水戸の偽証 三島着10時31分の死者 | geezenstacの森

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水戸の偽証 三島着10時31分の死者

著者/津村秀介
出版/講談社 講談社ノベルス

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 ケア付きマンションを餌に、老人から金を騙し取っていた男が、三島市内で殺害された。容疑者には、その日水戸市内にいたという強力なアリバイが。ルポライター浦上伸介と前野美保の追跡も困難を極め…。---データベース---

 偶然ですが、この本を読む前につい最近、地元のテレビで「弁護士・高林鮎子 フレッシュひたち17号の偽証 ~介護に悩む娘が涙した痴呆母の夢追い子守唄~」という同書が原作のドラマが再放送されました。ということで、今回は気見てから原作を読むという形になりました。

 キャラクターの設定はドラマと原作では全く違いますが、原作は同じということで話の要のトリックは事前に知っていた次第です。ですから、今回はドラマと原作はどのような違いがあるのかという興味で読むことになりました。結論から言うとドラマの方がテーマをクッキリと浮き上がらせていたということでは軍配が上がりそうです。元々が老後のケア付き老人ホームの入所金の詐欺が事件のテーマで、原作ではただ単に被害者の老人が自殺という形で描かれているだけなのに対して、ドラマはそれが殺人に置き換わり、更には容疑者の母親までもがそういう境遇に置かれていたと言う明確なテーマが存在しました。もちろん本題の冒頭の三島での殺人事件もしっかりと描かれてはいます。

 三島で殺された三浦邦彦という男は以前「倉田住宅」という中堅の住宅会社の高齢者向け介護質住宅の営業をしていました。その男が殺されたのですが、男が殺された三島のアパートは偽名を使い身を隠すために利用していて、本来は横浜に住んでいたのです。そんな関係で浦上伸介の登場となります。

 まずは手始めに、この倉田住宅を美保とともに訪ね関係者から三浦には付き合っていたと思われる女の存在を確認します。女は深田美子といい、三浦が倉田住宅を止める少し前に美子も止めていたという事実を掴みます。さらには、殺された三浦と地下時か結婚するようにニュアンスを同級生に漏らしていました。というのも、殺される前日も二人はホテルを共にしていたのです。浦上伸介と前野美保はこれらの情報を警察関係者よりも早く足で稼ぎます。

 そして、この結果を踏まえて警察が動き出します。そこに、毎朝新聞の谷田が容疑者の指紋を手に入れ警察に供出します。これが決め手となり、深田美子は容疑者としてマークされます。しかし、最後のアリバイが崩れません。三島は横浜からは西、一方美子が事件当時いたと主張する水戸は右に位置します。このトリックは三島という土地を利用した巧みなトリックです。このさびの部分は小説では最後のクライマックスに残されていますが、ドラマでは中盤より後にさっさと披露されてしまいます。その代わり、原作にはないもう一つのとっておきのトリックが用意されています。これがドラマの見所といえるでしょう。

 さてこの作品、浦上伸介シリーズの最後の作品です。そういう意味ではもっと最後まで取って置きたかったのですが、ドラマ化されたものを見て発作的に読んでしまいました。このシリーズ、とても読みやすくシリーズとしての形が出来上がっていますのでどの作品から読んでも登場人物の人間関係を理解することができます。そこら辺のところを整理すると雑文ノートと題されたホームページに的確に纏められていますので引用させてもらいます。
本論は後者の手法(いかに豊富な内容を短く書く)を目指した作者「津村秀介」の方法を解析する事によって、成功とリスクを明らかにしてゆく事が目的である。津村秀介の作品、特に後期の作品からは明らかに作者の意志を明確に読みとることができる。 ここでははじめに、いかに上記の条件を成立させたかを示す。次にこの方法の持つメリットとデメリットを整理する。実は非常にデメリットの大きい試みである事が後で分かる。しかし、このデメリットを承知の上の試みに対して、メリットを理解しない評価がいかに無意味であるかを理解する事から津村秀介の作品の正当な評価が始まる事を理解するべきである。 津村秀介の作品も初期には試行錯誤が有る。また、未完であるが「裏街」からの3部作もある。ここでは中期から後期の「スタイルと登場人物の固定した」時期を中心に考察する。後期といっても完結した訳でなく作者の死により突然に中絶した。ただし中絶しなかったならば特別なシリーズの終了があった可能性は少ない。具体的には独身のフリールポライターの浦上伸介・毎朝新聞横浜支局社会部デスクの谷田実憲・神奈川警察の地方幇助係りの淡路警部・週刊広場編集部の細谷編集長と青木副編集長などのシリーズ、特にこれに、大学生の前野美保が週刊広場のアルバイトで加わった「浜名湖殺人事件」(実際は次の「最上峡殺人事件」から)が顕著である。前野美保は事件があると浦上伸介のアシスタントとして働く。津村作品の著作リストはほとんどの作品の末尾にある。最終作の「水戸の偽証」が一番新しい内容である事は当然である。

まず、フェアプレイの本格推理小説についての津村秀介の方法をまとめる。

(1)シリーズキャラクターの固定を行う。
(2)シリーズキャラクターの、個別小説ごとの紹介を必要最小限に抑える。ただしシリーズ全体を読むことによって読者は主人公たちに十分な親しみを得ることができる。
(3)シリーズキャラクターは歳を取らない。津村作品特有手法では無いが、後の項目と矛盾があることから作者の意志が伝わる。偶然ではない。
(4)しかし、前回の小説で起きて得た経験は登場人物は受け継ぐ。
(5)まず事件から小説が始まる。
(6)そして推理の完成で小説は終わる。事件の解決結果・推理の解決と無関係のエピローグ類はほとんどない。
(7)小説全体の登場人物が少ない。犯人を隠す事を目的にはしていない事が分かる。
(8)小説の進行に伴い、探偵役自身が状況の整理を小説内で行なう。作品自体、読者が内容を整理して読み進める事が出来る様に出来ているが、作者は親切に整理も行ってくれている。
(9)交通機関を使用したアリバイ崩しがメインになることが多いが、使用される時刻表・地図・交通機関の路線図は小説が書かれた最新版である。もちろん時刻表以外の小道具・社会の仕組みも最新の時代の進歩による事項を使用する。

 (4)の部分が存在するので、実際には順を追って読んだ方がシリーズの理解を深めるには適切なことはいうまでもありません。

 小説はルポライターの視点から物語が語られ、ドラマでは弁護士の立場からストーリーが展開します。ここが大きな違いで、弁護士は事件の依頼人が存在しないことには始まらないからです。この視点の違いにより、ストーリーの本筋は同じでも、小説とドラマは別個の作品として存在が可能なのです。こんかい、続けてドラマと原作に接してつくづくその違いを感じどちらもワクワク感を持って接することができました。

 原作の供給も途絶え、ドラマのボス的存在である丹波哲郎が無くなってしまっているので今後ドラマも制作されないんでしょうなぁ。寂しい限りです。

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