
成田発ニューヨーク行の旅客機が、飛行中に突然炎上した。二カ月後、次々と殺人事件が起こる。日光・中禅寺湖、ニューヨーク、そして第三の事件…。一見無関係に見える事件に共通点が浮かびあがる時!?表題作ほか四篇を収録した傑作推理集。---データベース---
収録:ビッグアップルは眠らない、足の裏、漆の炎、
誓約書開封、すれ違った面影
1980年に「小説現代」に発表された表題作をはじめ全5編が納められた短編集です。短編と入っても表題作は中編のボリュームがあり読み応えは充分です。
誓約書開封、すれ違った面影
1980年に「小説現代」に発表された表題作をはじめ全5編が納められた短編集です。短編と入っても表題作は中編のボリュームがあり読み応えは充分です。
◆ビッグアップルは眠らない
プロローグから始まります。ニューヨーク行き旅客機が、突然炎に包まれたエピソードが紹介されます。そして、日光中禅寺湖で女社長が足を滑らせて転落、水死した事件が語られます。続いてここかせが本編になる第2章でニューヨークで一人の商社マンが殺害されます。一見、何の関係もないと思われた事件の接点は・・・
プロローグから始まります。ニューヨーク行き旅客機が、突然炎に包まれたエピソードが紹介されます。そして、日光中禅寺湖で女社長が足を滑らせて転落、水死した事件が語られます。続いてここかせが本編になる第2章でニューヨークで一人の商社マンが殺害されます。一見、何の関係もないと思われた事件の接点は・・・
ビッグアップルとは眠らない街、ニューヨークのことを指します。ここで起きた殺人事件、事件はニューヨーク市警のジョゼス・ヘイウッド巡査部長が担当します。殺された男は野口満、彼は同僚の浜地正典とともにニューヨークへ出張していたのでした。ここまでの事件の経緯で気がつくべきでした。さりげない形でこの浜地は先の中禅寺湖の事件に搭乗しているのを・・ここは夏樹静子氏の文章にうまくごまかされて関連性を見失ってしまいます。中禅寺湖の事件では子供を連れての搭乗です。ニューヨークの事件では舞台がアメリカということもあったローマ字のHAMAJIとして搭乗していますからうっかり見過ごしてしまうのです。憎い演出です。
ヘイウッド巡査部長とともに日本総領事館の鳥井謙次が搭乗します。彼の警視庁から出行している刑事でした。そして、赴任期間が間もなく終わり帰国寸前に起きた事件でもありました。野口の妻の依利子が日本から到着すると何かと世話を焼いたのでした。ヘイウッドは長年の刑事の感で、同僚の浜地のアリバイを証明できるのが日本人ばかりということにかすかな疑問を感じていました。この疑問点を鳥井は引き継ぎ日本に帰ってからもこの事件に関係した人物を調査します。そして、妻の依利子もそんな鳥井の誠意に自らも関係者の一人平田明子に密着します。
事件が少しづつ動き出します。ニューヨークの容疑者が動いた時、第3の事件が発生します。いやあ、読み進むに従って続々する興奮に包まれるストーリーです。綿密に計画された彼らの行動。その影には冒頭の飛行機事故が関係しています。一度は死んだも同然になった三人の人生、その奇妙な接点がこの飛行機事故でした。この一編だけでもこの本は読む価値があるというものです。傑作ということでコミック化もされ、1988年には松方弘樹、山口良子、辰巳琢郎などのキャストでドラマ化されています。
◆足の裏
参拝客で有名な輪光寺があるT市で、銀行強盗事件が起きた。捜査は難航したが、やがて番号を控えた札が現れた。それを使ったのは、輪光寺の寺務所に務める職員だった。犯人は寺の中にいるのか。この一編は先に紹介していますので省略します。
参拝客で有名な輪光寺があるT市で、銀行強盗事件が起きた。捜査は難航したが、やがて番号を控えた札が現れた。それを使ったのは、輪光寺の寺務所に務める職員だった。犯人は寺の中にいるのか。この一編は先に紹介していますので省略します。
◆漆の炎
先の2作があまりにも素晴らしい出来なのでこの作品はかすんでしまいます。女の直感が冴えるストーリーで、不倫関係にある課長の作田が行方不明になります。不倫相手である安子は前日にも行動を友にしているので同僚に関係を知られはしないかと不安を覚えます。そんな安子は部長と付き合っていると直感する鮎子に嫉妬します。靖子は課長と付き合いながらも部長にほのかに恋心を持っているのです。
