マタチッチ
ワーグナー管弦楽曲集
曲目/ワーグナー
1. 楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
2. 歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲
3. 歌劇「ローエングリン」第3幕への前奏曲
4. 歌劇「さまよえるオランダ人」序曲
5. 歌劇「タンホイザー」序曲
6. ジークフリート牧歌
指揮 : ロヴロ・フォン・マタチッチ
演奏:NHK交響楽団
P:結城享
E:林正夫
演奏:NHK交響楽団
P:結城享
E:林正夫
録音:1968/09/14,15、新宿厚生年金会館
日本コロムビア COCO70597

マタチッチがNHK交響楽団と残した唯一のスタジオ録音盤です。そういえばホルスト・シュタインもNHK交響楽団との唯一の正規録音はワーグナーでした。これは1968年の録音ということで岩城宏之がベートーヴェンの交響曲全集を録音した頃とほぼ同時期の録音です。この頃からNHK交響楽団の実力が飛躍的にアッブしたということでしょうかね。
マタチッチは日本では死後評価が上がるという奇特な指揮者です。何しろ初来日時はほとんど無名に近い指揮者でした。しかし、N響とのセッションを繰り返すうちにその実力のほどが知られ、楽員からは敬意を持って受け入れられ世界に作がけて日本で評価が上がりました。リアルタイムで彼の演奏をNHKの放送を目にしていた小生は、やはり彼の作り出す音楽に感動したものです。今はライブで聴くことができますが、ブルックナーの8番なんかは孤高の名演です。
小生がN響をテレビで観るようになった時は常任指揮者が岩城宏之で客演がサヴァリッシュが主体で、その後マタチッチが登場したのを覚えています。サヴァリッシュは謹厳実直といった風情で颯爽としていましたが、マタチッチは当時から巨漢でのっそりとしていて指揮棒を使わず右手を手刀のようにして指揮する姿はとても印象的でした。汗かきのようでハンカチで汗を拭き拭きの熱演を今でも思い浮かべます。
初来日は1965年のスラヴ歌劇団の指揮者としてですが初練習で意気投合し、翌年もう名誉指揮者の称号をサヴァリッシュ、カイルベルトとともに贈られています。この録音は、第4回の来日時に録音されたのですが、その年の8月に旧ソ連の軍事介入のあったプラハの春事件があったので定期演奏会のプログラム変更等の慌ただしい中で録音されています。
曲目は前年の1967年の定期演奏会で演奏された曲目の中から選ばれています。その際演奏されていなかったのは3曲目の「ローエングリーン/第3幕への前奏曲」だけです。
N響の現在の演奏レベルからすると、明らかに劣る部分はありますが熱演です。金管の響きはややムラがあり、曲によってはやや心もとない部分はありますが、第1曲の「ニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲」なんかは実に堂々としています。2曲目の歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲 」なんかは弦の響きが美しく、録音条件の良くない厚生年金会館にしては最上のサウンドです。第3幕の方はちょっとリズムが重く華やかさに欠けます。編集に甘さがありつなぎ目がつんのめりになる部分がありややもったいない気がします。
「さまよえるオランダ人」序曲 は金管のピッチが不安定なところがあり、もう一踏ん張り欲しいところですが、重心の低い渋みのある演奏でじっくり聴かせてくれます。ところで、下記の曲がマタチッチとホルスト・シュタインでがちあっています。この2枚を聴き比べると、音の鮮度の部分ではシュタインの方がデジタルで上回っているのですが、演奏の質になるとマタチッチの方が役者が一枚上です。録音方法にもよるかもしれませんが、マタチッチの方が音のエネルギーが凝縮して一つにまとまっている感じがします。
演奏時間比較
曲目 | マタチッチ/N響 | シュタイン/N響 |
楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲 | 9:40 | 10:09 |
歌劇「ローエングリン」第3幕への前奏曲 | 3:12 | 3:12 |
歌劇「さまよえるオランダ人」序曲 | 10:59 | 10:09 |
華やかに「ニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲」で幕を開けたこのアルバムですが、最後はしっとりとしたジークフリート牧歌で締められます。記憶が正しければ、この頃のコンサート・マスターは田中千香士のような気がしますが、弦は素晴らしくまとまっています。曲目のこの配列はマタチッチの意向なのか分かりませんが、納得のできるものです。