サイトウキネンの贈り物 | geezenstacの森

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サイトウキネンの贈り物

曲目/
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト/オーボエ四重奏曲ヘ長調K.370
1.Allegro 6:35
2.Adagio 3:21
3.Rondeau(Allegro) 4:29
[演奏]サイトウ・キネン・オーケストラ・チェンバー・プレイヤーズ
(VC)安田謙一郎
(VN)徳永二男
(VA)岡田伸夫
(OB)宮本文昭
ヨハネス・ブラームス/弦楽六重奏曲第1番変ロ長調Op.18
4.Allegro Ma Non Troppo 14:37
5.Andante Ma Moderato 10:05
6.Scherzo(Allegro Molto) 3:06
7.Rondo(Poco Allegretto E Grazioso 10:39
[演奏]サイトウ・キネン・オーケストラ・チェンバー・プレイヤーズ
(VC)松波恵子
(VC)木越洋
(VN)潮田益子
(VN)渡辺實和子
(VA)今井信子
(VA)店村眞積
カミーユ・サン=サーンス/動物の謝肉祭
8.Introduction Et Marche Royale Du Lion 2:00
9.Poules Et Coqs 0:42
10.Hemiones(Animaux Veloces) 0:40
11.Tortues 2:06
12.L'Elephant 1:20
13.Kangourous 0:50
14.Aquarium 2:31
15.Personnages A Longues Oreilles 0:40
16.Le Coucou Au Fond Des Bois 2:22
17.Volieres 1:15
18.Pianistes 1:19
19.Fossiles 1:18
20.Le Cygne 2:54
21.Final 2:08
[演奏]サイトウ・キネン・オーケストラ・チェンバー・プレイヤーズ
(P )ハル・フランス
(P )弘中孝
(FL)工藤重典
(PERC)加藤訓子
(PERC)小島光
(VC)安田謙一郎
(VN)安芸晶子
(VN)矢部達哉
(VA)岡田伸夫
(CL)カール・ライスター
(CB)赤星晃

録音/1995/09/02/-6 ザ・ハーモニーホール、松本

P:ヴィルヘルム・ヘルヴェク
E:オノ・スコルツェ

PHILIPS PHCP-21022

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 フェスティバルで念願の室内楽コンサートが初めて行なわれたのは1995年の9月3日でした。CDの録音はその前日から始まり、4、5日をメインに別途CD用に演奏したものです。もともとが、七夕オーケストラですから固定のメンバーでの演奏という点では実績というものがありません。
しかし、フェスティヴァルという独自の雰囲気の中で同じ釜の飯を食ったメンバーが集まって演奏するのですから一期一会の楽しみというものがあります。この年は、そういう室内楽の楽しみを設けた最初の年ということで、オーケストラのメンバーはそれぞれの曲を緊張感と期待を持って演奏したことが伺えます。室内楽というのはオーケストラサウンドの凝縮でもありますし、指揮者の指示ではなくメンバーの自発的な呼吸で演奏ですからこのオーケストラの本当の意味での演奏レベルが伺い知れるというものです。

 ここではこのフェスティヴァルの趣旨な賛同した各国のオーケストラのメンバーも集うスーパー集団的な部分も聴くものの興味の一つです。ベルリンフィルのカール・ライスター、ケルン放送交響楽団の宮本文昭、ヨーロッパでソリストとして活躍していた今井信子ら名手たちに加え、若手の矢部達哉ら国内組も交わり、きらめく音が寄り添っては弾ける、室内楽ならではの喜悦に満ちた素晴らしいアンサンブルを繰り広げています。

 1曲目はモーツァルトの「オーボエ四重奏曲ヘ長調K.370」です。この曲はのだめで使われてから、特に良く聴かれるようになりました。ここではそのオーボエを宮本文昭氏が吹いています。モーツァルトの無邪気さよりも、しっとりとした味わいのある響きが大人の音楽を感じさせます。2007年に引退してしまったのが惜しまれますが、クラシックだけにとどまらずポップスの世界でも活躍した氏のオーボエは聴けば宮本氏の演奏だとすぐに分かる独特の音色をもっていました。ここでも、その宮本節に乗ったモーツァルトが繰り広げられます。こういう、モーツァルトはもう聴けなくなったとは残念ですね。宮本氏はドイツでヘルムート・ヴィンシャーマンに4年ほど師事していましたが、ケルンをやめるきっかけになったのも、宮本氏の演奏を聴いたファンの一人からヴィンシャーマンの弟子ですかと言われたことがきっかけだとか。そのことがうれしくもあり、哀しくもあったということで、師匠のDNAを引き継ぐことと、自分の学んできたことを日本の音楽教育の場で生かしたいという希望が芽生えたターニングポイントになったということです。

 個人的にこのアルバムで一番聴きたかったのは2曲目のブラームスの「弦楽六重奏曲第1番変ロ長調Op.18」でした。メンバーからしてリードしているのはヴァイオリンの潮田益子さんだと思いますが、このフヴァイオリンにヴィオラの今井信子が絡み付いていく響きにはぞくぞくします。第1楽章から遅めのテンポでじっくりと主題を歌い上げていきます。メンバ−6人のうち4人が女性ということで、ややダイナミックスという部分にはかけるところがあるのはやや残念ですが、メロディの歌わせ方は丁寧で、そういう部分は有名な第2楽章でアクセントの強いバックの中でヴィオラの主旋律がくっきりと浮かび上がる手法をとっています。そこには官能美よりも女の情念のような響きが感じられて、映画「恋人たち」のイメージを覆すような演奏でややびっくりしたのを覚えています。

 最後はオールスターキャストによるサン・サーンスの「動物の謝肉祭」です。まじめに演奏しても冗談音楽になってしまうので、そのバランスの取り方が難しい曲ですが、ここでは名手たちが楽しんで演奏している様が目の前に浮かびます。カッコウではカール・ライスターのクラリネットがとぼけた音で笑わせてくれますし、白鳥では安田謙一郎氏のチェロが気品のある旋律で聴かせてくれます。こういう、室内楽の醍醐味がサイトウキネン・フェスティヴァルの中で聴けるのですから、オーケストラ・コンサートばかりに夢中になるのでなくてこういう室内楽のコンサートもじっくり聴いてほしいと思いますね。ただ、CD不況のおり室内楽のコンサートの録音は途絶えてしまっているのが残念です。