先の2作があまりにも素晴らしい出来なのでこの作品はかすんでしまいます。女の直感が冴えるストーリーで、不倫関係にある課長の作田が行方不明になります。不倫相手である安子は前日にも行動を友にしているので同僚に関係を知られはしないかと不安を覚えます。そんな安子は部長と付き合っていると直感する鮎子に嫉妬します。靖子は課長と付き合いながらも部長にほのかに恋心を持っているのです。
そんな鮎子を落としめるために安子は漆の仲間のハゼやツタウルシの樹液を採取して鮎子と部長の私物に樹液を塗り付けたのでした。結果は、二人の体に漆の湿疹が現れます。そして三日後、作田は変死体で見つかります。いたずらのつもりでやった行為が、計らずしも事件をあぶり出したのでした。
◆誓約書開封
夏樹氏の名古屋時代の作品です。最初、事件は全く関係のないところから始まります。銀行支店長の元に恐喝の脅迫状が届きます。全く身に覚えがない支店長は警察に届け、脅迫状の指示通りに金を用意し囮捜査に協力しますが、犯人は現れませんでした。ただ、近くに現れた人物で見たことがあるような人物がいたため、早速似顔絵が作られます。この似顔絵から、ある人物の名前が浮かび上がり、その男の身辺調査をすると意外な行動が浮き彫りになります。
夏樹氏の名古屋時代の作品です。最初、事件は全く関係のないところから始まります。銀行支店長の元に恐喝の脅迫状が届きます。全く身に覚えがない支店長は警察に届け、脅迫状の指示通りに金を用意し囮捜査に協力しますが、犯人は現れませんでした。ただ、近くに現れた人物で見たことがあるような人物がいたため、早速似顔絵が作られます。この似顔絵から、ある人物の名前が浮かび上がり、その男の身辺調査をすると意外な行動が浮き彫りになります。
ここでは殺人事件は発生しませんがストーリーの意外な進展と、その裏に隠された女のしたたかな計算が浮かび上がってくる様が目に見えない脅迫感を醸し出しています。
◆すれ違った面影
これは一種の推理はありますが、どちらかというと文学作品に近い趣きのある一編です。主人公の佐武は電車で偶然千代美を見かけます。千代美は佐武が大手製鋼会社の会社寮建設の入札で北海道に訪れた際の登別温泉の置屋の芸者であり、当時は毎日のように肌を合わせていた女でした。しかし、入札が不調に終わり、佐武は東京に戻ってしまいます。しかし、千代美には半年後にはまたくると行って分かれたのでした。しかし、女は裁縫のおりには姿を消していました。そんな彼女に鮫洲からの帰りの電車で見かけたのです。
これは一種の推理はありますが、どちらかというと文学作品に近い趣きのある一編です。主人公の佐武は電車で偶然千代美を見かけます。千代美は佐武が大手製鋼会社の会社寮建設の入札で北海道に訪れた際の登別温泉の置屋の芸者であり、当時は毎日のように肌を合わせていた女でした。しかし、入札が不調に終わり、佐武は東京に戻ってしまいます。しかし、千代美には半年後にはまたくると行って分かれたのでした。しかし、女は裁縫のおりには姿を消していました。そんな彼女に鮫洲からの帰りの電車で見かけたのです。
佐竹は気になって女を捜します。しかし、見つけたと思ったらまた女は姿をくらまします。執拗に足取りをたどりなんとか千代美を見つけることが出来ます。そこで彼女の口から聞き出したことは、北海道の入札の時千代美はライバル企業の産業スパイをしていたという事実でした。この告白は時効ということで、言葉の上では佐武は許すのですが、やはり心の隅にはその事実は小さな棘のように突き刺さっているのです。その気持ちを察したのか、千代美はまた佐竹の前から姿を消します。
男と女の出会いと別れには、ほんの些細な動機があれば運命はどのようにも転ぶということでしょうか。千代美と偶然に再会しければ佐竹の心には、いつまでもいい思い出の女としか残らなかったのに真実を知ってしまったばかりに過去の思い出までくすんだものになってしまう。そんな切ない出会いと別れの一編です。