恐怖の海東尋坊 | geezenstacの森

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恐怖の海東尋坊

著者 西村京太郎
出版 文芸春秋 文春文庫

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 「なぜ、来てくれなかったの。あなたしか頼む人がいなかったから、助けて下さいと、お願いしたのに。おかげで、私は殺されました。恨みます―」留守番電話に吹き込まれた死者からのメッセージの謎を解くため、日下刑事は東尋坊にとんだ。表題作以下、富士西湖、昇仙峡、繋温泉を舞台に、十津川警部と仲間の刑事たちが難事件に挑む、傑作トラベル・ミステリー四篇を収録。。---データベース---
 
 1994,年「オール讀物」発表の十津川警部シリーズの短編集です。四編収録されていますが、「恐怖の橋 つなぎ大橋」は先に別の短編集「日本列島殺意の旅」に収録されていましたので既に紹介しています。作品はいずれもみずにまつわる作品でタイトルに「海」、「湖」、「清流」、「橋」という文字がついているのがこの短編集の特徴です。

恐怖の海 東尋坊

 タイトル策にもなっている作品で、この作品では日下刑事が事件に巻き込まれています。ミステリアスな構成になっていて、死んだ女から留守番電話に毎日のようにメッセージが入ってくるのです。電話は大学の同窓生の野村ひろみという女でした。事件の捜査で動きがとれない日下でしたが、こういう状況ではチームとしての捜査に支障があるということで、二日間の休暇をもらいます。

 日下は電話で彼女が殺されるといっていた東尋坊へ出かけます。そのタイミングで水死体が発見されます。死体は何日も海水に浸かっていて本人確認が出来ません。指紋を採取してそれをひろみのマンションから借り出した口紅のものと照合します。結果は同一人物でした。日下刑事は翌日もう一度、殺人につながる証拠の留守番電話のテープを持って福井に赴きます。後は福井県警に事件の進展を任せ東京に戻りくます。そこから事件は意外な方向に展開します。

 東京で起きていた事件と野村ひろみが結びついたのです。福井県警の捜査共助の依頼とともに関係者の洗い出しにかかります。ここでは日下刑事が中心になって活躍しますが、それ以上に北条刑事の女としての勘が冴え事件は一気に解決の方向に向かいます。ただ、別に幽霊電話の件のこともあり事件の完全解決には至っていません。そんな中、また幽霊電話がかかります。

 という展開で、一つの事件で二度おいしいストーリー公正になっています。短編だけに話に無駄な展開がなく十津川班全体が動く事件で読み応えがあります。

◆恐怖の湖 富士西湖

 富士西湖は地味な存在で、小生も一度いったことがあるのですがほとんど記憶に残っていません。調べると、面積は富士五湖では4番目の大きさで、最大水深は2番目の深さがありフジマリモの群落地ということです。この事件では亀井刑事が事件に巻き込まれます。家族旅行でこの長調を訪れた亀さんが釣り上げた死んでいた鯉を猫に与えたことからスタートするのですが、この設定はいかにも唐突です。それよりも、その後で発生する浮浪者の毒死事件の方が事件性としてはあるので話の展開がいまいち納得できません。

 それでも、鯉から生産物が発見されたということで、現場に残された遺留物と証言から犯人をたどる捜査の過程は緊迫感があり、影なき殺人者の実態が次第に浮き彫りにされていくストーリーは読み応えがあります。

◆恐怖の清流 昇仙峡

 この一編では、十津川班の刑事が事件に巻き込まれることはありません。しかし、山梨県警が既に自殺事件として解決している追うのですから問題があります。二つの自殺事件は遺書がほとんど同じ文言で書かれていました。この点に引っかかりを感じた十津川警部と亀さんが独自に捜査に乗り出したのです。しかし、証拠は見つかりません。

 そんなとき自殺した男の妻が付き合っていた男が殺されます。さして、彼の部屋から「タケウチ」と書いたメモが見つかります。十津川警部はこの線から事件を追うことにします。もう一度昇仙峡で自殺した二人の男の周辺を洗います。なぜ同じ場所で、しかも同じ旅館に泊まったのかという疑問です。しかし、解決している事件を追うことでクレームがあります。そこで、この事件では十津川警部を中心に徹底した討論の中から疑問点を洗い出し、その中から事件の本質を暴いていこうという手段が用いられます。いつもは十津川警部と亀さんで戦わせる議論をチームで行っています。期限は一週間、討論の中から弁護士が有力人物として浮かび上がってきます。

 そして、犯行の手口からホテルにも共犯がいたのではという疑惑が浮かんできます。案の定、二人の止まっていたホテルの7回をたんと戸と渡島していた仲居が事件後辞めています。その足取りから次の事件が起ころうとしています。場所は水上温泉、十津川警部たちは現場に急行します。

 テンポのいい展開で、十津川半の刑事がこぞって活躍するストーリーは長編には無い纏まりがあります。この頃の十津川ものは読んでいても充実感があります。