ジュリーニの「田園 | geezenstacの森

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ジュリーニの「田園」
曲目/
ベートーヴェン/交響曲第6番ヘ長調作品68『田園』 [41:32]
1.第1楽章:Allegro ma non troppo 10:37
2.第2楽章:Andante molto mosso 13:26
3.第3楽章:Allegro-Presto 5:33
4.第4楽章:Allegro 3:59
5.第5楽章:Allegretto 10:42
シューベルト/交響曲第4番ハ短調D.417「悲劇的」*
6.第1楽章: Adagio molto, Allegro vivace 10:50
7.第2楽章:Andante 8:52
8.第3楽章:Menuetto, Trio: Allegro Vivace 3:52
9.第4楽章:Allegro 8:21

 

指揮/カルロ・マリア・ジュリーニ
演奏/ロスアンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団
   シカゴ交響楽団*
録音/1979/11/20-21 シュライン・シュヴィック・オーディトリウム、ロスアンジェルス 
   1978/03/13-14 オーケストラ・ホール、シカゴ
P:ハンノ・リンケ
 コード・ガーベン*
E:ハンス=ペーター・シュヴァイクマン

 

DGG 429368-2

 

イメージ 1

 

 ジュリーニの「田園」は正式には4種類発売されていますが、これはDGGに録音した第2回目のものです。アナログ末期の録音として非常にバランスの取れたもので、また、巨匠指揮者の老人病ともいうべき遅いテンポによる弊害の現われていないベストの演奏ということが出来るものではないでしょうか。かといって、遅い「田園」が嫌いなわけではありません。小生の所有するCDは多分日本では発売されなかった限定盤によるシューベルトの交響曲第4番とのカップリングのもので、「運命」と「未完成」という組み合わせは多々ありますが、まずこういう組み合わせは今後も発売されることはないでしょう。この演奏はジュリーニ65歳の一番脂の乗っていた頃の録音です。しかし、ロス・フィルも歴代いい指揮者を常任に迎えているものです。

 

      演   奏 第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章 第5楽章
ニュー・フィルハーモニア管/1968 10:42 13:52 06:01 04:01 10:01
ロスアンジェルス・フィルハーモニー管/1979 10:35 13:21 05:33 03:57 10:30
ミラノ・スカラ座管/1991 11:04 13:51 06:22 04:22 10:56
オルケストラ・ジョヴァニーレ・イタリアーナ/1999 10:22 13:14 03:19 03::42 10:55

 ジュリーニの「田園」は一般の基準からするとやや遅い部類の演奏ということが出来ます。まあ、普通は40分前後というところが妥当でしょう。カラヤンなんかは35分台の快速テンポですけどね。ベートーヴェンがこの交響曲で表現したのは標題音楽としての試みとしての「田園」で交響曲第5番と対で発表したということは、この交響曲では強固な精神性よりも逆の精神の解放だったような気がします。そうすると、何処かに心の安らぎを求める演奏が相応しいのではということになります。都会の喧噪を逃れて田舎へ赴く、いうなれば息抜きの鄙びた温泉への旅行という雰囲気に似ているのではないでしょうか。そうするとはしゃぎ回る演奏よりは、しっとりと落ち着く演奏の方が相応しいという気分になります。

 

 ジュリーニの演奏は、まさにそういう雰囲気にしてくれる演奏です。第1楽章の「田舎に到着したときの晴れやかな気分」というのはやっと寛げるという安堵の気分で、子供のはしゃぎ回る気分ではないような気がします。そして、ジュリーニはここで、ドイツ的な重厚な響きとはひと味違うしっとりとした響きをこのロスフィルから引き出しています。今回改めてこの演奏を聴いてその旋律の歌わせ方の上手さに感服しました。イタリアの指揮者の特性ともいうべきカンタービレを効かせた演奏で、仕事に疲れた身体には一服の清涼剤の演奏です。第1楽章では第1ヴァイオリンの主旋律がやたらと目立つ演奏が多いのですが、ジュリーニのこの演奏は第2ヴァイオリンの旋律もちゃんと主張を持って聴こえます。

