CLASSIC INN 7 | |
テンシュテットの「田園」 |
交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」
1.第1楽章「田舎に到着したときの晴れやかな気分 11:27
2.第2楽章「小川のほとりの情景」 12:46
3.第3楽章「農民達の楽しい集い」 5:38
4.第4楽章「雷雨、嵐」 3:36
5.第5楽章「牧人の歌−嵐の後の喜ばしく感謝に満ちた気分」 9:39
6.「エグモント」序曲 作品84* 8:44
7.「コリオラン」序曲 作品62* 8:47
8.「レオノーレ」序曲 第3番 作品72a* 13:46
指揮/クラウス・テンシュテット
演奏ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団4
演奏ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団4
録音/1985/9/15.16,19,1986/03/27 アビー・ロード第1スタジオ、ロンドン
1984/5/11,12*
P:ジョン・フレイザー、ジョン・ウィラン*
E:スチュアート・エルサム、マイケル・シャディ*
1984/5/11,12*
P:ジョン・フレイザー、ジョン・ウィラン*
E:スチュアート・エルサム、マイケル・シャディ*
EMI 小学館 SGK-90104

ホームページで「田園」を取り上げた時は、テンシュテットの演奏は聴いていませんでした。ひねくれ者の選択ですから、ベストの演奏にミシェル・ハラースのものを取り上げていますが、強いて言うならこのハラースの演奏に極めて近しいものがあります。テンシュテットはリピートをすべて繰り返していますから、すこぶる快調なテンポながら上記の演奏時間になっています。市販のCDでは8番とのカップリングで発売されていますが、ここでは序曲集のCDからの3曲をセレクトして収録しています。ある意味まとまっています。デジタル録音もこのころになると熟(こな)れたものになってきていてまっとうにバランスの良い録音です。
テンシュテットのベートーヴェンは意外に少なく、スタジオ録音されたのはこの「田園」と第8番だけです。EMIからは「英雄」も発売されていますがそちらはライブ録音です。最近のテンシュテット・ブームの中で眠っていたライヴ録音が次々と発掘されCD化されていて、今では全曲揃います。ところで、この録音当時の1985年10月、癌の告知を受けていますからまさに病魔との戦いの中での録音ということになるのでしょう。そんな訳で追加収録は1986年3月と年を跨いでいます。まあ、そういう背景がある録音なのですが演奏からはそういう暗さは全く感じられません。
テンシュテットの「田園」は第1楽章から快適なテンポで開始されます。弦楽器はふくよかで、同じロンドンフィルで全集を録音したハイティンク盤と同様なニュアンスがあります。「田園」のテンポは早ければいいとか、遅ければ悠然としていて良いというようなものではなく、快適に感ずる分岐点のようなものがあるのでしょうかね。小生はどちらも受け入れられます。これまで、さまざまな「田園」を聞いてきた中で、テンシュテットの「田園」はワルターやカラヤンに通ずる快適な速度のアレグロ・マ・ノントロッポです。管楽器と弦楽器のバランスも非常に良く、その中で時折弦を思い切りカンタービレで歌わせるという手法をとっています。ただ、第2ヴァイオリンの旋律がちょっと控え気味に響きすぎるところは気になります。音場の広がりはあまり無く、雄大なスケールで聴かせるような演奏ではありませんが、現代オーケストラの手法による一つのスタンダードな表現手段としては「田園」演奏の規範になりうるものでしょう。
第2楽章の「小川のほとりの情景」は多分この演奏の中で一番の聴きものでしょう。普通はダレて眠くなるAndante molto mosso ですが、ここではメロディラインの響かせ方にいい意味の緊張感があり最後まで聴かせてくれます。先に紹介したヨッフムの演奏とはこの楽章の解釈は相通ずるものがあるような気がします。続けて演奏される3ー5楽章はストーリーに沿ったドラマチックな展開ですが、ここでは第4楽章の嵐の表現がややおとなしい展開で、ライブならもっと迫力があるのにという気がしないでもありません。
多分本人はベートーヴェンの交響曲全集を録音するつもりで考えていたとは思うのですが、志半ばというか緒についただけで頓挫してしまったことは返す返すも残念な結果です。完成すれば、ドイツ風な王道の全集が期待出来たことでしょう。
交響曲に先立つ1984年にはベートーヴェンの代表的な序曲集が録音されています。1984年といえばテンシュテットはロンドンでの絶好調期だったころの録音です。日本への初来日もこの1984年でした。1971年に当時の東ドイツからスウェーデンに亡命し、1974年のボストン交響楽団に客演した頃から火が付き世界的に認められていきました。そこから、1985年までが最も輝いていた活躍旗艦でしょう。このテンシュテットの元気な頃の録音には、凄まじいテンションと劇性を誇るものが多く、このベートーヴェンの序曲集もその中のひとつといえます。
個人的にベートーヴェンの序曲の中では「エグモント」が一番好きなのでこれがトップに収録されているのは嬉しい限りです。このエグモントからして、どっしりとした構えで悲劇性のあるこの曲をじっくりとしたテンポで描いています。それでいて音楽には推進力があり、木管によるフレーズの積み重ねも、変な小細工が無いのでストレートにその音楽が伝わってきます。まさに、ロンドンフィルを手中に収めたシェフとしての快演を披露しています。
次の「コリオラン」序曲は、もう少し懐の深さが欲しい気がする演奏で、クレンペラーの演奏などと比較するとやや上っ面な演奏に聴こえてしまうのが残念です。多分ここら辺がロンドンフィルの限界なのでしょうか。これがベルリンフィルとのものであったならもう少し聴き映えのする演奏になったのではという気がしないでもありません。まあ。音は断然クレンペラー盤よりは良いですけどね。
最後の「レオノーレ序曲第3番」はやはりベートーヴェンの最高傑作の序曲でしょう。テンシュテットの演奏にもそういう認識があるのか力の入った演奏です。テンポは幾分速めで、ドラマの劇性を彷彿とさせる緊張感があります。オペラの経験も豊富なテンシュテットですからこの曲はお手のものということもあるのでしょうが、オーケストラドライブも巧みで一気呵成に来この曲を聴かせる力量はたいしたものです。
交響曲と序曲の組み合わせは市販盤には無いので楽しく聴くことができました。
交響曲と序曲の組み合わせは市販盤には無いので楽しく聴くことができました。