スクロヴァチェフスキーのロマンティック | geezenstacの森

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スクロヴァチェフスキーのロマンティック

曲目
ブルックナー交響曲 第4番 変ホ長調 「ロマンティック」[1878-1880年第2稿 (ノーヴァク版)]
1.変ホ長調、2/2拍子(2分の2拍子)“Bewegt, nicht zu schnell” 21'08
2.ハ短調、4/4拍子(4分の4拍子)"Andante Quasi Allegretto" 16'31
3.変ロ長調、2/4拍子(4分の2拍子)“Bewegt” 10'51
4.変ホ長調、2/2拍子(2分の2拍子)“Bewegt, nicht zu schnell” 22'03

 

指揮/スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
演奏/ザールブリュッケン放送交響楽団

 

録音/1998/10/25-28、ザールブリュッケン、コングレスハレ
P;トーマス・ライジーグ
E:エーリッヒ・ハイゴルド
 
Arte Nova  BVCE-38019 (74321 721012)

 

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 このCDを紹介するにあたってブルックナーの版ごとにどういう演奏があるのかなぁ?と思ってインターネットを検索したらあるもんですねぇ。こちらのサイトにどの演奏がどの版を使っているのかを一覧表にしていました。凄い!!
http://www.abruckner.com/discography/symphonyno4ineflat/
 
 で、それによるとこれは1878年-1880年第2稿のノーヴァク版使用とのことですが、やや改定版に傾いた解釈で、例えば第1楽章では、冒頭で総奏前にオクターブ上の弦楽器が追加されるし、クライマックスのコラールの最後にはティンパニが轟きます。そして、終楽章にもシンバルの一撃があります。また全体的にはテンポは速めに聴こえますが、かなり即興的に動かしているので、トータルタイムは70分と長めとなっています。ライブ録音からの編集なので、客席の雑音や時に指揮者の唸りらしきものも聴こえます。管弦楽は精緻で狂いがない。それでいて生き生きとしていてはいるのですが、どうも全体としての印象はシューリヒトのブルックナーのようにやや深みに欠け、書道の一筆書きに似た印象があります。ですからオーケストラの演奏は精緻でしっかりとしているのですが音色的にやや物足りなさを感じてしまいます。

 

 この演奏、当初はBMG翼下のArte Novaから発売されていました。しかし、現在ではOehms Classicsからの発売となり価格が上がってしまっています。何でこんなことになってしまったんでしようかね?不理尽です。もともとARTE NOVAはディーター・エームス氏が社長を務めていました。そうなんですOehms Classicsのエームス氏なんですね。でもって、ARTE NOVAの原盤をかっさらって自分のレーベルを立ち上げたというわけです。で、価格を上げてその分をがっぽり稼ごうというわけですね。こんなことで、ARTE NOVAのナクソスに対抗するというポリシーは何処かへ行ってしまい、Oehms Classicsも現在はナクソスの運営するNMLに参加しているところを見ると、その存在感が中途半端になっているような気がします。ソニー翼下になったことでレーベルの再編はあるのでしょうかね?

 

 まあ、そんなことはともかくスクロヴァチェフスキーのブルックナーです。彼はザールブリュッケン放送交響楽団とこのブルックナーの交響曲全集を録音しています。それも中途半端ではない0番、00番まで含んだ本格的なものです。収録曲数でもダントツの交響曲全集なわけです。これは聴き逃せませんぞ。で、その中にも含まれる交響曲第4番「ロマンティック」を取り上げるわけです。

 

 この版による演奏で70分以上の録音をピックアップしてみました。まあ、上には上がいるものですが録音年代からするとスクロヴァチェフスキーの遅さは際立っています。

 

演奏者 第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章
Zweden, Jaap van Netherlands Radio Philharmonic 20:51 17:13 10:26 23:05
Soudant, Hubert Melbourne Symphony Orchestra 22:04 18:22 10:35 23:14
Sieghart, Martin Gelders Orkest 20:46 16:28 11:06 23:14
Petersen, Reinhard Stadtische Orchestra Trier 20:13 17:36 10:28 22:42
Park, Eun-Seong Suwon Philharmonic 22:13 17:35 11:55 21:19
Maazel, Lorin Bavarian Radio Symphony Orchestra 21:18 16:02 11:49 23:34
Jansons, Mariss Bavarian Radio Symphony Orchestra 20:49 17:24 11:25 21:54
Eschenbach, Christoph Orchestra de Paris 22:44 17:04 10:41 23:05
Skrowaczewski, Stanislaw Saarland Radio Symphony Orchestra 21:08 16:31 10:51 22:03

