伊勢・志摩に消えた女 | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

伊勢・志摩に消えた女

著者 西村京太郎
出版 中央公論社 中公文庫

イメージ 1



 一人娘の女子大生、亜矢子が伊勢・志摩に旅行に出たまま戻らない。事件に巻き込まれたのか。元国務大臣で製薬会社社長の平山は十津川警部に相談した。元刑事だった橋本に調査を依頼すると、亜矢子は偽名をつかって伊勢市内の旅館に投宿していることを突き止める。しかしその夜、旅館の女将と女子従業員が何者かに殺されてしまう。単なる失踪と思われた事件が複雑になっていく。近鉄特急を舞台に、十津川警部の推理が冴える。---データベース---

 行方不明者の捜索ですが正式に捜索届けが出ていないので元刑事だった橋本に白羽の矢が建てられ彼が捜索に乗り出します。不思議な捜査です。橋本に頼んだといっても全く無関係の人物が捜索を始めると直ぐ捜査を中止しろと警告を受けます。もう、こういう設定で犯人は何らかの関係で依頼者と繋がっているのではという疑問が湧いてきてしまいます。怪しい女に尾行され、その女の影には男もいます。

 行方不明の亜矢子は、意外にも伊勢の外宮のある伊勢市駅の近くのしゃぶしゃぶ屋の店員が彼女を見かけたというではありませんか。調子のいい展開ですが、ここで、彼女が別の名前で土産の配送を頼んでいる事が分かります。捜査を続けると、宿の方もその名前で泊まっています。橋本は彼女が泊まった旅館に入り、女将に彼女の事を聴きますが、思い出す前に女将さんとお手伝いの二人が殺されてしまいます。

 そのニュースは東京の十津川警部の耳にも入ります。刑事の直感でこの殺人事件は関係があるのではと考えます。そこへ、橋本から電話が入り事の経緯を聞きます。平山亜矢子は西尾あや子と同一人物です。十津川警部は一人で彼女の事を調べます。赤坂の彼女のマンションは生活感の無い部屋でたまにしか帰っていないようでした。この隣に住む女が事件の解決の鍵を握ります。

 一方、橋本は捜査でイルカ島に渡ります。ここでも聞き込みから彼女がここへ寄った事が確認出来ました。そして、富士見展望台へ立ち寄った事が分かるとそこへ出かけます。しかし、これは犯人側の罠でした。ここで橋本は拳銃を突きつけられ再度平山亜矢子の捜査から手を引けと忠告されます。男を振り切り逃げますが拳銃を発射されます。幸い観光客がいて最悪の事態だけは逃れ、今度は反撃に出ます。素手に石ころという出で立ちで、男に不意打ちを食らわし何とか拳銃を取り上げます。ここは元刑事の行動力が生きています。人気のない海岸端で男を問いつめてなぜ付け回すのか白状させようとすると沖のボートから発射された弾丸で男は殺されてしまいます。

 これだけ派手な立ち回りをしているのですから遊覧船で港に戻ると警察の検問があり当然のごとく橋本は逮捕されてしまいます。何しろ拳銃を所持しているのですから。ここで、十津川警部が初めて事件の表舞台に登場します。

 二つの名前を持つ謎の女子大生。事件の鍵は意外にも別の三年前の火事に突き当たります。この火事の唯一の生き残りが西尾あや子。その彼女が平山亜矢子ということは・・・どろどろとした平山家の人間模様が事件の原因のようです。元国務大臣で製薬会社社長の平山が自らの人生で掘った墓穴にはまった事件でした。

 当然の事ながら、十津川警部たちが動き出すと、橋本が活躍した前半部分から話の調子はがらっと変わってしまいます。警察が動けば後は方程式にはめ込んだ問題を解くかのごとくジグソーパズルのピースが埋め込まれていきます。解決の鍵は盗聴でした。これがあったからこそ平山は自ら表立って動こうとせず、亜矢子の捜索をゼスチャアで三上刑事部長に頼んだのでした。これで事件が氷解します。亜矢子は無事東京で保護されます。

 解決までの犯人側を追いつめて今テンポは快調で一気に読み進んでしまいます。いつもながらの読ませるテクニックはたいしたものです。ただ、一つ不思議なのは橋本の設定です。ここではまだ私立探偵をやっていなくてトラックの運転手をしている事になっています。しかし、刑事を辞めた原因に付いて殺人未遂事件を起こした事になっていますが、ストーリー中では自ら殺人を犯したとはっきり言っています。そのために刑務所に入っていたとも行っていますから。何でこんな矛盾した事になっているのか解せません。

 でも、このストーリーには名古屋をはじめ伊勢、鳥羽などの地名が出てきて親近感があります。近鉄のビスタカーも登場します。もう少し三重県警が活躍してくれるということないんですがね。