デュプレの芸術-1 | |
デュプレの至芸/エルガーのチェロ協奏曲 |
曲目/
Elgar: Cello Concerto In E Minor, Op. 85 *
1. Adagio Moderato 7:57
2. Lento, Allegro Molto 4:34
3. Adagio 5:15
4. Allegro Moderato 12:25
5.Delius: Cello Concerto** 24:45
Saint-Sans: Cello Concerto #1 In A Minor, Op. 33 ***
6. Allegro Non Troppo 5:43
7. Allegretto 5:31
8. Allegro 8:47
チェロ/ジャクリーヌ・デュプレ
指揮/ジョン・バルビローリ*
マルコム・サージェント**
ダニエル・バレンボイム***
演奏/ロンドン交響楽団*
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団**
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団***
指揮/ジョン・バルビローリ*
マルコム・サージェント**
ダニエル・バレンボイム***
演奏/ロンドン交響楽団*
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団**
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団***
録音/1965/08/19 キングスウェイ・ホール、ロンドン
P:ロナルド・キンロック=アンダーソン*,**
スヴィ・ラジ・グラップ***
E:クリストファー・パーカー*
ネヴィル・ボイリング**
クリストファー・パーカー*** EMI FRANCE CZS5681322
1965/01/12,14 アビー・ロード第1スタジオ、ロンドン
1968/09/24 アビー・ロード第1スタジオ、ロンドンP:ロナルド・キンロック=アンダーソン*,**
スヴィ・ラジ・グラップ***
E:クリストファー・パーカー*
ネヴィル・ボイリング**
クリストファー・パーカー***

天才チェリスト、デュ・プレがこの曲で名を成し最も得意とし、そして大事にしてきたのがこのエルガーの協奏曲です。まるでデュ・プレのために書かれたのではないかと思わせるほど、曲と一体となった激しくも美しい独奏は圧倒的で、今でもこの曲の代表的な名演となっています。デュプレは映像も含め何種類かのレコーディングを残していますが、純粋に彼女の天才性が開花しているのはやはりこのEMIへのセッション録音でしょう。後年結婚していたバレンボイムとともライブが録音されていますが、もう病魔は彼女の体を蝕んでいます。そんなことで、やはりベストはこのバルビローリとの共演盤でしょう。バルビローリの指揮もこの曲の初演に立ち会ったというだけ合ってすばらしいサポートです。さらにカップリングのディリアスのチェロ協奏曲もまた、この曲の唯一無二に等しい名演です。まあ、他にもラファエル・ウォルフィッシュ/マッケラス/ロイヤル・リヴァプールOの演奏もありますけど知られていませんわな。このフランス盤のEMIのCDにはさらにおまけにサン・サーンスのチェロ協奏曲も収録されています。このカップリングは後にデュプレの全集にも利用されています。単発の国内盤はエルガーとディーリアスだけですからこれはありがたいことです。そういうことで、このセットに含まれるCDではピカ一の内容を誇っています。
さて、一曲目のエルガーです。既に語り尽くされているほどの演奏で、この曲は彼女のために書かれたのではないかと思われるほどの名演です。そんな曲で、ズビン・メータはデュプレ亡き後この曲を指揮できないと封印しているようですし、バレンボイムもこの曲は特別の機会の時にしか指揮をしないようです。今年のベルリンフィルのヨーロッパコンサートは、その特別な機会だったのでしょう。ここではアリサ・ワイラースタインのバックをサポートしていますが、感慨のあまりか第3楽章の途中でタクトを落としてしまいます。多分デュプレと共演した時の思い出が去来して走馬灯のように彼の頭を駆け巡り瞑想の中に入り込んでしまったのではないでしょうか。この日の彼女の演奏を聴いて、小生もデュプレの幻影をそのとき見た様な気がしました。そして、このCDの存在を思い出したわけです。それまで、はっきりいってチェロ協奏曲の中でも、エルガーのこの作品は全く興味がありませんでした。LP時代もこのデュプレの演奏は聴きもしませんでした。でも、デュプレの名前は自然と耳に漏れ聞こえてきます。CD時代になり、デュプレの演奏を纏めたこのCDセットが発売されたのでその機会に購入した物です。ただ積極的に聴こうとしていなかったので棚に眠っていました(^▽^
。そういう意味では、ベルリンフィルのコンサートがこの曲を再認識させるいい機会になったといえます。

