湖西線 12x4の謎 | geezenstacの森

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湖西線 12x4の謎

著者/西村京太郎
出版/角川書店 カドカワ・エンタテイメント

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 日下刑事は、叔父である元刑事・黒田伸行のマンションを訪れた。彼の娘から、父と連絡が取れないと相談を受けたからだ。部屋で日下が目にしたものは、何者かの死体だった!さらに現場には「KOKOKU 12×4」という謎のメッセージが残されていた。十津川警部が捜査に乗り出すが、間もなく黒田の死体が琵琶湖で発見される。現場である湖西へと飛ぶ十津川。やがて第三の死体が発見され…。犯人の目的は?謎の文字は何を意味するのか?点が線へと繋がったとき、予想だにしなかった恐るべき陰謀が浮かび上がる―。謎が謎を呼ぶ不可解な連続殺人に十津川の推理が冴える。----データベース−−− 

 日下刑事の叔父と一度は見合いしたことのあるその叔父の娘が登場します。これは、日下刑事が活躍するのかなと期待は膨らんだのですが、あにはからんや、目立って登場するのは第1章だけで、後はいつものように十津川警部と亀さんの活躍になってしまいます。もはやV,S,O,Pの世界ですな。

 忽然と警視庁の刑事を辞めてしまった過去を持つ叔父の黒田伸行は私立探偵として第2の人生を歩んでいましたが、行方不明になります。この刑事を辞めた理由は明らかにされません。というか、事件には全く関係がありません。そして、琵琶湖で彼の死体が発見されます。最初の琵琶湖へは十津川警部は日下刑事を連れて行きますが、ただそれだけの話で事件の展開には全く絡んでいません。こういう設定なら何も突然におじさんなど登場させなくてもいいだろうにと思えてきます。黒田の娘も途中ではちらっと登場しますが、後は最後に忽然と登場して犯人に拉致されるというわけの分からない展開です。
 
 これらの犯人像は、途中まで全く明らかにされません。不可解な展開は随所にあり、黒田の事務所で殺されていた男の遺骨を引き取りにくるのが事件の背後に関係した女という設定はいいのですが、この女肝心なところで姿を消してしまいます。そして、突然三浦重工業の元社長が登場し事件は動く訳ですが、なぜ、この男がしつこく狙われるかという背景は詳しくは描かれていません。そういう展開なので、十津川警部たちがこの男の存在を嗅ぎ付けても、今イチ緊迫感がありません。命を狙われている割には身を隠すという感じが気迫なのです。その狙われる理由も定かではないという中途半端なもどかしさがあります。

 プロット的にはここで、暴力団関係者が登場して捜査2課の中村警部がいつもながら登場しますが、こちらも事件が関連している割には情報提供だけで捜査に絡んではこないという中途半端な設定です。解せないのは、第3の死体が琵琶湖で発見され、事件の関係者と分かっているのにその現場には十津川警部は行こうともせず東京に戻ってしまうという展開です。第1の死体の身元についても、暴力団関係の人間だということが後になって分かるのですが、どうして最初からそういう線では捜査しなかったのか疑問が残ります。中盤突然身元が分かるのですから・・・

 事件は企業犯罪が大きく関わっているのですが、そういう部分には目をつむってしまうという展開で、三浦重工業の不祥事という側面は無視されて、ただ単に一人の役員だけが絡んだ事件として描かれています。背後に描かれている事件のテーマは大きいのにそこには全く触れずにただ単に誘拐事件としての側面だけを追っているので事件が解決してもなんかしっくりきません。2005年の作品ですが、「大山鳴動してネズミ一匹」的なストーリー展開で読み終わって返って欲求不満が残るという仕上がりです。

 多作家ゆえのやっつけ仕事でこれははっきり言って駄作です。