十津川警部の困惑 | geezenstacの森

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十津川警部の困惑


著者 西村京太郎
出版 講談社 講談社文庫

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 函館で人を殺した、と十津川に言い残して親友は死んだ。
だが調べてみると、その日友人は函館ではなく、大阪に出張していた。
ダイイングメッセージの真意は?友人の勤める運送会社の内情を探るうち、こんどは女性が殺され、友人との関連が問題に。
十津川警部が友情を賭ける絶好調トラベルミステリー集。---データベース---

1990年発表の短編集です。「海を渡る殺意 」小説現代'90/1号、「死を呼ぶ身延線」 小説現代'90/3号、「死が乗り入れて来る」 小説現代'90/5号、「十津川警部の困惑」 小説現代'90/7号に発表された作品です。

◆海を渡る殺意―特急しおかぜ殺人事件

 博多からの帰りの新幹線で一人の女が十津川と食事で相席します。自分から名を名乗り、また東京で会いましょうと約束します。こんな出だしで始まるので、いかにもこの女が怪しいと気付いてしまいます。

 あにはからんや、四国での殺人事件の容疑者をたどっていくとその女に行き着きます。まあ、単純にはそんな事件ですが、ここに別の男の殺人事件が絡んできます。列車と飛行機を利用したアリバイ工作が崩れたとき女は十津川警部と再会します。ねたはばれてしまいますが、犯行の動機はこんなところに潜んでいるんだなあということが分かる一編です。

◆死を呼ぶ身延線
 
 元警視庁捜査一課の刑事で今は私立探偵の橋本が登場します。しかし、こういう登場では何かが起こります。はたして、彼の父親が死体で発見されます。橋本は調査していた案件を打ち切り、父親の死亡事故の真相を探り出します。ところが、これがひょんなところで中止した案件と絡んできます。依頼主が殺されてしまうのです。

 調査費用をもらっていた橋本は、捜査の続行を殺された依頼主の妹に報告し、今度はおおっぴらに調査を始めます。そこで明らかになるのは・・・

 浮気調査の影に女が見当たらない事から不信に思い身辺調査すると意外な事に若き美男子ばかりが容疑者の周囲にいます。

◆死が乗り入れて来る

 鉄道トリックを巧みに織り込んだ一編です。被害者が実は加害者だったというどんでん返しがすべての謎を解き明かします。ただ一つ不満は、殺された女の愛人ともいうべき上司がなぜか表面に浮かび上がってこない事です。その部分が描き込まれていないので出来としてはやや淡白な仕上がりです。

◆十津川警部の困惑

 十津川警部の親友の登場する一編ですが自殺します。それも、十津川警部にダイイングメッセージを残しての自殺です。それは「函館で人を殺した」というショッキングな内容です。彼の勤めていた会社、中央サービスを訪ねても、なぜ自殺したのか分からないという返事です。しかし、この後発生したモデルの大場ひろ子の殺人事件でこの中央サービスの社長が関係しているのが分かります。ここに事件の関連性を疑った十津川警部の名推理が始まります。大阪にシュッチ要していたはずの親友はやはり、函館に現れていました。いつもなら十津川警部はアリバイ崩しに飛行機のトリックを丹念に調べるのですが、ここではそうした枝葉は無視されてどうやら政治家絡みのトラブルで彼が動いた事が克明に検証されていきます。そして、この会社のワンマンオーナーが彼に口封じの役を任せた事を突き止めます。そして、彼が死んだために、もう一つの殺人は人事部長の五十嵐が起こしたと推測し彼をマークします。しかし、彼は病に倒れ入院してしまいます。偽装と思いきや本当の入院で下が変に会社側のボティガードが付いています。
 療養の名の下に彼が会社の保養所に隔離されてしまうと、彼が自殺しかねないと踏んだ十津川警部と亀さんは、この療養所に不法侵入してしまいます。こういう、破天荒な行動が十津川警部の魅力です。そして、寸前のところで彼を助け事件は解決へ向かいます。