スワロフスキーの「我が祖国」!? | geezenstacの森

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スワロフスキーの「我が祖国」

スメタナ
交響詩「我が祖国」全曲
1. 高い城 14:38
2.モルダウ 11:20
3.シャールカ 9:00
4.ボヘミアの牧場と森から 11:46
5.ターボル 11:43
6.ブラニーク 12:54

 

指揮/ハンス・スワロフスキー
演奏/南西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1975
独インターコード INT 820.715

 

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 この演奏は「我が祖国」の収集で群を抜いているこちらのサイトにも紹介されていないのであるいは幽霊演奏かと不安になりますが、ハンス・スワロフスキーは録音年の1975年までは存命でした。もし、本物なら最晩年の録音ということになります。晩年の1973年に来日してNHK交響楽団を指揮しています。この人の演奏は、幽霊演奏によく使われますから、信頼のおける演奏です。以前にはブラームスの交響曲第1番やベートーヴェンの「英雄」を紹介しています。CDのジャケット表紙には何の演奏者クレジットもありません。裏面でようやく確認出来る程度です。しかし、インターコードはきちんとした会社(現在はEMIに吸収されています)であったのでまず、間違いの無い演奏でしょう。CDDBにもちゃんと登録がありました。

 

 さて、演奏です。元々、スワロフスキーは際立った特徴のある指揮者ではありませんでした。しかし、この「我が祖国」ではけっこう聴かせてくれます。最初の「高い城」では出だしでハーピストの緊張した息づかいが聴こえてきます。1970年代のアナログ録音にしては音の分離はあまりよくありませんがあまり編集のあとは感じられません。盛大に演奏ノイズが混入しています。しかし、演奏はあまりある音楽が凝縮されています。アクセントをかなり強調して各フレーズを際立たせた演奏です。
 転調して弦楽合奏になる部分ではスワロフスキーが指揮台の上で踏みならす足音まで収録されています。

 

 全曲の中では独立して演奏される「モルダウ」ですが、ここでは特別扱いはしていない演奏です。フルートと弦のピチカートによる冒頭もことさら構える事無くちょっと速めのテンポで淡々と進んでいきます。主題のメロディになるとここでもやはりちょっとタメを作ってテンポを動かします。まるでストコフスキーの演奏を聴いているような演奏に聴こえます。金管セクションをことさら強調していないので迫力という点ではちょっと欠けますがけっこう楽しめる演奏です。

 

 「シャールカ」は反対に劇的緊張を持った盛り上げ方ですが全体に霞のかかったトーンで幻想的な雰囲気も感じます。まあ、テーマが女性戦士を扱った物なので、そういう聴き方忘ればぴったりの雰囲気を持った演奏という事が出来ます。

 

 「ボヘミアの牧場と森から」もやや速めのテンポで最初からひっばり込んでいきます。11分台での演奏はけっこう珍しくカレル・シェイナとマルコム・サージェントの演奏位しか知りません。ボヘミアの森を優雅に散策するというよりも空から森を遊覧しているような雰囲気にさせてくれます。

 

 一転して「ターボル」は粛々とした演奏です。さすがにこの曲は金管がバリバリ響きます。それでも、ホールトーンのせいでしょうか馬力のある音とはひと味違います。バランスが取れているといえばその通りなんですが。指揮法の教授としても名を馳せたスワロフスキーですから楽譜の読みは深く、聴かせどころのつぼはきっちり押さえた演奏でここでの幾分速めのテンポで後半は畳み掛けるように突き進んでいく爽快感を味わえます。最後は飛び抜けてトランペットを強奏させています。

 

 「ブラーニク」はそのトランペットの強奏をそのまま引き継いで開始されます。同じセッションで同じバランスで響かせているのは好感が持てます。「ターボル」とワンセットだということがいやが上でも認識出来ます。「我が祖国」は偶数曲が未来志向の曲でそういう意味でも、この曲は全曲の締めくくりに相応しい規模です。前曲のテーマをそのまま引き継いで開始され、この曲では第1曲の旋律も登場して全体を統一しています。やはりチェコ人のための曲なんですなあ。スワロフスキーの演奏はそういう民族性を鼓舞するという視点で聴くとちょっと物足りないかもしれませんが、一つの交響曲として聴くとよく考えられた構成で演奏されており個人的には気に入っています。

