由布院心中事件 | geezenstacの森

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由布院心中事件


著者 西村京太郎
出版 中央公論社 C★ノベルス

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 新婚のロナルド・E・クラークと加奈子夫妻は、風光明媚な温泉地大分県由布院に出かけた。が、四日目の早朝、加奈子の絞殺体が見つかり、夫のクラークに殺人容疑がかかる。二人と家族付き合いをしていた十津川は現地に赴き、5年前に加奈子がこの由布院で一人の青年と恋に落ちたことを知る。しかし、その青年の白骨が、東京三鷹の廃屋の地中から発見された!一方、十津川の妻・直子はクラークの過去を知るために、彼の故国アメリカへ飛び、思いも寄らぬ事実を掴む…。クラークは、妻と妻のかつての恋人を殺した殺人鬼なのか。友人夫婦を襲った最悪の事態に、十津川警部苦悩の推理。---データベース---

 以前紹介した「特急ゆふいんの森殺人事件」の続編という感じの物語設定になっています。この時は十津川警部と亀さんが活躍しましたがこのストーリーでは亀さんは珍しくほとんど登場しません。ここでは十津川夫妻が全面的に活躍します。こんなに活躍する妻の十津川直子は初めてのような気がします。英語はペラペラのようで十津川警部の依頼で単身アメリカに行き、精力的に調査に飛び回ります。その移動も半端ではなく、ロス、サンフランシスコ、ユタ州、そしてハワイまで足取りを追っています。

 この小説のタイトルは「由布院心中事件」。湯布院では無いんですね。調べてみると2005年10月1日に「由布市」になっているので湯布院は消滅しているのですね。ちなみにそれまでは「湯布院町」でした。Wikipediaで検索してみると
1936年4月1日 北由布村・南由布村が対等合併。速見郡由布院村となる。
1948年1月1日 由布院村が町制施行。由布院町となる。
1950年1月1日 速見郡から大分郡所属に変更。
1955年2月1日 由布院町と湯平村が対等合併し、湯布院町が発足。両者の文字を取り入れた町名となった。
2005年10月1日 挾間町・庄内町と合併し、由布市となり消滅。
ということです。しかし、この小説の描かれたのは2000年です。どういう事なんでしょうね。

 ま、それはそれとして、心中事件となってはいますが、殺されるのは新婚の妻加奈子だけです。タイトルに誤りかとおもいきや、結末にはちゃんと解決策が用意されているのです。それに付けても、ここでも大分県警と警視庁は対立します。合同捜査といいながら大分県警はあっさりと夫のクラークを逮捕してしまいます。一体何のための合同捜査なんでしょうね。そして、十津川警部はクラークの友人ということで足かせがあり思うように捜査は出来ません。勢い休暇を取って単独での捜査という形がとられます。こういう事もあってか、相棒の亀井刑事はほとんど活躍の場がありません。

 そして、クラークの過去にはとんでもない事実が隠されている事が解ります。ここら辺の調査は妻の直子が行なうわけですが、本来ならインターポールを通して調査すべき事柄です。そして、クラークはティーンエイジャーの時に、ハイスクールに銃を持ち込んで、乱射しようとしたら、別の人物が乱射してたから、そいつを撃ち殺したら、英雄になってしまったという過去が判明します。事件に対する評価の点ではさすがアメリカと思わせる「ターティ・ハリー」的解決が笑わせます。

 なかなか犯人像が浮かんでこないのもこの事件の特徴です。十津川警部と妻の直子がクラーク夫妻のたどった足取りを調査してようやく犯人らしき人物が浮かんできます。こういう捜査を大分県警がやっていないとは如何に杜撰な誤認逮捕かということを露呈しているようなもんです。こうして、浮かんできた真犯人を再び直子はアメリカに渡り追います。

 この真犯人は日系3世とおぼしき人物ですが、日本語がぺらぺらです。生活環境からすると、ほんまかいなと疑ってしまいます。まぁ、この人物が登場する事で事件はめでたく解決するのですが、結末は一波乱あります。

 この事件で十津川警部は犯人逮捕に際して、私人の立場で拳銃を不法所持し、尚かつ偽名を使ったということで自宅謹慎になります。しかし、大分県警の誤認逮捕についての言及はありません。片手落ちです。それにしても、やるせない事件です。