ルービンシュタインの皇帝
曲目/
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番〈皇帝〉
1.第1楽章 Allegro 22:49
2.第2楽章 Adagio Un Poco Mosso 9:29
3.第3楽章 Rondo:Allegro 11:15
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番〈皇帝〉
1.第1楽章 Allegro 22:49
2.第2楽章 Adagio Un Poco Mosso 9:29
3.第3楽章 Rondo:Allegro 11:15
ピアノ/アルトゥール・ルービンシュタイン
指揮/ダニエル・バレンボイム
演奏/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮/ダニエル・バレンボイム
演奏/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
P:マックス・ウィルコックス
録音/1975/03/10 キングスウェイ・ホール、ロンドン
録音/1975/03/10 キングスウェイ・ホール、ロンドン
BMG BVCC5055

ベートーヴェンの「皇帝」はこのブログでも何度も取り上げていますが、どうも王道と称される演奏は取り上げていなかったようです。HPではバックハウスの演奏が原体験と書いていますが、それも取り上げていません。有名曲名だけに、それだけいろいろな演奏をコレクションしているという事なんですが、ルービンシュタインを取り上げぬ訳にはいきせん。レコード時代から親しんできた演奏です。当時はバレンボイムと共演という事で話題にもなりましたし、1976年のレコードアカデミー賞を受賞していますし、1977年には米グラミー賞も受賞しています。レコード時代はこの曲1曲でレコード化されていましたが、初期のCDもこれ一曲しか収録されていませんでした。それが、このCDです。1990年に発売されましたが、当時では珍しく2,000円で発売されたので触手が動いたものです。
ロンドン-デッカの響きとはやや趣を事にしますが、ゆっくりとした堂々たるテンポで第1楽章が始まると、そのまま引き込まれてしまいます。指揮者のバレンボイムも当時は既に第1級のピアニストでしたから、ピアニストの心情が一番汲み取れる位置にいた事は確かです。そういうサポートがあって実現した演奏といっても言いでしょう。これ以前にバレンボイムはイギリス室内管弦楽団とモーツァルトのピアノ協奏曲全集を録音していてそのフレッシュな引き振りに注目し、レコードで所有していました。そのバレンボイムが本格的に指揮活動をし出したエポックメーキングな録音としても注目したのでした。でも、この後CBSに録音した一連のものはあまりぱっとしたものが無く、パリ管とのものもイマイチだったので、個人的には離れていってしまったものです。
でも、やはり、この録音に聴くバレンボイムは堂々としたものです。そして、やはり主役はルービンシュタインです。実にどっしりとした恰幅のある演奏を聴かせてくれます。まるで何者にも動じないという意志の強さを感じます。ルービンシュタインはこの時88歳、何と3度目の全集録音に取り組んでいたのです。まさに巨人ですな。当時、バックハウスとケンプが1969年に亡くなって一つの時代が終わった時、小生の中ではルービンシュタインとホロヴィッツも既に過去の人という認識でした。何で今更こんな過去の人を引っ張り出して来て録音するんだろうと、いぶかしく思ったのも事実です。ですが、この演奏を聴いて伝説の巨人は未だ健在だと納得したものです。
演 奏 | 第1楽章 | 第2楽章 | 第3楽章 |
バックハウス/イッセルシュテット/VPO-1959 | 19:30 | 7:19 | 10:28 |
ルービンシュタイン/クリップス/SOA-1956 | 20:11 | 18:07 | |
ルービンシュタイン/ラインスドルフ/BSO-1963 | 20:09 | 7:43 | 9:50 |
バレンボイム/クレンペラー/PO-1967 | 22:56 | 8:59 | 11:04 |
バレンボイム/BPO-1985 | 20:54 | 8:38 | 10:26 |
この録音にあたっているマックス・ウィルコックスは1959年からルービンシュタインの録音に携わっているプロデューサーで、彼が1979年に引退するまで携わっています。そういう意味ではルービンシュタインを知り尽くしているプロデューサーと言っても過言ではないでしょう。当然、ウィルコックスは1963年のラインスドルフ/ボストン交響楽団の2回目の録音も担当しています。彼はピアノも弾くし、指揮者としては1973年に実際にルービンシュタインをサボートして、リヴァプールフィルとショパンとベートーヴェンの協奏曲指揮しています。そういう下地があるからこそ、こういう素晴らしい録音が出来たのでしょう。
バレンボイムはピアニストとしては巨匠クレンペラーの棒のもとで最初のレコーディングをしています。その時のテンポはやはり遅く、第1楽章の演奏に22:56かけています。そして、ここでも22:49と同じ様な店舗設定で指揮しています。ところが、自身が引き振りをしたベルリンフィルとの1985年の録音では20:53で弾いてしまっています。つまり、ここでのテンポ設定は明らかにルービンシュタインのテンポでサポートをしているという事になります。まあ、それがツボにはまっているからよしとしますが、じっくり聴いてみるとロンドンフィルはややアンサンブルに甘いところが顔をのぞかせています。第3楽章のフィナーレの最後なんかはどうも今ひとつバレンボイムの棒に付いていききれていない様な印象は受けます。
また、第1楽章も見事ですが、ルービンシュタインの真骨頂はアダージョの第2楽章にあるのではないでしょうか。ここでも、通常よりも遅いテンポで9分以上をかけて演奏されています。しかし、ポロンポロンと止まりそうなテンポの中で紡ぎ出されるピアノの音は、一瞬ショパンの曲の様な響きで耳元に届いて来ます。それはまた、キラキラ光る音のしずくの様な輝きでハッとさせられます。この第2楽章も弛緩無く聴かせる演奏はそうそうあるものではありません。