「英雄」の幽霊演奏 | geezenstacの森

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「英雄」の幽霊演奏

曲目/Beethoven
Symphony #3 In E Flat, Op. 55, "Eroica" *
1. Allegro Con Brio 14:32
2. Marcia Funebre Adagio Assai 16:29
3. Scherzo Allegro Vivace 6:10
4. Finale: Allegro Moito, Poco Andante, Presto 12:27
5. King Stephen Overture, Op. 117 7:30
6. German Dance In C, WoO 8 0:46
7. German Dance In A, WoO 8 1:53
8. German Dance In F, WoO 8 1:45

 

指揮/アルベルト・デランテ*
   カール-オーガスト・ビュンテ
演奏/南ドイツフィルハーモニー管弦楽団*
   ベルリン交響楽団

 

ZYX CLS4007

 

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 ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」が好きでLP時代から見つけては収集していましたが、それに伴い自ずとゲテ物LP、CDも集まりました。今回はそんな中からいわゆる幽霊演奏ものをピックアップしてみました。今回取り上げる一枚もそんなものです。
 英雄の幽霊演奏に付いては「http://kechikechiclassi.client.jp/yasuda1.htm 林」さんのホームページ]にも取り上げられています。そこから関連の部分を引用してみますと、
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
 (幽霊)ヘンリー・アドルフ指揮フィルハーモニア・スラヴォニカ
 (幽霊)アルフレート・ショルツ指揮フィルハーモニア・スラヴォニカ
 (幽霊)ウラジミール・ペトロショフ指揮フィルハーモニー・フェスティバル・オーケストラ
 (本物)ズデニック・コシュラー指揮スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団

 

といったものが上げられるということです。まあ、この手のたぐいは演奏時間をたよりに検索してみると分かるものなのですが、この演奏も全く演奏時間が同一です。ジャケットに記載のソース元が悪名高い「MEDIAPHON」ということからも推察されるところです。本家本元のコシュラーの演奏に付いてはホームページで取り上げていますからここでは繰り返しませんが、上記の演奏タイムでソースが妖しいものは疑ってみる必要があります。

 

 これを機会に手持ちのCDを整理してみるとぞろぞろ出てきました。以下手持ちの同一音源と思われるものです。
ヘンリー・アドルフ/南ドイツフィルハーモニー PILZ 449259-2
ペーター・スターン/アムステルダム交響楽団  Selcor CCT620

 

 これらは併録曲の組み合わせが違うので別の演奏と思い込み買ってしまったものですが、よくよく演奏時間を調べてみると全くタイミングが一致します。そして、どれもなかなか覇気のある演奏と感心した演奏です。そりゃそうでしょ、もとはコシュラーの演奏なんですから。オリジナルはゲルミダスの録音でCD初期にはテイチクから発売されていました。手元にあるオリジナルは「NAXOS」から発売された初期盤で、これ一曲しか収録されていないCDでした。まだまだ手薄だった頃の珍盤で他からのソースで穴埋めしてカタログを埋めていたのですね。

 

 話はそれますがPILZの2枚組の片割れは、これも幽霊と思われるハンス・スワロフスキー指揮ミュンヘン交響楽団の演奏の「田園」になっています。このPILZのシリーズ、売りはDDDなのですが堂々とこんな指揮者の名前を出してくること自体まがい物だということが分かります。なぜなら、指揮者のハンス・スワロフスキーは1975年に亡くなっています。つまりはデジタルの録音が存在する訳が無い時代に亡くなっているのです。いい加減な商売をしていたのがこういうところからも分かります。

 

 ところで、このブログを書く時は演奏時間と曲目をiTunesを使ってCDDBへアクセスしてデータを得ています。で、このCDも当然そうしました。そして得られたのが上のデータですが、これはこれでちゃんと登録がありました。しかし、「英雄」の指揮者はアルフレード・ショルツ、演奏はロンドン・フィルハーモニー管弦楽団となっていました。そういう組み合わせもあったのでしょうね。同じく、SelcorのCDも同様にアクセスしてみましたが、こちらも「英雄」だけがショルツ/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏と表記されていました。とにかく無茶苦茶幽霊がいるということなんでしよう。

 

 で、本家本元のコシュラーの演奏をCDDBで調べたらこれはなんとホグウッド指揮のエンシェント室内管弦楽団という名前で登録されていました。冗談だろうと思い、正真正銘のホグウッドのCDでアクセスしたらそちらはちゃんとホグウッドで登録されていました。つまりは誰かが間違えて登録してしまったものなのでしょう。この際なので、正しいデータを入力してCDDBに送信しておきましたので近いうちに反映されると思います。

 

 はてさて、このCDに含まれる2曲目の「シュテファン王序曲」は英雄とは音の響きが全く違うことから全く別の演奏ということが出来ます。ホールトーンからして違いますし、弦の響きの厚みが違います。そりゃあコシュラーの「英雄」の方が馬力のある音でオーケストラの響きもバランスがとれています。しかし、序曲の方は音にキレがなくなおかつ弦の響きが薄いので迫力が無く、まるでぬるま湯に使ったような演奏に聴こえてしまいます。どちらかと言うと続くドイツ舞曲の演奏も同じ傾向の音で収録されていますから演奏者は違う表記になっていますが同じものと考えても良さそうです。
 
 ゲルミダスというメーカーも罪なことをするものです。テイチクはきちんとライセンスしていたようですが、もともとあまり表には出てこないメーカーです。CD初期に華々しくデジタル録音で登場したレーベルですが手元のコレクションを調べてもゲルミダス・レーベルは一枚もありません。まさしく幽霊です。

 

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 スターン盤です。1988年に発売されています。made in E.E.Cとだけジャケットには記載されていますが、CDレーベルにはmade in Belgiumとの記載があります。このCDの特徴は併録曲でなんとベートーヴェンの交響曲第9番の第4楽章のしかも後半の合唱から始まるアレグロ・モルト部分からの12分半が収録されているのです。この中途半端な組み合わせ、いかにもいい加減な作りということが出来ます。しかし、この合唱どっしりとしたテンポ設定でなかなか侮れない演奏です。オーケストラも結構いろいろ仕掛けがあり、トランペットが突然咆哮を上げるなどきわめてエキセントリックな演奏です。しかし、カタログにはこの曲の全曲盤の演奏は含まれていないという摩訶不思議なものです。一応こちらの方の合唱はプロ・ムジカ・コンソートという表記があります。

 

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 悪名高いPILZの2枚組です。英雄の方は手を抜いたのかこれ1曲だけの収録です。ですから、全くコシュラーと同じものということが出来ます。CCDBのデータ検索でも同一のデータを引っ張ってきました。そのくせもう一枚のCDには田園と組み合わせてピアノ四重奏曲ホ短調Op.16という作品を収めているというけったいな内容です。そして、演奏もバンベルク四重奏団という団体でいかにもありそうな名前ですが、バッタものにしか登場しない名前です。

 

 さて、昨年CASCADEというところから「ベートーヴェン・プレミア・エディション」という40枚組のCDが廉価盤で発売されましたがその中にも「英雄」は含まれています。HMVのデータでは英雄はヴァルデマール・ネルソン/南西ドイツ放送交響楽団となっていますがこれも妖しいものです。ところが同じメーカーの87枚組の方はこちらは演奏が修正されているようでコシュラーの演奏になっていました。いったいどういうことなのでしょうかね。