クレバースのブラームス |
曲目/ブラームス
ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.77
1. Allegro non troppo 22:53
2. Adagio 9:32
3.Allegro giocoso, ma non troppo vivace - Poco piu presto 8:16
4.悲劇的序曲Op.81* 13:40
ヴイオリン/ヘルマン・クレヴァース
指揮/ベルナルト・ハイティンク
演奏/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音/1973/09
1970/05* コンセルトヘボウ、アムステルダム
米PHILIPS 422 972-2

ヘルマン・クレバースは長らくコンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートマスター(1962-1979)を務めていました。ほぼハイティンクが常任として在任していた期間と重複します。ハイティンクの演奏には切っても切れない関係にあった人です。そういう間柄でしたから、この録音も実現したのでしょう。面白い事にハイティンクのブラームスのヴァイオリン協奏曲の録音はこの1973年に集中しています。この年の4月にもシェリングと同曲を録音しています。それから僅か5ヶ月後にこのクレバースと録音です。普通では考えられない録音間隔です。クレバースはソロアーティストとは違いますがけっこう独奏者として録音を残しています。ちなみにこのブラームスのヴァイオリン協奏曲もモノラルではメンゲルベルク/コンセルトヘボウ、ステレオ初期にはヨルダンス指揮ブラバント・フィルハーモニー管弦楽団との録音を残しています。
個人的に彼の名を知ったのはクレバースが独奏を務めたヴィヴァルディの「四季」を演奏したレコードでした。クラシックを聴き始めて間もない頃で、巷では「イ・ムジチ」の四季が蔓延していましたが、それとは違う真摯な演奏でけっこう気に入っていたものです。マリヌス・フォーベルベルク指揮アムステルダム室内管弦楽団(外盤は蘭artoneでDE S-1724で出ていました)との共演でコロンビアの「ダイヤモンド1000シリーズ」の最初期の一枚でした。この頃はレコード芸術でもまともに取り上げなかった録音で音源は明記されていませんでした。その後、フィリップスからこの録音のLPが発売され、彼がコンセルトヘボウのコンサートマスターである事を知った訳です。ベルリンフィルのミシェル・シュワルヴェやウィーンフィルのボスコフスキーと違いこういう協奏曲を出すコンマスということで一気に注目した覚えがあります。そうした視点から見ると、彼の名前はR.シュトラウスの「英雄の生涯」とかリムスキー・コルサコフの「シエエラザード」とかのソロでのクレジットが散見されます。名コンマスだったんですなあ。彼の独奏では他にベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲なんかも集めました。
演奏、録音年 | 第1楽章 | 第2楽章 | 第3楽章 | TOTAL |
ヘルマン・クレヴァース/ハイティンク/コンセルトヘボウ管 | 22:53 | 9:32 | 8:16 | 40:41 |
ヘンリック・シェリング/ハイティンク/コンセルトヘボウ管 | 23:14 | 9:27 | 8:34 | 41:15 |
ヘンリック・シェリング/ドラティ/ロンドン交響楽団 | 22:51 | 9:04 | 8:30 | 39:58 |
アンネ=ゾフィー・ムター/カラヤン/ベルリンフィル | 21:59 | 9:31 | 8:30 | 40:00 |
さて、この演奏ですが小生はけっこう気に入っています。ハイティンクもコンビを組んで10年以上経っていますから気心も知れ、パートナーとしては脂の乗ってきた時期での録音です。
第1楽章からスケールの大きい演奏でハイティンクのサポートの充実ぶりが光ります。この頃のコンセルトヘボウはまさにコンセルトヘボウという音でしっとりとした落ち着いた響きで強奏でも音が濁らない素晴らしいバランスでの響きを作り上げています。そういうバックに支えられて、クレバースの音はヴィブラートをわりと強くきかせているのですがしつこくはなく、むしろ丸く柔らかいブラームスの渋い大人の響きを作り出しています。一般的なヨアヒムのカデンツァを使用してじっくりと弾き込んで聴かせてくれます。
聴きものは第2楽章で、オーボエを初めとする木管の柔らかい響きからして独自のブラームスをハイティンクは作り出しています。このオーケストラの導入部はシェリングの演奏より出来は上です。その調べにとけ込むようにクレバースの渋いけれど甘美なヴァイオリンが被さってきます。決してヴァイオリンのソロが出しゃばらないバランスの良い響きでしばし、夢見心地で聴き入ってしまいます。
第3楽章は腰の座ったどっしりとした演奏で、いささかも慌てずクレバースはじっくり弾き込んでいます。ティンパニのトレモロも絶妙のバランスで響きます。全集魔のハイティンクですが、こういう合わせ物もきっちりこなすハイティンクの良い面が聴き取れます。個人的にはこの頃ハイティンクとデュトワの合わせ物が出しゃばらず好きでした。同じバックでも、シェリングの時はちょっと遠慮がちな所が感じられたハイティンクですが、ここは気心が知れた仲間内の演奏という事もあってか阿吽の呼吸での意志の疎通が感じられコーダに向かっての盛り上げも万全です。
併録の「悲劇的序曲」はほぼ同時期の録音ですが、ちょっと録音レベルが低いので損をしています。後にボストン響とこの曲を再録音していますが基本的な解釈は同じようです。大学祝典序曲は再録していませんが、セッション録音以外でも後にLSOとライブ録音しています。この悲劇的序曲は共に管弦楽作品としては最初に録音しており、得意曲目なのかも知れません。たしかに、 ブラームスの管弦楽作品の中では一番渋い曲目です。そういう所がハイティンクに合っている所なんでしょうか。感情の表出やオーケストラドライブの点では後のボストンとの録音に一日の長がありますが、ここでも、コンセルトヘボウの特色を生かした幾分くすんだしっとりとした響きで味わいのある演奏をしています。