十津川警部の逆襲 | geezenstacの森

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十津川警部の逆襲

著者 西村京太郎
出版 講談社 講談社文庫

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 被害者はトラベル・ミステリーの第一人者、北川京介。白昼、観潮で有名な鳴門公園で取材中、わずか五分の隙に殺害されたのだ。さらに一週間後、調布・深大寺で女子大生・小西麻子が殺され、四国旅行の写真が消えた。この連続殺人に浮かぶ四人の容疑者。「ひかり号」を追い越すトリックとは何か? 犯人のアリバイ工作を十津川警部は逆転できるか? 胸のすく名推理!---データベース---
 
 短編集に収められているのは以下の三編です。
◆阿波鳴門殺人事件
◆死体は潮風に吹かれて
◆ある刑事の旅
 データベースでの紹介は「阿波鳴門殺人事件」のものです。最初に登場するアベックがこの事件に絡んでいるのだろうかと読み始めは思ったのですが、この事件では全く関係なく肩すかしを喰いました。推理小説作家が殺されたとあって何かトリックが隠されているだろうとにらんだ十津川警部の読みは当ります。しかし、何か冒頭のシーンで関係することがあるだろうと読み進んでいくと、僅かですが関係のある描写が出てきていました。全くさりげないのでよ見落としていました。

 トリック共々良く出来ています。新幹線より速いトリックを見事に裏をかいて利用しています。飛行機よりも速いもの?そんなものが在るとは考えつかないものですが、こちらの方は先に気がついていました。作品中、十津川警部はこの作家の作品をホテルの一室に閉じこもって読み始めるのですが、数冊読んだだけで辞めてしまいます。いわく、作品のパータンが分かってしまったのでそれ以上読む必要がないという結論です。なにか自作についての皮肉を語っているようでおかしかったです。

 途中、女子大生が殺され事件は別の方向に進むのか、と期待を持たせられますがこちらの事件はあくまで付け足しで、アリバイが崩れるのを恐れての殺人というだけのことでした。

 2編目の「死体は潮風に吹かれて」にも十津川班の酒井というベテラン刑事が登場します。やもめのこの刑事が北陸は不老不死温泉へ出かけて一人の女に会うことから事件に巻き込まれてしまいます。この酒井刑事もこの作品でしか登場しません。この事件ではこの温泉を紹介してくれた旅行社の女性が活躍します。そして、彼女の父親も刑事という設定です。それにしても、東北のこの矢木刑事は窓際刑事と呼ばれながらも犯人を逮捕することなく自首させるという手法で事件を解決しています。十津川警部は登場しますが彼に捜査をまかせてほとんど何もしません。

 こういう登場のさせ方もあるものなんですね。たまには新鮮でいいです。

 最後の一編にはこの小説にしか登場してこない十津川班の若林という刑事が登場します。そして、彼が父の死に絡んで殺人事件の容疑者にされてしまうのです。ここでも、ストーリーの中に伏線がきっちりと張られています。竹刀が消える、電話が消えるという不可解な現象と父の女の態度の豹変が事件の鍵を握っていることは分かりますが、意外な人物も関係しているという最後のどんでん返しは見事です。