アーサー・フィードラーのスーパースター | geezenstacの森

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ARTHUR FIEDLER "SUPERSTAR"

曲目/
1.Jesus Christ Superstar:ジーザス・クライスト・スーパースター (5:36)
2.What Have They Done to My Song, Ma:傷ついた小鳥 (4:10)
3.Proud Mary:プラウド・メアリー (2:22)
4.Love Story Theme:『ある愛の詩』テーマ (4:25)
5.Gentle on My Mind:ジェントル・オン・マイ・マインド (2:56)
6.Love Me Tonight: ラブ・ミー・トゥナイト (3:21)
7.Let It Be: レット・イット・ビー (4:34)
8.I Think I Love You :アイ・シンク・アイ・ラヴ・ユー(2:46)
9.Mah-Na Mah-Na:マナ・マナ (3:06)
10.Bridge Over Troubled Water :明日に架ける橋(3:57)

 

指揮/アーサー・フィードラー
演奏/ボストン・ポップス管弦楽団

 

録音/1971

 

Polydor USA PD 5008
  
イメージ 1

 

 一般にはアーサー・フィードラーとボストンポップスというとRCAのイメージが強いのでしょうが、小生にとってはDGの方が印象に残っています。それは輸入盤が自由化によって故人で輸入出来るようになった時代と重なります。DGはアメリカではポリドール・レーベルでポップスは発売していました。その記念すべきフィードラーのDGデビュー盤がこのレコードだったのです。最初はこれがフィードラー/ボストンポッスのレコードだとは気がつきませんでした。何しろ、当時はクラシックのレコードばかりを漁っていて、たまにポップスのレコードも買うというスタンスの中で、バーゲンセールの息抜きのつもりで拾い出したものです。サイケデリックなデザインは当時の流行を取り入れたものでしょう。当然ポップスのえさ箱の中に入っていましたから誰も見向きもしませんでした。で、よく見るとアーサー・フィードラー/ボストンポップスの名前があるではないですか。そして、レーベルがPOLYDORだったのにもびっくりしました。先入観でRCAというイメージがあったからです。もしかしたらまがい物、当時の言葉で海賊盤の類いではと疑ったものです。しかし、POLYDORといえば一流レーベルです。そんな事で半信半疑で購入した事を覚えています。

 

 その時は、同時購入したクラシックのレコードはうっちゃって、いの一番にこのレコードをかけたのを覚えています。そして、まぎれも無く大オーケストラでポップスの名曲が演奏されているのを耳にして、掘り出し物を見つけたと大喜びをしたものです。それからはバーゲンセールでちょくちょくポリドール盤のフィードラーを見つけては買い集めました。どういう訳かRCA盤より格段に安かったのも幸いしていました。そんな事で未だにコレクションを手放せなくています。

 

 冒頭は「ジーザス・クライスト・スーパースター」です。これは小生のお気に入りのミュージカルですから、この曲だけで買うことを決めたと言ってもいい曲です。ここではタイトル・ソングと「今宵安らかに」がメドレーで演奏されています。最初に銅鑼が鳴らされるアレンジで映画版のプレヴィン/ロンドン交響楽団の演奏を知っていると最初は無茶苦茶違和感がありましたが、中東のアラビアンナイトの世界をイメージさせるそういう響きは案外捨てたもんではありません。その後の演奏はすばらしくシンフォニックでサントラを凌駕しています。ポリドールの録音も中々いい線いっています。中間部に挟まれる「Everything's Alright(今宵安らかに)はメロディアスな旋律を生かしてストリングスで演奏され中々いいコントラストです。そして、最後は盛大にオルガンの響きも取り入れるというゴージャスな演奏になっています。

 

 

 2曲目は「傷ついた小鳥」です。70年代が青春の人は「土居まさるのTVジョッキー」のテーマ曲としてのイメージが強いのではないでしょうか。オリジナルはダリダの歌うシャンソンですが、ここではオーボエのソロでものうげな雰囲気を漂わせて始まります。それがメロディィが繰り返されるうちにどんどん分厚いサウンドになり、最後にはコーラスまで加わるという仕掛けです。アレンジはリチャード・ヘイマンがしていますが冴えたアレンジです。それは3曲目の「プラウド・メアリー」にも言えます。こちらはマーティ・ゴールドのアレンジですが、最初からノリノリのサウンドでドラムスセットも盛大に鳴らしてのアレンジは爽快の一言です。

 

 

 こうして聴いてくると、フィードラーの演奏もさることながらバックにはすばらしいアレンジャーが揃っている事がポップス・オーケストラの成功の鍵になっている事が分かります。フィードラーを継いだのはジョン・ウィリアムズでしたが、彼は自作はもちろんその他の曲も自身でアレンジしてしまったのでサウンドが硬直化してしまいポップスオーケストラの魅力は薄れてしまった様な気がします。時代がポップスものをあまり好まなくなったのもあるでしょうがね。そういう意味ではフィードラー時代はこういうポップスものを演奏させたら最高の演奏を聴かせていました。

 

 シンフォニックなアレンジの最たる曲は「ジェントル・オン・マイ・マインド」でしょう。アップテンポで最初からフォルテで軽快にぶっ飛ばします。パーカッションを多用し、ドラムスセットではなくちゃんとティンパニを叩かせています。今の人にはピンとこないかもしれませんが、トム・ジョーンズの代表曲「ラブ・ミー・トゥナイト 」も粋な演奏です。この曲は原題を「恋の終り Alla Fine Della Strada」といい、1969年ののサン・レモ音楽祭でイタリアのジュニア・マッリが歌い、後にイギリスのグループ、カジュアルズがカバーしたものをトム・ジョーンズが取り上げて大ヒットさせました。

 

 

 フィードラーは別にビートルズの作品集も録音していますが、このアルバムにはそこから漏れている「レット・イット・ビー」が収録されています。これも見事なアレンジで、シンフォニックな導入部に続いて原曲のピアノのシンプルな演奏まで取り入れでこの名曲をカバーしています。このアルバムは1971年に発売されていますが、幅広い当時のヒット曲をカバーしています。その代表ともいえるのが「マナ・マナ」でしょう。このブログでも以前デイヴ・ペル・シンガーズ の演奏で取り上げていますが、お子様ものまでちゃんとフォローする所がフィードラーのすばらしい所でしょう。そして、この曲ボストンポップスならではの演奏で、エンディング近くでパロディとしてチャイコフスキーの大序曲「1812年」の旋律が登場します。思わずにんまりです。

 

 

 最後はサイモンとガーファンクルの不朽の名作「明日に架ける橋」です。「ソングブック」というアルバムでサイモンとガーファンクルの曲をカバーしたものを出しているのですがその後のヒット曲という事で、ここに収録されています。格調高く、ピアノをフューチャーして原曲のゴスペル調をいかし、教会を思わせる鐘の響きも取り入れ、尚かつストリングスで厳かにそして、重厚に演奏避けています。時代のニーズもあるのでしょうが、こういう良質のイージーリスニングは今ではほとんど録音されていないのではないでしょうか。

 

 

 こういう演奏を聴くにつけ、フィードラーはまさにポップスオーケストラの王者という風格をまざまざと感じてしまいます。まあ、その影には、リチャード・ヘイマン、ウィリアム・ゴールドスタイン、ジョン・ウッドバリー、リー・ホルトリッジ等々の名アレンジャーがいる事を忘れてはいけませんが。