私を殺しに来た男 | geezenstacの森

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私を殺しに来た男

著者 西村京太郎
出版 角川書店 角川文庫

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 十津川警部は帰宅途中の電車で若い女性から「お願いがある」と声をかけられた。
不眠不休の捜査で疲れきっていた十津川は、明日にでも警視庁に電話をしてくれと言い、その場を去ってしまう。そして翌朝、駆けつけた殺人現場で見た死体は、声をかけてきたその女性だった…。十津川警部の苦悩を描く「事件の裏で」をはじめ、男を手玉にとってきた女性が狙われる犯人当て小説「私を殺しに来た男」、プロ野球の世界を舞台にしたスポーツ推理小説「サヨナラ死球」など、本格推理から異色作品まで、単行本未収録の短編を十作収録。
文庫オリジナル短編集。
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 これは十津川警部が活躍する本格ミステリーから、野球ミステリー、犯人当て小説まで、バラエティに富んだ作品を10編収録する短編集!すべて単行本未収録の文庫オリジナル作品!ということで一粒で二度美味しいお得な一冊です。以下の作品が収録されています。

◆事件の裏で
◆私を殺しに来た男
◆見張られた部屋
◆死者が時計を鳴らす
◆扉の向こうの死体
◆サヨナラ死球
◆トレードは死
◆審判員工藤氏の復讐
◆愛
◆小説マリー・セレスト号の悲劇

 これらの作品の中で私を殺しに来た男、見張られた部屋、死者が時計を鳴らす、扉の向こうの死体の4作品は読者参加型の犯人探しゲームになっています。解答編が用意され誰が犯人か推理して楽しめます。もちろん作品中にヒントが隠されていますから、西村ワールドになじんでいる人なら簡単に解けるのではないでしょうか。

 十津川警部が登場するのは最初の「事件の裏で」一編だけです。短編ながら味わいがあります。過去の事件を引きずったストーリーは十津川警部の若かりし頃の一言が大きくのしかかり心を痛めます。人間十津川の苦悩を感じさせる佳作で、現在の作品よりよっぽど読み応えがあります。刑事としては解決した事件を追うことはできないので二日間の休暇を取り、私人として事件を再調査します。ここでは亀井刑事と西本刑事が登場しますが、最後は十津川ひとりで事件の解決に望みます。最近の顔が見えない十津川警部と違い、人間味のある十津川警部を感じることができほっとします。

 野球がらみの3編は一ひねりある殺人事件です。ただ、犯人の視点から描いた「審判員工藤氏の復讐」だけは心理描写が主でトリックそのものは読んでいて直ぐに分かってしまうほどのものですからたいした事はありません。トレード話はよくある問題を描き、サヨナラ四球は監督が辞任に追い込まれようと真実を追究する姿勢が事件の本質をするどく描いています。

 「愛」は推理小説ではありません。むしろ純文学の範疇に入りそうな作品ですが、やや。さめた視点で描かれていて、事の結末を予測出来るものとしてはややもの足りません。男の最後の言葉が印象的です。
「愛というやつは理屈じゃないからですよ」

 実際に19世紀に起こった事件を題材にした「小説マリー・セレスト号の悲劇」はファンタジー小説としては読み応えがあります。怪奇現象に襲われ遭難してしまうマリー・セレスト号は怪奇な運命を辿った帆船で、2001年にこの船の残骸が発見されています。コナン・ドイルもこの船にまつわる小説を書いており、また、この事件の詳細を記述したホームページもあります。
西村京太郎の解決はちょっとありふれた解釈で意外性はありませんが、なるほどねと思わずニャッとしてしまいます。