
新聞の集金人やファミレスのウェイトレスをつとめるお年寄りたちが、客と絶妙な掛け合いを繰り広げる(「接客セブンティーズ」)。繁華街にできた不思議な行列の先に何があるのか(「マツノギョウレツケムシ」)。CM、心理テスト、旅行など、日常生活のなかにひそむ面白さをつかみ出した会心のユーモア小説13編!---データベース---
パスティーシュから脱皮して、もはや自分の書きたいものを書くといった作風に変わってきている清水氏の本領発揮のユーモア短編集です。日常の何気ない事象を切り取り鋭い観察眼で描く作品は、こういう切り口もあるのかと思わず感心してしまいます。バラエティに富むテーマですがこの中で、「CM歳時記」だけは先に「インパクトの瞬間」に収録されていましたので紹介しています。13編は次のような内容です。
CM歳時記 「小説現代」1999年1月号
接客セブンティーズ 「小説現代」1998年7月号
ディスクの中で 「小説現代」1999年10月号
超絶心理テスト 「小説新潮」2001年1月号
マツノギョウレツケムシ 「小説現代」1998年4月号
ドーラビーラ物見遊山ツアー 「小説現代」2000年5月号
ノヴェル・フィッター 「小説現代」1998年1月号
一見の価値 「小説新潮」2000年4月号
いちばんなんでも言える仲 「小説現代」1999年7月号
町営博物館 「小説現代」1999年4月号
トイレット・シンドローム 「小説現代」1998年10月号
アサハンさん 「小説新潮」1997年12月号
算数の呪い 「小説現代」2000年1月号
接客セブンティーズ 「小説現代」1998年7月号
ディスクの中で 「小説現代」1999年10月号
超絶心理テスト 「小説新潮」2001年1月号
マツノギョウレツケムシ 「小説現代」1998年4月号
ドーラビーラ物見遊山ツアー 「小説現代」2000年5月号
ノヴェル・フィッター 「小説現代」1998年1月号
一見の価値 「小説新潮」2000年4月号
いちばんなんでも言える仲 「小説現代」1999年7月号
町営博物館 「小説現代」1999年4月号
トイレット・シンドローム 「小説現代」1998年10月号
アサハンさん 「小説新潮」1997年12月号
算数の呪い 「小説現代」2000年1月号
この中で特に印象に残ったのは「接客セブンティーズ」と「算数の呪い」でした。前者は最初小生は17歳の少女を主人公にしたナウいギャルの話しで、氏特有の国語を憂うストーリーかなと思っていたのですが、のっけから当方が大ボケをかましてしまいました。これは、もはや氏自身もその域に達しようとしているお得意の老人を扱ったものの中でも傑作に値するものです。「セブンティーズ」とは「セブンティーン」とは大違いの70代の老人達を主人公にした小説だったのです。
話しはクドいのですが話術に長けた新聞代の集金人、ここで登場するのがMDのおまけ。パソコン用のMDという節邸がまたボケてていいですね。次に登場するのはカウンターで働くのは全員老人というマックの店です。注文品はなんだかんだとお勧めセットを押し付け、商品が揃うまで次のお客は待たせたまま、あげくの果てはそれまでの時間うんちく話は始めるわでわやですわ。クリーニングでは白善社が登場します。これは実名ではまずかったのか架空の名前になっています。クリーニングの集配人のじいさんは前は技術者、サービスのつもりで客の掃除機を修理することに、そしても要らぬおせっかいがとんだことに・・・次は機械音痴なのにファミレスのデニーズで働くウェイトレスのオバァちゃん、オーダーの機会相手に四苦八苦です。お客には水も出し忘れます。最後は宅配のカジノピザです。昔の記憶を頼りに配達しますが、周辺の景色が変わってしまっていて配達時間は30分を超えてしまいます。超えると料金は無料になってしまいます。そこをなんとか料金を払ってくれるように頼み込むじいさん。ところが、伝票が重なっていて配達先も間違えていたというとんでもない落ちが付きます。団塊の世代の大量退職時代を先取りしたテーマが、こういう人間像を描かせるんでしょうね。
そして、もう一作。「算数の呪い」はある作品へのオマージュが込められています。それは氏の出世作ともなった「国語入試問題必勝法」で、この中の一方の主人公であった高校生の「浅香一郎」がいまや立派な父親となって登場しているのです。珍しくこの本、あとがきを読まずに読み始めたので、当の主人公の名前が何処かで聞いたことのある名前だなあとは思っていたのですが頭に浮かんでこなかったのです。ところが、そのネタを作者があとがきの中でばらしていたんですねぇ。この浅香一郎、小学生の男の子をもつ親父となって子供に算数を教えているのです。この「のろわれた算数」は、どう転んでも「いやでも楽しめる算数」のエピローグ的な作品としか思えないのです。ちなみにどちらの本も2001年の作品です。ここで、作者は「つるかめ算」と「仕事算」の文章題を例に挙げて、あり得ない思考の問題のバカさ加減を告発しています。「いやでも楽しめる算数」で書きたかった算数文章題の非現実性をここで徹底的に皮肉っていて痛快です。
このような作品が13編です。お勉強シリーズ以外では最近一番楽しめた小説集です。清水博士ならではの視点の「シュー・フィッター」ならぬ「ノヴェル・フィッター」、海外旅行に行くと一番心配になるトイレに話しを絞った「トイレット・シンドローム」なんて笑っちゃいますが真実を突いています。お勧めの一冊です。