伊豆の海に消えた女 | geezenstacの森

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伊豆の海に消えた女


著者 西村京太郎
出版 祥伝社 祥伝社文庫

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 東京南青山の高級マンションで、プレイボーイの青年実業家高原雅之が刺殺された。十津川警部と亀井刑事の捜査で、五人の女の名前が浮かんだ。その一人、モデルの片山みゆきは、伊豆下田に向かったまま行方不明、石廊崎から身を投げたか、水死体で発見。さらに一人が天城峠で殺され…。伊豆を舞台に次々起こる殺人。
十津川警部の推理が冴えるトラベル・ミステリー。---データベース---

 複雑なストーリーですがドラマ向きな内容とあって2002年に渡瀬恒彦の十津川警部シリーズで放映されています。テレビ化に当たっては殺された青年実業家は輸入車販売会社の社長から大手パソコンソフトメーカーの社長に置き換えられています。残念ながら見ていないのですが、ストーリーの中で死語になったワープロが出て来るのですがどのように処理されているのか見たい気もします。

 伊豆が舞台ということで恒例の鉄道は「踊り子」が登場します。この列車に、平凡なサラリーマン生活にちょっと逆らう男とモデルの女が偶然に出会い一緒にいずに向かうというところからスタートします。この女、最初から不可解な行動をとります。途中の熱海で下車してしまうし、伊豆急行のリゾート21に乗り込むと、こちらも下田までは行かず、一つ手前の蓮台寺で降りてしまいます。そして、生田くみ子と名乗っているにもかかわらず手荷物のスーツケースのイニシャルはMKになっているのです。

 こんな事から読み手には彼女が殺人犯である事が見え見えなのです。そして、同行している男がそんな事に気付かないはずはありません。そんな中、女は遺書を残して自殺してしまいます。ここまでは平凡な殺人事件とその結末ということで事件は一件落着かに見えます。ところがここから、更に殺人事件が連続して発生します。それも、殺された社長に関係する人物ばかりです。怪しい容疑者は存在して財産狙いの犯行と思われますが、肝心の動機が解りません。
 
 なかなか犯人像が浮かんでこないのもこの事件の特徴です。そこで、殺された男の過去を洗っていくと、北海道での過去の事件が大きく影を落としている事が解ってきます。それは、未解決の事件でしたが十津川警部の推理で一本の糸に繋がっていきます。そして、最後のどんでん返し。トリックとしてはけっこう面白いのですが事件の解決を急いだがためにけっこう辻褄が合わないところが出てきますし、未消化の部分が残されています。

 殺しの手口はほとんど明かされていません。警察上がりの私立探偵の死も、最初に登場したサラリーマンの男も青酸死ということですが手口は不明です。ましてや、ネタバレになってしまいますが他人に成り済ましているのに、最初のアリバイがサラリーマンに目撃されている設定になっています。屋敷からあまりでない人物という設定が根底から崩れるアリバイです。一番の不思議が事件当日の4月8日にこの女性に十津川警部と亀さんが会っているにもかかわらず、その後入れ替わった設定になっても気がつかないという矛盾があります。なにしろ、入れ替わるべき女は4月9日にはまだ伊豆に居たのですから。

 こういうパラドックスのある事件ですが十津川班としては西本刑事と日下刑事が登場してけっこう活躍します。