僕は冬休みに、東京の石ころを九州へ運ぶ意味のない旅行に出た。が「第二なにわ」車中で、その石が何者かに盗まれ、隣席の女の子が誘拐されてしまう(その石を消せ!)。通学途中、進二の胸ポケットにいつの間にか幼なじみの由里子の定期券が入っていた。進二は由里子を捜しに伊豆へ向かうが、海岸に男の水死体が(まぼろしの遺産)。少年たちの冒険推理三篇。---データベース---
西村京太郎が中学、高校生向きに書いた推理小説を集めた作品集です。昭和41-2年の学習研究社の中一コース、高一コースに書き下ろしたものでリアルタイムで読んでいた可能性があるのですが記憶がありません。当時はSFものに興味があり、中一コースなんかではE.E.スミスの「レンズマンシリーズ」や、レイ・ブラッドベリの「火星年代記」、アーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」などに夢中になっていました。西村京太郎がこんな作品を
それにしても、トラベルミステリー界の雄・西村京太郎氏が30数年前、少年少女向け推理冒険小説を書いていたとは知りませんでした。昭和40年『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞受賞の直後に書かれた貴重な作品で、まさに「西村ミステリーの原点」を堪能できるお宝本でしょう。
この本には以下の三編が収録されています。
「その石を消せ!」・・・-高一、高二コース昭和41年12月〜昭和42年5月
等身大の高校一年生、河野三郎が主人公で、今しか出来ない事ということで冬休みに、東京の石ころを九州へ運ぶ意味のない旅行に出ます。この作品はトラベルミステリーとしての原点みたいなもので夜行列車「第二なにわ」で事件は起こります。隣の席に座ったのはアイドルの長田ゆみ子、彼女との楽しい旅のはずがトイレに行ったばかりにいきなり殴られ石が盗まれ、果ては長田ゆみ子が誘拐されてしまいます。
ストーリーとしては面白いのですが、犯行の動機が今ひとつはっきりしないのと、どうして大阪出身の犯人が東京発のこの列車に乗っていたのか不明だし、ラストの真犯人の逮捕劇も肩すかしを食ったようで拍子抜けしてしまいました。ただ、西村作品にしては珍しい大阪での事件ということと、関西人の気質がよく出ていて、事件の情報は金になる新聞社へ流すとか、金で情報を交換するとかという泥臭いシーンが頻繁に出てきます。
ストーリーとしては面白いのですが、犯行の動機が今ひとつはっきりしないのと、どうして大阪出身の犯人が東京発のこの列車に乗っていたのか不明だし、ラストの真犯人の逮捕劇も肩すかしを食ったようで拍子抜けしてしまいました。ただ、西村作品にしては珍しい大阪での事件ということと、関西人の気質がよく出ていて、事件の情報は金になる新聞社へ流すとか、金で情報を交換するとかという泥臭いシーンが頻繁に出てきます。
それと、文中に堀江青年の名前が出てきます。ヨットで単独世界一周をした人ですが何人の人が知っているでしょうね。
「まぼろしの遺産」・・・高一コース昭和42年6月〜11月
ある朝、進二のポケットに入っていた幼なじみだった由里子の定期券が入っています。学校に届けると本人は退学しています。進二は謎を解くため彼女の家を探し当てますが、放火されてしまいます。さして、現場をうろついていた信二は容疑者と間違えられます。この事で、警察には連絡出来ない事態となり少年探偵よろしく友人と由里子の捜索を始めます。この一編は定期券の謎は面白いし、話がテンポ良く展開するので楽しく読めます。でも、友人の田口は鎌倉の親戚にはモーターボートがあるのに家に電話も無い設定になっているし、兄がいるのに全く相談しようともしないし、やや無理があります。そして。最後のあっけない解決。災い転じて福となすといったところですが、ここまで警察の存在が表に出てこないのも不思議でした。
「まぼろしの遺産」・・・高一コース昭和42年6月〜11月
ある朝、進二のポケットに入っていた幼なじみだった由里子の定期券が入っています。学校に届けると本人は退学しています。進二は謎を解くため彼女の家を探し当てますが、放火されてしまいます。さして、現場をうろついていた信二は容疑者と間違えられます。この事で、警察には連絡出来ない事態となり少年探偵よろしく友人と由里子の捜索を始めます。この一編は定期券の謎は面白いし、話がテンポ良く展開するので楽しく読めます。でも、友人の田口は鎌倉の親戚にはモーターボートがあるのに家に電話も無い設定になっているし、兄がいるのに全く相談しようともしないし、やや無理があります。そして。最後のあっけない解決。災い転じて福となすといったところですが、ここまで警察の存在が表に出てこないのも不思議でした。
「白い時間を追え」・・・中一コース昭和42年10月〜昭和43年3月
こちらは中学一年生が主人公ということでやや話の展開に冗長さが感じられます。主人公山地和男の兄の奥さんが殺され、警察は当夜の記憶を失った兄を疑って逮捕します。和男は釈放された兄と共に、その日の行動を調べ始めるのですが当日兄の団地で不審な男にあった事を話さずにいる事から事件は思わぬ展開になり、関係者が次々と不信な死を遂げていきます。こういうじれったい設定に加え、読み初めで犯人の目星がついてしまうストーリー展開は興ざめです。一時的に記憶を失うということで犯人をぼかしてしまう手法は最初の「その石を消せ!」でも使われていますがちょっと安直に過ぎます。
しかし、中学生や高校生が読んだらやはりワクワクするんでしょうね。なにしろ、同年代の子が探偵ごっこをして活躍するんですから・・・。そういう意味では初めて西村作品に接する入門用に少年少女にお薦めです。