第1楽章から哀しみの中でむせび泣くチェロの調べで開始されます。ここでデュプレの弾いているチェロはダヴィドフ・ストラディヴァリウスの銘器です。その深々とした音色から醸し出されるメロディはまるで人生を知り尽くしたような調べとなって響いてきます。このときデュプレは若干20歳です。まさにチェロの天才と銘器が出会った一期一会の名演といっても過言ではありません。それを支えるバルビローリのタクトも絶妙のサポートです。何しろバルビローリはチェロ出身ですからね。優しく包み込むようなオーケストラの響きでデュプレを支えています。
第2楽章も冒頭のチェロのピチカートの響きからぞくぞくさせられます。この独特のアタックはヨー・ヨー・マでもかなわない響きです。とても女性の演奏者が出しているとは思えない音量で、デュプレはライブの演奏でもこのレベルで鳴らしています。いゃあ恐れ入ります。一歩もオーケストラに負けない力強い音です。これがあるから後のアレグロ・モルトの主部が生きてくるのでしょう。そして第3楽章の安らぎの調べ。それにしても良く歌うチェロです。これだけ完成された演奏を残しているのにデュプレはこの後、ロストロポーヴィチに学ぶためにロシアに留学しているのです。天才はどこまで高みを求めたのでしょうね。第4楽章はアレグロらしい快活なテンポで始まります。ここでは音楽の楽しさ、すばらしさというものを一音一音慈しむような演奏で応えています。本当に音楽を心から楽しんでいるような演奏です。
次のディーリアスのチェロ協奏曲はゆったりとしたテンポを基調とした単一楽章形式の楽曲です。ディーリアスの音楽は標題がついた情景描写をした曲が得意でした。ここでも、単一楽章ということで、チェロのための幻想曲の様な印象を持ちます。それは、イギリス北部の自然を描写したもので、なだらかな田園風景の中に小高い森があったり、小川の流れるせせらぎがあったりというほのぼのとした風景ではなく、嵐が丘の舞台となったハワースの荒涼とした丘のようなイメージです。まあディーリアス自体がイギリス北部のブラッドフォードの生まれですから、あながちこのイメージは間違っていないでしょう。どちらかというとたゆたゆと流れるメロディと時間の流れとともに刻々と変化する楽想がどこか幻想的な世界へ誘ってくれます。管楽器が押さえられたモノトーン的な音色で全体に包まれており、それは晴れ渡ることが少ないどんよりとした天気を表しているようにも思えます。その中で生きる小動物たちの自然の生態を慈しむように描いている音楽です。デュプレのチェロもその景色の一日の移ろいを、まるで精密画のように描写している様な気がします。録音エンジニアが違うので幾分チェロの響きが細い様な気がしますが、それがかえってこの曲には合っているようです。
この2曲とは打って変わった表情を見せるのはサン・サーンスのチェロ協奏曲です。この録音はデュプレとバレンボイムが結婚後に録音したものです。デュプレはバレンボイムと結婚するためにユダヤ教に改宗しています。まあ、結婚後一年半の時を経ての録音で一番幸せの絶頂期だったのでしょう。同じダヴィドフ・ストラディヴァリウスの響きとは思われない、やや軽いのですが華やかな音色のサン・サーンスです。それでいて浪々と歌うチェロはやはり聴きものです。バックのオケがニュー・フィルハーモニアということでやや渋い音色が気になりますが、バレンボイムも無難にまとめています。たた、もう少しオーケストラの音に透明感があればそれこそベストチョイスになったのになあと思います。

愛器ダヴィドフと愛夫バレンボイム
ところでデュプレが使用したダヴィドフ・ストラディヴァリウスは、デュプレ亡き後ヨー・ヨー・マに渡りましたが、マはこの楽器を古典の演奏には使用しているようで現代曲には使用していないようです。デュプレと比較されるのがいやなのでしょうかね?
さて、上はそのデュプレの十八番エルガーのチェロ協奏曲です。バックはもちろんバレンボイム、ここではフィラデルフィア管のサポートによる名演です。ライブでお楽しみください。