部分で、もう少し別の結末があっても良かったんじゃないかと思えるところです。

 ところで、この「パーフェクト・ブルー」ってなんだか分かります?ドーピング検査をする試薬のことなんですね。その試薬の副作用がもたらす悲劇といってもいいのがこのストーリーです。その試薬はとっても奇麗なブルー色をしているのです。個人的につい最近、ブルー色をした炭酸飲料を飲んでいました。パーフェクト・ブルーはこんな飲料だったのでしょうか?

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