サヴァリッシュのベートーヴェン/その2 | geezenstacの森

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サヴァリッシュのベートーヴェン
その2

曲目/ベートーヴェン 
1.交響曲第5番ハ短調 op.67『運命』
2.交響曲第8番ヘ長調 op.93
3.コリオラン序曲Op.62*

 

指揮/ヴォルフガング・サヴァリッシュ
   フリッツ・ライナー*
演奏/NHK交響楽団
   シカゴ交響楽団*
 
録音 1982/05/07,08 新座市民会館、埼玉
   1959 シンフォニー・ホール、シカゴ*
P:陶山義則、リチャード・モール*
E:大野正樹、ジョセフ・F・ウェルス*

 

英BMG VD60534

 

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 先にサヴァリッシュのベートーヴェン交響曲全集を紹介しましたが、こちらはそれに先立つ1982年にサヴァリッシュとN響というコンビの初めての録音です。それも、RCAからの発売とというもので、後にも先にもサヴァリッシュとN響とのスタジオ録音はこれのみです。そして、デジタル録音というおまけまで付いています。

 

 サヴァリッシュは1962年以来頻繁に来日してN響を振っていましたから、LP発売当時は今更ベートーヴェンかと注目していなかったのですが、CD化の1991年再発当時はまだマエストロの中でベートーヴェンの交響曲全集を録音していなかったので飛びついて買いました。この1991年に発売されたCDはおまけにライナーのコリオラン序曲が収録され全世界で同一ジャケットで発売され、国内盤はこの時BVCC9017の番号となっていました。

 

 さて、コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏を聴いてからのNHK交響楽団は録音会場、機材、スタッフ等の違いを如実に感じるものです。まず、弦の響きが全然違います。弦に艶がありません。金管とか木管はそれほどの違いを感じませんから日本のホールの音響のまずさなんでしょうね。ただし、N響は好演しています。そこはやっぱりサヴァリッシュの統率力なんでしょう。第8番なんかは所々のフレーズではコンセルトヘボウを上回っています。基本的解釈は後年のコンセルトヘボウとの演奏とほとんど変わりありません。そして、もう一つの大きな違いはやはり、録音技術の進歩の差というものです。デジタル録音ということは書きましたが、その静寂さの中に電気的ハムノイズがのっています。デジタル初期には、こういう録音が多々あり、アナログとは違う難しさがこういう所に現れています。

 

 さて、交響曲第5番です。この第1楽章の冒頭の印象は後のコンセルトヘボウ管弦楽団と大きく違います。ここではやや引きずるように和音が奏されフェルマータになります。コンセルトヘボウの方はこの引きずる感じはありません。2度繰り返される2回目も同じ印象です。オーマンディなんかは提示部の繰り返しを省略していますが、ここはきっちり繰り返しています。そして、懐かしや千葉馨のホルンが朗々と響きます。N響の顔と言われた千葉氏は1983年に定年退団していますから、多分これは最後の置き土産でしょう。この千葉氏のホルンを聴くだけでもこのサヴァリッシュの録音は価値があります。
 第2楽章は極めてオーソドックスな表現です。ただし、この第2楽章だけがやや遅めのテンポとなっています。それだけこのアンダンテをきっちり演奏しているといえます。全曲の要なんでしょうね。コンセルトヘボウの演奏より20秒近く遅くなっています。その他の楽章がそれほど違わないのでやはり、この2楽章だけ目立ちます。

 

 3、4楽章は連続して演奏されますからひとくくりで考えた方がいいのかもしれません。音の密度の点ではN響も引けを取りません。この80年代まではドイツ系の指揮者が多かったせいもあり、堂々としたフィナーレを演奏しています。時期的には徳永二男がコンサートマスターだったはずです。はったりやこけおどしの無いオーソドックスな演奏ですが、当時のN響の実力を知らしめるに相応しい仕上がりです。

 

交響曲第5番比較
録音年 第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章
1982年盤/NHK交響楽団 7:54 10:44 5:16 8:52
1991年盤/コンセルトヘボウ 8:00 10:26 5:09 8:48

 交響曲第8番はコンセルトヘボウの演奏でもややディテールの硬直性を感じたのですが、そういう雰囲気はこちらも同じです。サヴァリッシュの生真面目さがマイナスに作用していて、音楽に遊びが無いように感じられます。裏を返せばそれだけ堂々とした響きで隙がない演奏といえるのですが、イッセルシュテット/ウィーンフィルの格調高くも柔らかい気品を感じる演奏と比べるともう少し音楽が流れてくれるといいのにと感じる部分があります。

 

 それでも、そういうサヴァリッシュの棒にN響はピッタリとくっ付いていっています。後年はサヴァリッシュは風格が出て偉く太ってしまいましたが、80年代は颯爽としていてその分かりやすいタクトは見ていても気持ちのいいものでした。

 

 第3楽章の中間部のホルンのソロはまさにバーチ(千葉馨の愛称)の響きがします。このN響の演奏はクローズアップ気味にくっきりとソロ・ホルンを浮き上がらせていて聴かせてくれます。コンセルトヘボウの方は全体の響きの中のバランスに溶け込んでいて取り立ててクローズアップさせていませんからそこら辺が違う所でしょうか。8番の方ではこの楽章だけが目立って遅い演奏になっています。

 

 第4楽章も基本スタンスは変わりませんが、後年の演奏との違いはティンパニの扱いです。コンセルトヘボウの方はけっこうこのティンパニの響きが突出して聴こえるのですがN響ではそれほど強調していません。このように響きのブレンド具合は若干の違いが感じられます。

 

 総じてN響のベートーヴェンは青年期の実直な若々しい演奏、そして、コンセルトヘボウとの演奏は壮年期の充実した演奏といえるのかもしれません。そして、サヴァリッシュの20年の成長の過程を実感する事の出来る演奏といってもいいでしょう。


 

交響曲第8盤比較
録音年 第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章
1982年盤/NHK交響楽団 9:44 4:02 4:56 7:46
1993年盤/コンセルトヘボウ 9:39 3:54 4:32 7:39

 

 このCDで追加収録されているライナーのコリオラン序曲はアップテンポの筋肉質の演奏で、そういう意味では違和感はありません。そして、音の密度の点で抜きん出ているものがあります。完璧といえるアンサンブルで、多分トスカニーニが長生きしてステレオで録音を残していたらこんな演奏になったのではと思えるほどのドライで虚飾を排した演奏です。ただ、この曲の悲劇性を感じようとするとちょっと物足りないのかもしれません。

 

 さて、サヴァリッシュのN響とのベートーヴェンはこのライナーのコリオランを除いた形で再発されました。コンセルトヘボウ管弦楽団との演奏を堪能した人はこちらも一聴する事をお薦めします。

 

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BMG BVCC-38199