ジュリーニのブラームス
曲目
ブラームス/交響曲第1番ハ短調Op.68
1. Un Poco Sostenuto, Allegro 19:01
2. Andante Sostenuto 10:33
3. Un Poco Allegretto E Grazioso 5:09
4. Adagio, Piu Andante, Allegro Non Troppo, Ma Con Brio 18:42
シューマン
5.「マンフレッド」序曲 Op. 115* 13:36
ブラームス/交響曲第1番ハ短調Op.68
1. Un Poco Sostenuto, Allegro 19:01
2. Andante Sostenuto 10:33
3. Un Poco Allegretto E Grazioso 5:09
4. Adagio, Piu Andante, Allegro Non Troppo, Ma Con Brio 18:42
シューマン
5.「マンフレッド」序曲 Op. 115* 13:36
指揮/カルロ・マリア・ジュリーニ
演奏/ロス・アンジェルス管弦楽団
録音/1981/11/17
E:ハンス・ペーター・シュヴァイクマン
演奏/ロス・アンジェルス管弦楽団
録音/1981/11/17
1981/11/24* ロイス・ホール、ロス・アンジェルス
P:ギュンター・ブリーストE:ハンス・ペーター・シュヴァイクマン
DGG 427 804-2

お恥ずかしい話で、通常のジャケットデザインとは違うのでこの演奏のCDを持っている事に気がつきませんでした。のだめがらみでラックを整理していて見つけました。ジュリーニはブラームスの交響曲第1番を商業録音としては3回しています。これは2回目のものですが。このロスフィルとは交響曲全集は完成していません。どうしてなんでしょうね。しかし、これも名演です。最初のフィルハーモニア管弦楽団との録音についてはこちらでに取り上げました。
ジュリーニは同じ曲を何回も再録音しています。このブラームスも例外ではありません。そして、ジュリーニの演奏ですからテンポはゆったりとしています、というかかなり遅いです。第一楽章が19分弱、第ニ楽章が10分半、第三楽章が5分、そして第四楽章は18分半です。3種類の録音の中では一番遅いテンポの録音になっています。しかしこの遅いテンポで丁寧に歌われるブラームスは格別な味わいで、堂々たる風格を有しています。最後まで聴いていると、何か人生の長い旅路を終えてきたような境地と至福感にまで達してしまいます。まさに、ジュリーニの「マイウェイ」の世界に浸ることができます。
オーケストラ | 第1楽章 | 第2楽章 | 第3楽章 | 第4楽章 | TATAL |
フィルハーモニア管 | 14:11 | 9:28 | 4:55 | 18:08 | 46:42 |
ロス・フィル | 18:56 | 10:28 | 6:08 | 18:36 | 54:08 |
ウィーン・フィル | 15:49 | 10:49 | 5:18 | 19:46 | 51:42 |
堂々としたゆったりしたテンポではあるのですが、弛緩したり生ぬるい演奏では全くありません。第一楽章は冒頭から音響の迫力は物凄く、特に冒頭のティンパニの強いアクセントをもった強打が印象的です。この揺るぎない風格を感じさせるテンポは最高です。この演奏を聴くとヴァントなんかめちゃくちゃ早いのでそれだけでパスしたい気になります。個人的には「のだめ」での千秋もこれくらいのテンポでやってほしかったと思います。しかしこれとて、ただ強いだけではなく微妙なニュアンスの違いを叩き分けています。ここでは、打楽器と重厚なオケが一楽章の持つスケール感を際立たせています。第1楽章の冒頭は8分の6拍子で入って8小節目だけが8分の9拍子になります。Un Poco Sostenutoで記されたこの序章はブラームスの4つの交響曲では唯一のものです。この動機は後から付け加えられたもののようですが、ベートーヴェンの交響曲第5番の冒頭の様に、このティンパニの響きがあるからこそこのブラームスの交響曲第1番は名曲の仲間入りをしたと思います。 スコアを確認するとこの部分はコントラバスとティンパニ、それにファゴットが同じリズムを刻みます。このユニゾンが揺るぎない緊張感を醸し出し一気にこの曲の世界へ引きずり込んでくれます。ロス・フィルの演奏も改めて聴いてみると、メータ時代とは違う重厚な響きで弦の響きはヨーロッパトーンを感じます。そういえばメータが常任時代はドイツものはウィーンフィルと録音してロス・フィルは使っていませんでしたね。ただ、金管は何処となく、垢抜けしない安っぽい響きのときがありそれが残念です。ここではリピートがあり全体の演奏時間は長くなっています。
第二楽章のAndante sostenutoは暗さと明るさを兼ね備えた美しい楽章です。この「田園風」楽章でのジュリーニのオケの唄わせ方には陶然としてしまいます。ジュリーニは若くしてローマ・イタリア放送交響楽団、ミラノ・イタリア放送交響楽団の音楽監督(首席指揮者は他にもあります)を努めていますが、後はこのロスフィルだけです。手兵としてのオケを思う存分鳴らしています。第二楽章の7分頃に現れるソロ・ヴァイオリンの部分など、こぼれんばかりの美しさです。オケと良い関係にあった事が伺われます。第1楽章ばかりが目立ちますが、この楽章もこの演奏の魅力の一つです。
第三楽章は短い間奏曲のようで、ベートーヴェンののスケルツォとは違い典雅な響きを感じます。三部形式を取りながら魅力的な旋律に溢れ、ひと時の安住を得たような楽しげな旋律が全曲を包んでいます。この楽章も見事です。いささか唐突な感じでこの楽章は終わり、 再び壮大な人生の回顧を暗示する第四楽章に受け継がれます。
ブラームスが描いた音楽も素晴らしいのでしょうが、ジュリーニの演奏は実に説得力があります。ティンパニの強打の意味もはっきりと分かり、かの有名なホルンとフルートが奏でる旋律が現れる頃(3分半)には体がブラームスで満たされてしまっています。よく言われる主部のベートーベン第9の歓喜の主題に似た第一主題を聴くいていると、まさしくこれは形を変えた、ベートーベンよりも穏やかで静かな、しかし内に秘めた熱情では負けない歓喜であることが、しみじみと分かります。いやはや本当に美しい旋律です、個人的には今までの人生に於いて心身ともに揺り動かされる音楽的体感をしたのはこの曲だけだけに感動はひとしおです。ジュリーニのテンポで聴きますと、ブラームスが非常に大人びて聴こえます。感情をむき出しにする直情型の演奏とは異質のもので、それでいて激しいという恐るべき音楽がここに存在します。ブラームスの一番はかなり聴き込んでいるはずですが、こういう 体験を出来る演奏はそうそうありません。
さて、このCDにはおまけにシューマンの「マンフレッド」序曲がカップリングされています。ジュリーニのシューマンは管弦楽作品としては協奏曲を除いて交響曲第3番「ライン」とこの「マンフレッド」序曲しか残していないようです。まことに、こだわりの指揮者です。この「マンフレッド」はオペラではなく劇音楽の付随作品のようで、今ではこの序曲だけが単独で取り上げられる事が多いようです。シューマンの曲としてはオーケストレーションに成功しているようで、重厚な弦の響きに、金管、特にトランペットの冴え渡る響きは聴きものです。ジュリーニはここではオペラ的な作品の構構成力を巧みにいかした劇的な表現で、ドラマチックに演奏しています。この曲はフィルハーモニア管弦楽団とも録音していますが、音の粒といい響きといい、こちらの方がまとまっているような気がします。物語自体が悲劇的なものなので、曲は最後にはひっそりと終わる構成です。この組み合わせでの国内盤は発売されていないようなので今となっては貴重です。