茂木大輔指揮「もぎオケ」の再現演奏会「第9」 |
曲目/ベートーヴェン
1.「献堂式」序曲より
2.「荘厳ミサ」より「キリエ」「クレド」「アニュスデイ」
3.交響曲第9番ニ短調「合唱付き
指揮/茂木大輔
ソプラノ/田島茂代
アルト/菅家奈津子
テノール/羽山晃生
バリトン/馬場眞二
合 唱/東京混声合唱団
演 奏/オーケストラ・アンサンブル「風」
収録/ 2005/12/25 三鷹市芸術文化センター「風のホール」、東京
株式会社ネット武蔵野
株式会社ネット武蔵野

先に紹介したもぎぎの「茂木大輔指揮「もぎオケ」の再現演奏会-ベートーヴェン交響曲第7、8番」に続いてのベートーヴェン再現演奏会の第2回第9「合唱」編です。ただし、こちらの方は市販していないようです。第9の抜粋だけがネット武蔵野のホームページで発売されています。これは本としての発売ですから書店経由でも買うことは可能でしょう。
市販していないせいか、完成度としてはイマイチです。全曲演奏されているのは交響曲第9番のみで、最初の献堂式」序曲は冒頭の一部のみ、「荘厳ミサ」も3曲しか収録されていません。ただし、この「荘厳ミサ」だけは当日もこの3曲しか演奏されていません。元々の初演では1824年5月7日、作曲者立会いのもと、ウィーンのケルントネル門劇場にて行われていますが、この時もミサ・ソレムニスからは「キリエ」「クレド」「アニュス・ディ」しか演奏されなかったのです。ですから「献堂式」序曲が全曲演奏されていれば、ちゃんとした再現演奏会になっていたはずなんですが、不思議なことです。そのかわり、もきぎの初演にまつわるレクチヤーはきっちり収められていますから、そういう部分の作りは前作を踏襲しています。余談ですが「荘厳ミサ」は、先に1824年4月7日にサンクトペテルブルクでの「音楽家未亡人のための慈善演奏会」で初演されています。ウィーンでの演奏会のメインは交響曲第9番だったのでこのような形になったのでしようね。
荘厳ミサは全曲から第1曲、第3曲、第5曲という形での演奏です。まあ、おいしいとこ取りですね。この演奏会も人数的には前作に準ずる形での編成で、いってみれば室内オーケストラの拡大版による演奏です。合唱もこじんまりとしたもので全体で30名にも足りません。それ故に音としては濁りの少ない純度の高い響きを聴くことが出来ます。こういう曲ですから、お客さんもきっちりと聴いています。レクチャの中でこの第3曲の「クレド」の中の「我来世の命を待ち望む」の部分がこのミサ曲のツボということで先に演奏されます。ただし、DVDでは本番のこの部分はカットされています。あくまでも交響曲第9番に焦点を当てた編成です。ですから、まともに収録されているのは交響曲第9番だけなんです。
ただ、最初にもぎぎのレクチャーが収録されていますが、そこで話されている内容から、この交響曲第9番の演奏会でも第2楽章終了後に拍手喝采が起こり、演奏が中断したという逸話が披露されていました。これも今まで知らなかったことです。だだし、この演奏会ではここでアンコールされたわけではなく、演奏終了後にアンコールされています。それも第2楽章のアンコールは一度だけではなく2度も行なわれているのです。それでも拍手は鳴り止まなかったそうで、3回目を臨む声もあったそうです。しかし、さすがに3回目は警備の兵士に止められたというエピソードが残っています。初演は成功した風に見えますが、実際の喝采は合唱部分ではなかったんですなぁ。前作では交響曲第7番の第2楽章のアンコールまでちゃんと収録されていましたが、ここではアンコールもカットされていますし、2楽章終了時の拍手までカットされちゃっています。
そんなことでの交響曲第9番の演奏です。再現していないついででは、初演時は合唱団は最初からオーケストラとともに舞台に陣取っていましたが、ここでは「荘厳ミサ」終了後はいったん袖に引っ込んでいます。まあ、今では一般的な形の第2楽章終了時に再登場です。
演奏は立派なものです。小編成とはいえプロのオーケストラのメンバーばかりが揃っていますからアンサンブルはきっちりと出来ています。この曲については日本のオケのメンバーなら多分一年で一番演奏回数が多い曲ですからね。もぎぎの指揮は取り立てて奇をてらった演奏はしていません。極めてオーソドックスな演奏です。ですから聴いていても安心感があります。ライブですから少なからず瑕はありますが、音楽の中に身を委ねることは出来ます。
実際の演奏会はもっと楽しいものだったのでしょうが、残念ながらこのDVDからは前作のような楽しさは伝わってこないのが残念です。そして、財政難からこの種の演奏会は終了してしまったようです。もはや、日本には山本直純氏の跡を継ぐような演奏会の出来る指揮者はいなくなってしまうかもしれませんなぁ。