 

 とくに第2楽章はその極みでこの曲のタイトルにもある小川の陽光を浴びながらさらさらと流れていく様の描写はリラクゼーション効果満点の演奏でα波がどんどん溢れてきます。レガートを効かせた弦楽の響きは美しく、程よいバランスのファゴットやオーボエ、クラリネットの響きは心地よい眠気さえも誘ってくれます。後半のカッコウのさえずりもうたた寝気分では本物の鳥のさえずりに聴こえてきます。

 

 第3楽章はオーストリアの田舎のダンス音楽を現していますが、最初は遠目に農民たちの踊りを見学している気分が、後半の繰り返しではその農民の踊り輪の中に参加していくような雰囲気にさせられるのはまさにジュリーニマジックでしょう。

 

 そして、第4楽章は前半とは違う厳しい表情の音楽をジュリーニは作り出しています。嵐の描写は劇的で、この楽章だけに登場するピッコロとティンパニを最大限活躍させています。この対比は見事です。つづく「牧人の歌−嵐の後の喜ばしく感謝に満ちた気分」の第5楽章は締めくくりに相応しいゆったりとした安らぎの音楽を構築しています。ここはたっぷりとレガートを効かせて自然の大地の恵みに対しての感謝の音楽が蕩々と流れています。

 

 

 カップリングとしては珍しいシューベルトの交響曲第4番は後にはバイエルン放送交響楽団と再録していますがジュリーニとしては比較的珍しいレパートリーです。第1楽章はまず冒頭の和音の一発から始まります。ここはシカゴ交響楽団のアンサンブルの見事さが光ります。1960年代から客演しているこのオーケストラとは相性がいいんでしょうね。シカゴ響から弦の奥深い響きを出しています。ショルティ/シカゴ響はどちらかというと馬力優先の録音でしたが、ジュリーニはそこから柔軟な響きを引き出しています。どちらかというとベートーヴェンよりは明るい響きのするシューベルトの音楽ですから、この選択は良かったのかも知れません。DGの録音も優秀で、まさにティンパニに支えられた低弦からヴァイオリンまでのピラミッド型につくられた強固な音塊がスピーカーから飛び出してきます。序奏に続く主題も堂々としていて低弦は厳かに響き、ヴァイオリンや木管は美しくも緊張感がみなぎっています。DGはベームでシューベルトの交響曲全集を完成していますが、この流れを汲む堂々としたシューベルトです。しかし、ジュリーニの演奏はそれよりも歌心があり見事にカンタービレしています。遅いテンポ手゜すがこの歌心に支えられて実に恰幅の良い音楽に仕上げています。この曲のタイトルはベートーヴェンを意識して、シューベルトが自ら名付けたものですが、ハ短調という調性がベートーヴェンの交響曲第5番を思い起こさせます。

 

 第2楽章は、「歌曲王」シューベルトの美しい歌の世界を見せつけています。もちろんジュリーニとシカゴの腕の見せ所で、レガートさせて歌い継がれていくメロディの楽器楽器間の受け渡しの素晴らしいことといったらありません。第3楽章はシューベルトにしては無骨なメヌエットとなっていますが、その中にも優雅さが漂うジュリーニの演奏です。中間部のトリオでは、美しいメロデをシカゴの木管奏者達がことさら美しい響きで応えています。

 

 第4楽章はまさにこの曲のタイトルを連想させる「悲劇的」なメロディで幕を開けます。アレグロですがジュリーニはスピードをぐっと抑えて内に秘めた悲劇生を強調するかのような演奏を披露しています。基本の弦のメロディラインをきっちり押さえて、金管をバランスよく鳴らしています。こういう所はシカゴ響の上手さを感じさせます。決して出しゃばってはいないけれどちゃんと役割をわきまえて響きでジュリーニの期待に応えています。

 

 シューベルトの交響曲第4番は人気の曲ではないので決してメインの曲としては出てきませんが、中々どうして名曲です。その味わいを存分に聴かせてくれるのがこのジュリーニの演奏ではないでしょうか。これは愛聴盤の一枚です。