天狗風 霊験お初捕物控(二) | geezenstacの森

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天狗風 霊験お初捕物控(二)

著者 宮部みゆき
発行 新潮社 新潮文庫 

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 一陣の風が吹いたとき、嫁入り前の娘が次々と神隠しに―。不思議な力をもつお初は、算学の道場に通う右京之介とともに、忽然と姿を消した娘たちの行方を追うことになった。ところが闇に響く謎の声や観音様の姿を借りたもののけに翻弄され、調べは難航する。『震える岩』につづく“霊験お初捕物控”第二弾。---データベース---

 「天狗」という言葉が出てくると、やはり一般的に山伏の服装で赤ら顔で鼻が高く、翼があり空中を飛翔する姿を思い浮かべるでしようね。また、人を魔道に導く魔物とされているということから妖怪というイメージに繋がるのでしょう。でも、ちゃんと「天狗風」という言葉もあります。大辞林によれば、天狗風とは「突然はげしく吹きおろす旋風。つむじかぜ」と説明されています。この小説では多分二つのイメージを重ねて表しているのでしょう。ここでは事件が起こるとき、突然の突風が吹き荒れ真っ赤な光が現場を包み込みます。そして、若い娘が神隠しに遭います。本書は、人に見えないものが見える不思議な力をもつお初と同心になる道を捨て算学道場に通う右京之介のコンビが活躍する霊験お初シリーズ第二弾です。単独でもストーリーは追えますが、やはり前作の「震える岩」を読んでいると登場人物の背後関係はすっきり理解できるでしょう。

 超能力社の活躍する時代小説と言ってしまえばそれだけですが、このストーリーには化け物が登場します。表紙を見るとわかるように、今回は猫が大活躍。お初を助け導いてくれる存在です。この猫がお初や、将棋の駒、果ては狸に変身と大活躍です。もう一つの特徴はお初と話が出来るということです。これはまさしくファンタジー小説の時代劇版なんでしょうな。そして、底辺に流れるテーマは「美」です。女性なら誰でも一度は美しくなりたいと思ったことがあるはず。そして美しく生まれついたものは、その美に固執することも多いのではないでしょうか。誰かを羨んだり妬んだり。そんな心の闇に忍び込む魔がこの事件を引き起こします。第1作で男の情念を描いていたので、今回は女の怨念といつたところです。それにしても、これは男の人にはいまいち理解できない感情かも。多分女性が読んだほうが共感できるんでしょうな。

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 舞台となるのは本所深川、いわずと知れた作者宮部みゆきのホームグラウンドです。今回は先に紹介した「江戸東京切絵図散歩」よりもさらに詳しい「もち歩き江戸東京散歩」なる本の地図を参考にしてこの物語を読みました。まさにこの地図のど真ん中、「浄心寺」のある山本町で最初の神隠し事件が起こりますし、猫の鉄と和尚がいるのはその隣の「霊嚴寺」なのです。魔物にさらわれた娘達が閉じ込められた時空が、満開の桜咲くそれはそれは美しい場所というのがまた、「美」に対する魔物の妄執を感じさせてくれます。

 半月後に玉の輿確定のおあきとその父親の政吉の葛藤が最初に描かれます。なんで上辺をつくろっても、心の中には娘を殺したいほどの憎しみが満ちていの親子でこんなことが・・・と最初はいぶかしく思いますが、それはラストにちゃんと辻褄が合うようになっています。この辺りの人物描写、普段は気が付かない振りで目を背けている感情を炙り出す宮部みゆきの筆致の素晴らしさです。この事件では父親は自殺をしてしまい事件は有耶無耶になってしまいます。そこで奉御前さまの依頼を受けて霊感娘・お初とへなちょこ算学侍・右京之介が立ち上がります。

 登場人物は神隠し体験談を持つ高積改役・柏木、幻の血の雫を残していく定町廻り同心・倉田主水、そして、第二の神隠しに遭った八百屋のお律の妹・お玉と役者が揃っていきます。しかも事件は便乗身代金誘拐犯が登場して、捕り物の末その男の首がすぱっと切り取られたり、はたまた、猫の首なし死体がころがったりとだんだん怪談調になっていきます。お初はその事件のどれにも関わり、自身も魔物に出会いその弁天様の化身の「ささやく影」で、敵の正体は女の妄執らしいと気がつきます。

 ここで猫の「鉄」が登場して物語は俄然ファンタジー調になります。しかし、これがやたら面白い展開で「ゴーストバスターズ」という映画を観たことがある人なら思わず笑っちゃうでしょう。人質の救出とその後の阿片の登場で話はさらに複雑になっていきます。怪しげな商売に手を染めているらしい浅井屋、やけどで爛れた顔を元に戻そうと物の怪の手引きをする娘、阿片中毒の伊左次の鬼気迫る暴れっぷり、毒の吹き矢を使うスナイパーの暗躍や女の妄執が凝り固まって火をつけても燃えない小袖など細かいエピソードが満載です。しかし、この小説は次々の起こるこれらの事件で500ページ近い長編を一気に読ませる魅力を備えています。ここに、さらにお初と右京之介のラブストーリーめいた描写までありまさにエンタティメント性満載のストーリー展開になっています。

 続編はまだ発表されていませんが、多分そこではお初と右京之助は所帯を持っているでしょう。ひょっとして子供まで出来ているかもしれませんね。そして、その子供がまた超能力者だったりしてたら・・・・なんて考えると果てがありません(^▽^;)