もう一つのヘイ・ジュード | geezenstacの森

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もう一つのヘイ・ジュード

BS20周年ベストセレクション
世紀を刻んだ歌「ヘイ・ジュード」 -革命のシンボルになった名曲- ▽ビートルズ不朽の名作がたどった知られざる軌跡

 

【出演】ロバート・ハリス,森雪之丞,マルタ・クビショバ、ヤン・ネメッツ
BS 2 10月3日(土)後9:30~11:00

 

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 1968年に誕生したビートルズの名曲「ヘイ・ジュード」。同じ年、チェコスロバキアで、“プラハの春”が、ソ連軍によって弾圧されたとき、チェコ語版のヘイ・ジュードが歌われた。このレコードを出したのはアイドル歌手、マルタ・グビショバ。その後、彼女は政府の弾圧を受けたが、89年の無血革命のとき、彼女の歌は革命のシンボルとしてよみがえる。「ヘイ・ジュード」に秘められた知られざる物語を探るこの番組を振り返る。---NHK解説より---

 

 20世紀に大ヒットした名曲の時代背景や秘められた物語を探るシリーズで初回は2000年10月4日にBShiで放送されています。どうりで見た記憶が無いはずです。今回はBS2での放送ということでかなりの人が視聴出来たのではないでしょうか。「ヘイ・ジュード」、ビートルズの数ある名曲の中で一番好きな曲です。しかし、音源として所有していたのは有名な海賊盤としてでした。アメリカ盤で、レーベルはいかにも安っぽいものでしたが、音はちゃんとしたステレオ録音で、それこそこの曲が収録されている面はすり切れるまで聴き込んだものです。当時はこのアルバムで聴けるステレオの演奏が当たり前だと思っていたのですがヨーロッパでは違っていたんですね。イギリスではモノラル盤でしか発売されず、アメリカ盤で発売されていたLPが逆輸入されたということです。

 

 まあ、そんなことはどうでも良いのですが、この番組はそれまでのこの曲に抱いていたイメージを覆す内容でした。そしてこの番組の主役はビートルズではなく、チェコのマルタ・クビショバという女性歌手が歌うチェコ語による「ヘイ・ジュード」でした。

 

 そこには1968年のソ連軍の侵攻による「プラハの春」終焉から1989年の無血による「ビロード革命」に至る暗い時代を反政府運動のシンボル的存在として地下活動をしていたという人物です。彼女の歌ったこのチェコ語の「ヘイ・ジュード」はチェコ人にしか分からないメッセージが込められ、放送禁止にされましたが長く国民の間で歌い継がれていくのです。ただ、彼女の存在は断片的に歴史に登場するだけで、英語の「Hey Jude」のサイトでは彼女のことは一言も触れていません。日本語版のウィキペディアにはカヴァー曲のコーナーでちょっと触れられているだけです。番組の中では、ビロード革命の時に彼女の歌うこの「ヘイ・ジュード」がいかに当時の革命を支えた民衆の支えになっていたかを伺い知ることが出来ますが、その「ビロード革命」の項目でも彼女には一言も触れられていません。

 

 このような扱いですから、この番組で浮き彫りにされた彼女の存在はそれはショックでした。そして、番組の終わりでも、コメンテーターのピーター・バラカン氏が触れていましたが、こういう事実はチェコ以外の国ではほとんど知られていなかったという事実です。当のビートルズのポール・マッカートニーにも取材をしたということですが、彼もこの曲のチェコでのカバーバージョンの存在は知らなかったということです。

 

 クラシックファンとしてはこの時の「ビロード革命」の後、指揮者のラファエル・クーベリックがチェコに戻り、翌年の「プラハの春音楽祭」でスメタナの「我が祖国」が彼の指揮で演奏されたという歴史的演奏会のことは記憶しています。しかし、本当の意味での一般市民がチェコの革命歌として心に刻んでいたのはこの「ヘイ・ジュード」だったのではという気がしました。
 そして、この曲のビデオが残っているということも驚異です。制作はなんと、当時の夫であったヤン・ネメッツです。

 

 

 このクビシュバの歌う「ヘイ・ジュード」は歌詞の意味はまったく違います。その歌詞は次のようなものになっています。

 

ねぇ ジュード 涙があなたをどう変えたの
目がヒリヒリ 涙があなたを冷えさせる
私があなたに贈れるものは少ないけど
あなたは私たちに歌ってくれる
いつもあなたと共にある歌を

 

ねぇ ジュード
甘いささやきは 一瞬 心地いいけど
それだけじゃないのね
「韻」の終わりがある すべての歌の裏には「陰」があって
私たちに教えてくれる
人生はすばらしい 人生は残酷

 

でもジュード 自分の人生を信じなさい
人生は私たちに 傷と痛みを与え
時として傷口に塩をすりこみ 杖がおれるほどたたく
人生は私たちをあやつるけど悲しまないで

 

ジュード あなたには歌がある
みんながそれを歌うと あなたの目が輝く
そしてあなたが静かに 口ずさむだけで
すべての聴衆はあなたにひきつけられる
あなたはこっちへ 私は向こうへ歩き出す
でもジュード あなたと遠くはなれても
心は あなたのそばに行ける
今 私はなす事もなくあなたの歌を聴く自分を恥じている
神様私を裁いてください
私は あなたのように歌う勇気がない

 

ジュード あなたは知っている
口がヒリヒリ 石をかむようつらさを
あなたの口から きれいに聞こえてくる歌は
不幸の裏にある「真実」を教えてくれる

 

 詩は二人の少女の会話になっているということですが、この詩の裏に隠された真実を読み取るには当時の時代背景を知ることが大切です。番組は国の体制が変り、クビシュバと彼女の夫だったメネッツとの離婚も描いています。二人の人生をも狂わせてしまう時代の大きな流れの変化、生きるために仕事を追われた夫は生きるために亡命を選択し、彼女は国に残り体制への抵抗を継続します。しかし、プラハへのソ連軍の侵攻を初めて西側に知ら締めたのはこのメネッツの撮影した映像だということも歴史的事実です。

 

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 番組は、ビロード革命を成功に導いた後の大統領となるヴァーツラフ・ハヴェルとのかかわり合いを描きながら、最後に彼女が撮影時の2001年に歌う「ヘイ・ジュード」で締めくくられます。一つの歌には革命を引き起こす素晴らしい力があるのだということを再認識させられました。けだし、「ヘイ・ジュード」は名曲です。下は最近の映像です。

 

 

追記

 この記事を読むにつけ、今のウクライナとロシアの侵略戦争のこととどうしてもダブってしまいます。