ベームのアルプス交響曲 | geezenstacの森

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ベームのアルプス交響曲
 
曲目/R.シュトラウス
アルプス交響曲Op.64
A.26:50
B.25:18

 

指揮/カール・ベーム
演奏/ザクセン国立管弦楽団(ドレスデン)

 

録音/1957/0914-18 十字架教会、ドレスデン
 
DGG SMH1003

 

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 今回もレコードでの鑑賞です。今では疑似ステレオという言葉自体も使われなくなってしまいましたが、こういうものが流行った時代もあったのです。録音年代を見ても分かるように、ステレオ録音が一般的になる直前の録音です。60年代になるとステレオ録音がもてはやされ、いつの間にかモノラル録音は肩身の狭い存在になっていました。そういう録音の救済措置として、モノラルを人工的にステレオに加工して発売するという小細工が一時流行しました。先に取り上げた「マイクログルーブからデジタルへ」の中ではトスカニーニの録音をステレオ化したのがこういうものの走りということが紹介されていましたが、モノラル録音しか残さなかった指揮者の名演がこういう形で復刻されました。

 

 このベームの「アルプス交響曲」もそういう流れの中で登場したものです。しかし、疑似ステレオ化の技術はRCAはかなり優秀なものでしたが、他の各社はドングリの背比べみたいなもので、高音成分は左チャンネル、低音成分は右チャンネルと単純に振り分けたものが多く、あまり成功したものに出くわした記憶はありません。このレコードのジャケットをご覧ください。今回はわざわざ帯付きで紹介していますが、堂々とステレオ録音と表記してあります。ところがこの帯の下には小さな文字で、「SREREO TRANSCRIPTION」という表記がされています。そして、日本語では裏面を確認してもどこにも疑似ステレオという表記はなされていません。当時、そういうものの存在を知らなかった小生はこのレコードを本当のステレオ録音のレコードと思い込んで購入したわけです。つまりは騙されたわけですな。クラシックに目覚めた当時はこういう失敗はいくつかありました。一番最初に買ったカラヤンのレコードも実は疑似ステレオのものでした。そういうトラウマもあって、カラヤンは嫌いになりましたし、東芝もグラモフォンも嫌いになりました。我が家のレコードライブラリーにそれらのメーカーのレコードが少ないのはそういう理由があったのです(^▽^;)

 

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 このレコード、「ヘリオドール」レーベルの第1回発売という文字が帯に踊っています。このヘリオドール盤は後の1000円盤とは違い、1967年に発売された1200円のシリーズで、この第1回発売はそのほとんどが疑似ステレオでの発売というとんでもないものだったのです。その全貌はmatumoさんのホームページに詳しいのですが、最初の発売のうち小生が所有するレコードで本来のステレオはヨッフムのシューベルトの「グレート(SMH1006)」だけでした。

 

 ここに取り上げるにあたって、今回こうしてじっくり聴いてみると、なかなかいい演奏ではありませんか。ベームは生涯を通じてR.シュトラウスの作品を積極的に録音していて、壮年期の録音は後年の老人病の症状?もなくきりりと引き締まった骨太の演奏を聴くことができます。ただ、疑似ステとあってせっかくの録音が芯の無いふぬけな響きになってしまっているのが残念です。これはやはりモノラルで聴くべき録音ですな。

 

 演奏自体は、冒頭から充実しています。元々、このオケはこの曲を初演しているわけでそういう自信というものが感じられます。ベームはそういう土台の上にたって密度の濃い音楽を引き出しています。冒頭の混沌から「日の出」の頂点に至るクレッシェンドが尋常でなく、いきなり圧倒されます。東独時代の演奏のドレスデン国立歌劇場管弦楽団は、いぶし銀の響きとはやや違う硬質な響きでどちら化というとベルリンフィルのような硬質の響きで、重戦車のような馬力のあるサウンドでR.シュトラウスの音楽を築いていきます。これが、R.シュトラウス自身が思い描いたアルプスのイメージの響きであったのかもしれません。「頂上」におけるトロンボーンの雄叫びのような響きも、それに呼応するトランペットも非常に男性的な響きで、ドイツ人魂を感じさせるに充分な響きです。

 

 モノラル末期ということで、グラモフォンの録音も完成の域にあるものだと推察されます。「日没」でのオルガンの響きもいいバランスで響いています。このコンビの最上の演奏を記録しているように思われます。まあ、そういうところから疑似ステ化を考えついたのであろうと思われますが、最終的には失敗ですわな。ということで、この録音はこのシリーズ以外では疑似ステレオで発売されたことはありません。現在発売されているCDももちろんモノラルです。演奏を聴くにはそちらの方がいいでしょう。ただ、珍品としては価値はあるのではないでしょうかね。