寝台特急「北陸」殺人事件 | geezenstacの森

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寝台特急「北陸」殺人事件

著者/西村京太郎
出版/光文社 光文社文庫

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 金沢のホテルから失踪した学生時代の親友を探すため、理沙は上野から寝台特集「北陸」に乗った。早朝、後頭部を殴られて理沙は昏倒。気がつくと寝台に運ばれていて、隣には旧知の男性の刺殺体が!当然、理沙に殺人容疑がかけられる。一方、東京で捜査を進める十津川と亀井も「北陸」に乗り込むか…。北陸を舞台に人間の心の“二面性”を描く、旅情ミステリー。---データベース---

 本作品の初出は「小説現代」1984(昭和59)年3~5月号で、トラベルミステリー絶頂期の作品ということが出来るでしょう。時代はまだJRが国鉄だった頃で、寝台特急の車内や道中の描写が細やかに描かれていて疑似旅行気分に浸ることが出来ます。学生時代の親友三人組の女性が、卒業後再会のために北陸は金沢に集おうとしますが、その矢先に失踪事件が起きてしまいます。その失踪した親友を探すため、高橋理沙は上野から寝台特集「北陸」に乗りこみます。ところが友人を捜すより先にその車内で殺人事件が発生し、自身も殴られて被害者となってしまいます。おまけに殺された男は三人の親友が知るところの人物だったのです。

 なかなかミステリアスな展開でテンポもあります。そして、列車内での殺人事件は列車を使ったトリックもきちんと描かれていて、犯人の行動を推理させる描写もあります。やがて、第2の殺人事件が発生し、関連から北陸の殺人事件との関連が伺え、十津川警部たちの本格的な捜査が始まります。まあ、細かい部分での青酸カリの入手ルートとかその殺人の手口なんかはいい加減な部分がありますが、概ね推理小説の王道を行くストーリー展開になっています。

 これまで、かなりの西村京太郎作品を読んできましたから、最初の第1章を読んだだけで犯人の目星がついてしまいましたが、細かい部分は読み進めなくては理解出来ません。何しろ共犯者が途中からしか出てこないのですから。それでも、アウトラインを早々亀井刑事の口から喋らせてしまい、推理の手助けをしているのは余分なおせっかいのように思いました。

 小説ですから、ストーリー展開に不可解さがあるのは当然なのでしょうが、旅館の女将をやっている親友の神木美也子が商売をほったらかしにして理沙と供に親友の失踪の捜査に専念するというのは解せません。まあ、こういうところからも犯人像が浮かんできてしまうのですがね。

 トラベルミステリーとして、北陸の名刺世の芦原温泉とか東尋坊なども出てきて旅情ムードは満点です。警察の捜査に加えて、親友二人の素人探偵のような行動もそれなりに楽しめます。ただ、犯人の首を絞めかねないこういう展開が今ひとつ理解出来ないのは確かです。

 一連の事件の時系列的な流れと、犯行の手口は距離的なものを考えると必ずしもすっきりとしているわけではありませんが、学生時代と社会人になってからの人間の時間的成長とその心の変化をストーリーの根底に持たせることで小説としての面白さは倍増しています。ただ、明らかにその部分に最初から触れながら描かれているのでストーリーとしての深みはあまり無いような気がします。

 途中で親友の行動がおかしいことに気がつきながらも、警察にも知らせないで一緒に行動する里砂の心理状況はあまりにも稚拙でばからしくなります。まあ、それがあるからこそ最後に十津川警部たちが登場してドラマチックな結末を迎えることが出来るのですが、読む方はもう結末が見えていますからそこで読むのをストップしてしまうことにもなりかねません。

 ドラマではちゃっかり西本刑事が殺された本田めぐみという女性と出くわすシーンが最初に描かれていました。ストーリーとしてはこの方が自然な感じがします。ドラマの方が原作を上回っています。