
京都で男の刺殺体が発見された。数時間後、今度は哲学の道で女性の服毒死体が見つかる。現場検証の結果、哲学の道近辺から、男の刺殺に使われた凶器のナイフが発見される。さらに女は銀閣寺の護符、男は銀閣寺の写真を所持していたことも判明。不思議なことにその所持品は、二十五年も昔のもの…。二つの事件を結ぶ二十五年前の銀閣寺に何が?さらに護符には奇妙なメッセージが!トリック・キラー、ルポライターの浦上伸介に、二十五年に及ぶ時間と空間の壁が立ちはだかる!古都・京都を舞台に、トリック・メイカーの著者が書き下ろす“死線シリーズ”、絶賛第四弾。 ----データベース−−−
やはり津村秀介は浦上伸介シリーズがいいですね。事件の発生から、発覚、そして、いつものように神奈川県警への捜査共助体制と毎朝日報への連係プレー、果ては浦上伸介の登場とテンポの良い展開です。今回はその毎朝日報も京都支局の記者川原氏のベテランらしい活躍があってより魅力を引き立てています。
京都での二つの殺人事件、それは最初別個のものとして処理されていきますが、毎朝新聞の川原記者の一言で結びついていきます。そして、事件の根源は横浜にありということで、谷田実憲が登場し、列車がらみの謎解きということで浦上にまで波及していきます。もちろん、前野美保もちゃんと登場し、後半では彼女の一言が事件解決の大きなヒントになっていきます。
各登場人物の持ち味がよく生かされたストーリー構成で、特に「週間広場」の細波編集長の即断即決の小気味いい判断は事件の裏側をあぶりだす絶妙の展開になっています。今回は警察の捜査があまり進展を見せない中で、浦上伸介と前野美保は京都とは反対咆哮の青森、弘前市に取材します。此所は殺された女の両親の出生の地で、此所での聞き込みが思わぬ成果となってここから事件は突破口が開かれたと言っても過言ではありません。まさに、週刊誌ならではの視点での事件の掘り下げです。
事件の根は25年前の銀閣寺をバックに六人の男女が写った古い写真で、殺された女の過去が洗われ、その両親のルーツを辿ることで事件の糸が見えてきます。25年前の毎朝新聞の京都版に書かれた記事と、その記事を書いた当時の記者の証言を紐解くと死者が残した血判の意味が推察されます。それは、25年前の新聞報道とは別の一つの事件が介在したことを意味しています。そして、そのために二人の男女が殺されたのでした。
あとは、犯人のあぶり出しでいず、ここまで調べれば自ずから容疑者が浮かんできます。浦上たちの調査で容疑者の割り出しは意外にスムーズに行なわれます。後は事件当日のアリバイ崩しです。しかし、容疑者逮捕の前にはこのアリバイの壁がいつものように立ちはだかります。警察はそのアリバイの前に事情聴取だけで任意出頭さえもおぼつきません。いつもながらじれったい展開です。ここで、浦上たちの再登場です。事件当日容疑者が横浜にいたと言うアリバイは美保の抱いた疑問からあっけなく崩れ、犯行当日の京都から前橋への移動のトリックも二人の京都への取材でたちどころにして解決です。
犯人の京都からの逃走経路は京都駅ではなく、三条京阪だったのです。銀閣寺と京都駅の丁度中間地点なのですが、なんと、犯人は列車ではなく、夜行の長距離バスを使ったのです。しかし、こんなアリバイ崩しは実際のところ警察でも分かりそうなぐらい単純なものです。まあ、そこは小説ということで割り切って考えましょう。今回は鉄道を使ったトリックと見せかけて裏をかかれた感があります。この作品が浦上伸介シリーズの最後を飾るのですから皮肉なものです。
そして、もう一つの18番線ホームの夜行列車というキーワードはついぞその謎が最後まで残るのですが、このネタをどうしても取り入れたかった作者の思いがラストに感じられます。18番線なるホームは東京都大阪にしか存在しないのですが、その上野駅の18番線は東北の人にとっては長らくの終着駅であり始発駅という位置付けであり、その上野駅の18番線はこの小説が発表された翌年の2000年9月11日に廃止されることへのオマージュとして取り上げられていたことが分かります。
この作品を最後に津村秀介氏は2000年9月28日午前2時42分、肝硬変のため入院中の病院で息を引き取ったのでした。合掌。
本来はこの作品は最後に読もうと思っていたのでしたが、近々京都への旅行を考えているのでその参考にとあえて手に取ってしまいました。最初こそ、銀閣寺周辺の哲学の道辺りが登場し期待していたのですが、殺人の現場として登場するだけでそれ以上の銀閣寺の話題は出てきませんでした。古都京都の風情がもう少し感じられるかなと期待した分には見事に裏切られることとなってしまいました。そういう面では、小説としてはすこぶる面白いので満足なのですが、銀閣寺をタイトルにしたにしてはやや期待はずれといえます。