 第1楽章の冒頭、靄の中から旋律が浮き出てくるのですが、ホルンの音がややバランス的に強いのにびっくりですね。しかし、悠然としたテンポで上のリストにはありませんがベーム、ウィーンフィルの雰囲気に似ています。ただ、サウンド的にはウィーンフィルのように洗練されていません。物の表記によってはライブレコーディングということになっていますがどうなんでしょう。録音データからするとそんな風には感じられないのですがね。で、最初に記した冒頭の総奏前のオクターブ上の弦楽器は小生の耳では聴き取れませんでした。ははっ、でもここではスクロヴアチフスキーの唸り声がばっちり聴き取れます。力入ってます。最初の爆発は迫力あります。ちょっとテンポが揺れて、速くなってくるところもあり全体としては悠然とした響きでブルックナーサウンドが炸裂します。

 

 一段落した後の木管の鄙びた響きが良いですね。この曲を始めとしてブルックナーはホルンの使い方が独特でここでも、押しの強いホルンの響きが魅力的です。全体から見るとミスターSはこのホルンの響きを中心に据えて弦の音色を柔らかな響きでブレンドして包み込むという手法で統一している様な気がします。こうすることで、力強い男性的な響きを女性らしい柔らかな調和のとれた響きでブレンドすることによってバランスをとっています。なかなかの構成力ですね。中間部はその女性的な特性が良く出ています。弦が美しい。

 

 第2楽章も第1楽章を引きずっているのでテンポはゆったりとしてオブラートに包まれたような柔らかさの響きで開始されます。。しかし、実際にはそんなに遅くはない演奏であることが上の演奏で分かります。むしろその一楽章との比較では早い部類に属します。ここは実際の演奏会では一楽章の反動からつい睡魔に襲われる楽章です。それもそのはず、弦のスタッカートで演奏されるテンポが時計の振り子のように睡眠を誘っていますからね。まあねそれだけα波が発散される構成になっているのでしょう。このスクロヴアチェフスキーの演奏もどうもそれを狙っているかのような心地よいテンポです。この際そのマジックに引っ掛かってみるのも良い手ですね。中間部なんで天国的な美しい響きでフォルテでもいい気持ちです。

 

 ホルンのファンファーレが天馬が駆けて来るような足どりの響きを連想させます。ここではテンポが縦横に伸縮します。躍動感のある響きです。そうそう、この第3楽章で客席の咳払いが聴こえますので何となくライブ録音の様な気がします。ただこの楽章、他と違って音がちょっと団子状に聴こえます。何でなんでしょう。ということで印象は今一の楽章です。4日間も演奏しているんだから、もう少し爆発するようなテイクは無かったのかな?という感じがします。

 

 最終楽章は、その点また盛り上がります。全体のテンポのバランスが良いのでこの楽章が引き締まって聴こえます。例によってカンタービレで唸り声が聴こえます。おお、乗っているなぁと感じますね。どことなくオリエンタル的なフレーズも幻想的に響いていいですね。ただねその後のフォルテがやや迫力不足でもう少し燃えてくれーという不満がちょっとあります。こういうところが一筆書き的なあっさり感に繋がっているんですね。でも、この第4楽章は結構楽譜をいじっているところが散見されます。冒頭に記したティンパニもそうですし、弦のピチカートの響きも無いようで聴き取れませんし、コーダ前の弦の響きもあれっという箇所があります。まあ、これがミスターSの解釈だ!といってしまえばそれまでですが。いろいろな演奏に接しているとやや違和感を感じる部分です。

 

 

 でも、基本的にはさすが話題になった演奏ということで、この一連の録音でまたミスターSが注目され出したんですからそれはそれで良かったんでしょうね。ミネソタ管弦楽団との一連の録音も良い仕事していたんですからね。レコード会社に恵まれなかったということなんでしょう。個人的には、このCDを単独で購入してから後で全集も買うことになりました。