アラン・フランシスのブラームスのセレナード | geezenstacの森

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アラン・フランシス
ブラームスのセレナード
 
作曲/ブラームス
1.セレナード第1番ニ長調作品11
2.セレナード第2番イ長調作品16
指揮/アラン・フランシス
演奏/ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団

 

録音/1996/07/29-31,08/01-02、ミラノ
P:ウルフ・ヴィンネマン
E:ジリ・ポスピシャル

 

ARTE NOVA BVCC-6063

 

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 世にブラームスの交響曲全集を録音した指揮者は枚挙にいとまはありませんが、このセレナードまで録音した指揮者となるとそれは数えるほどしかいません。カラヤンを筆頭にベーム、セル、ジュリーニなどを見てもこの2曲のセレナードは録音していません。手元にある資料を紐解いても僅かにケルテス、ハイティンク、ビエロ・フラーヴェク、マッケラスとアバドの名前が出て来るのみです。正式なセッション録音以外ではトスカニーニの演奏が残っていますがそれでも数えるほどです。交響曲全集は無くても、このセレナードを録音している指揮者は、タヴァロス、アンドレアス・シュペリンク、ディルク・フェルミューレンなんかが検索出来ました。しかし、何れにしてもそんなに多くありません。EMIからブラームスオーケストラ作品集を出しているサヴァリッシュのセットにもこの曲は含まれていません。

 

 幾らブラームスの初期の作品とはいえれっきとしたオーケストラ作品なのですから、もう少し演奏されてもいいのではないでしょうか。個人的にはこの曲はお気に入りで以前にもケルテスの演奏は取り上げています。そこではこれらの曲についての成り立ちも書きましたから重複は避けますが、特に第一番のセレナードは冒頭からホルンが大活躍する曲なので、ホルン三重奏曲と並んで好きです。元々の曲の成り立ちが室内楽用の作品として作曲されたという経緯もありますが、ホルンが4本という楽器編成は特異でホルン好きにはたまりません。

 

 第1番はチェロとヴィオラの短い和音のユニゾンに導かれてホルンが魅力的な主題を朗々と歌い上げます。これだけでこの曲を聴く楽しみが湧いてくるというものです。この演奏はデジタル収録ということで音がいいのが一番で、じっくりとホルンの響きに耳を傾けることができます。アレグロ・モルトの快調なテンポでぐいぐいと曲に引き込まれていきます。ブラームスは自らこのセレナードを交響曲と呼んでいたように12分弱の第1楽章を聴くだけで後の交響曲に匹敵する大きな音楽が展開されています。響きも幾分くすんだ室内楽的な要素を残しながらも、随所にブラームスらしい和声の響かせ方を聴き取ることができますし、そういう意味では既にモーツァルト的なセレナードの枠を越えていますから、交響曲第0番と呼んでもおかしくない曲ということが出来ます。

 

 そして、以前紹介したケルテスの演奏がそうしたシンフォニックな面を強調した演奏ということが出来るなら、このアラン・フランシスの演奏はホルン協奏曲という聴き方をした方が適切なくらいホルンにスポットを当てた演奏になっています。その日の気分によって聴き分けてはいますが、最近はこのフランシスの演奏の方が面白く聴けるような気がしています。セレナードの第1番は当初4楽章でしたが最終的には5、6楽章が追加されて最終的な完成形になりました。この5、6楽章がまたホルンが素晴らしく活躍する楽章なので、そういう意味でもこの演奏は好きなんですねぇ。狩の音楽のように高らかにホルンが響き渡る第5楽章、スタッカートの効いた弾むようなリズムの第6楽章、いいですね。若々しいブラームスの響きがここにはあります。

 

 それに比べると、セレナードの第2番は編成からヴァイオリンがカットされているせいか全体に響きが内声的です。こちらの第1楽章からして、管楽器響きが前面に出てくるような室内楽的な響きです。この曲ではホルンは目立った存在ではなく全体の中に溶け込んでいます。それでも、ケルテスの演奏に比べるとやはりホルンの響きが強調されたバランスで録音されているのが分かります。このことによって全体のサウンドがよりまろやかになっていることが分かります。このCD演奏者についての解説は全くありませんが、ジャケットには演奏風景のモノクロ写真が一枚収められています。そこで確認出来るのは、第1ホルン奏者が女性であるということです。
  
 アルテ・ノヴァは1994年に設立されたBMG翼下の新興の廉価盤レーベルで初期の頃はカタログを埋めるためにちょっと?のつく演奏もありましたがこの一枚はなかなか捨て難いものです。当時は指揮者もオケも未知数でしたがなかなか聴かせてくれます。指揮者のアラン・フランシスは元々はハレ管弦楽団やボーンマス響のホルン奏者を務めていたようです。そういう経歴がこの演奏でもいい意味でホルンの響きを魅力的に聴かせているのかも知れません。演奏しているミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団は、指揮者ウラディミール・デルマンによって1993年に創設された若いオーケストラで、主にイタリア国内の若手を中心に編成されています。1999年にリッカルド・シャイーが音楽監督(現桂冠指揮者)に就任し、オーケストラの基礎を固めました。ミラノ・イタリア国立放送交響楽団解散後の、ミラノにおけるシンフォニー・オーケストラの中心として、幅広いレパートリーの演奏を行っているようで、ここでは結成3年後としては手堅いアンサンブルを聴かせています。

 

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