 

 こんな聴き応えのある演奏がお蔵入りなんてもったいないような気がします。今回記事を修正するにあたり探したら音源が見つかりましたので貼り付けておきます。こんな演奏です。

 

 

 さて、この「我が祖国」の作者スメタナは晩年ベートーヴェンと同じように聴力を失っていたということで、この曲の演奏に自ら解説を付したということです。以下がその解説文の訳です。
ヴィシェフラド

 伝説の吟遊詩人ルミールが、岩上の城ヴィシェフラドを眺めながら過去に思いを馳せている。彼が奏でる竪琴の響きと共に、栄光の時代の王や騎士たちの祝宴の情景が浮かんでくる。ルミールは試合や戦闘についても歌う。勝利の歌がこだました城は幾多の戦いで壊れ落ち、金色の広間も玉座も打ち砕かれた。
 ヴィシェフラドは廃墟となり、何世紀もの間さびれた姿でたたずんできた。廃墟からは昔の歌がこだまし、ルミールの竪琴の音は風の中に消えてゆく。

ヴルタヴァ

 曲はヴルタヴァの最初の小さな流れ、冷たく、そして暖かい源流から始まる。二つの流れはひとつになり、岩に当たって清々しい水音を立てながら、陽の光を受けてしだいに川幅を増してゆく。川は狩人の角笛が響く森をぬけ、収穫祭(又は村の婚礼)が行われている田園を流れてゆく。夜には月明かりを浴びた川で、水の精たちが踊る。朝になって流れは速さを増し、聖ヤン(ヨハネ)の急流にしぶきをあげて流れ落ちる。川幅を増して大河となったヴルタヴァは、古く尊いヴィシェフラドに挨拶を送りながら、ゆったりとプラハに流れ込み、ついには壮大なエルベ川へと流れ去ってゆく。

シャルカ

 この曲はシャルカ谷に伝わる女戦士シャルカの物語を描いたものである。始めに、恋する男に裏切られたシャルカの怒り、屈辱、激怒、復讐の誓いが語られる。騎士ツチラートと部下の戦士の一団が、女戦士団をこらしめるために森に入ってきた。武器を持ち行進する音が聞こえてくる。計略を考えたシャルカは部下に命じて自分を木に縛りつけさせ、か弱い声で助けを求める。シャルカを見たツチラートは彼女の美しさに心を奪われ、その場で恋に落ちた。彼はシャルカを自分の城に連れ帰り、盛大な宴を開く。シャルカは用意していた薬入りの酒で男たちを酔わせ、彼らは全員眠りこんでしまう。シャルカは外で待機する女戦士軍に、角笛の合図を送る。遠くからこたえる角笛。
 女戦士軍は城になだれこみ、眠る男たちに襲いかかってみな殺しにする。シャルカも自分の剣で騎士を刺す。復讐を果たしたシャルカの、勝利のおたけび。

ボヘミアの森と草原から

 これは私がボヘミアの田園風景を眺めた時、心に呼び起こされる全ての感情を音で表現した曲である。木立、牧場、森、肥沃な大地、だれもがこれを聴く時、私が何を描いたのか分かってくれるだろう。

ターボル ~モットー:汝ら神の戦士~

 フス団の賛美歌「汝ら神の戦士」がターボルの町で歌われ、キリスト教徒全員の頭上に響く。賛美歌は戦いにおもむくターボル派の人々を勇気づけ、戦いの神聖さを断固確信させた。戦闘のさなかにも賛美歌は聞こえ、信仰を裏切るよりは死を選ぶターボル派の激しさに、敵は恐怖に陥った。

ブラニーク

 <ブラニーク>は<ターボル>のつづきとなる曲である。

 フス団の戦士たちは戦いを終えたのちブラニーク山に隠れ、国を救う時が来るのを待って眠っている。曲はフス団の賛美歌「汝ら神の戦士」で始まり、小さな間奏曲としてブラニークの周りの風景の描写や羊飼いの少年が奏でる牧歌をはさんで、敵の来襲、新たな賛美歌「汝ら神と共に勝利を収めん」がつづく。最後に<ヴィシェフラド>のテーマがチェコ民族の復興と未来の栄光を讃え、<我が祖国>の全曲は終わりを迎える。