アンチェルのバルトークとヤナーチェク | geezenstacの森

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アンチェルのバルトークとヤナーチェク

 

曲目
1.バルトーク/管弦楽のための協奏曲
2.ヤナーチェク/シンフォニエッタ*
指揮/カレル・アンチェル
演奏/チェコ・フィルハーモニ管弦楽団

 

録音 1963、1961*

 

スプラフォン 25CO-2798

 

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 これはアンチェルの代表盤といえます。バルトークのオーケストラのための協奏曲は、軒並みの名演がある中でもチェコフィルの艶のある弦の演奏が冴え渡り、聴いていて清々しい演奏です。アンチェルの棒も、この難曲を非常に分かりやすい語り口で音にしています。巷ではシカゴ響の独壇場みたいになっているこの曲ですが、小生としてはアンチェルの演奏は独特の暖かみがあって好きです。第1楽章の引き締まった筋肉質の弦のサウンドはバルトークにぴったりで、それに絡むティンパニの音はピンと張りつめた音にさらに緊張感を与えています。

 

 これとは反対に第2楽章の「対の遊び」はとてもユーモラスに聴こえます。編集の問題か2分過ぎの箇所で音のつなぎに失敗している箇所があるのが難点といえば難点でしょうか。この曲の中心をなす第3楽章はアンダンテの重ぐるしい曲想ですが、オーケストラの各パーツの実力を知らしめるには絶好の楽章となっています。アンチェルは各楽器群をだれること無く緊張感を持ってバランス良く鳴らしています。

 

 第4楽章は弦の美しさをひときわ際立たせた演奏で、ここでもショスタコーヴィチのフレーズを実にユーモアに奏しています。それは第5楽章の冒頭のホルンの旋律にも感じられ、アンチェルの演奏がガチガチの糞まじめなものとは一線を化しているのが分かります。中間部の弦楽によるフーガも秀逸で、ティンパニの一撃からコーダにかけての盛り上がりも見事です。最後は適度にためを作って終えています。こういう演奏でバルトークに入門するなら幸せでしょう。

 

 

 ヤナーチェクのシンフォニエッタがまた、素晴らしい演奏です。第1楽章の金管群の晴れ々しいファンファーレは独特の音色です。実につやのある音色で、この時代の金管のレベルの高さが窺えます。アンチェルの演奏では、金管の別働隊は左右両翼に分散して配置されステレオの掛け合いが見事に表現されています。

 

 第2楽章は弱音器をつけたトロンボーンが活躍しますが、クラリネットのせわしない演奏と絶妙のバランスで鳴っています。第3楽章は美しいチェコフィルの弦の見せ場です。滑らかだが決して肉厚の弦ではなく、きりっと引き締まった音なので気品があります。ヤナーチェクはこの作品の各楽章に標題を付けていて、この3楽章は「王妃の修道院」と記されています。そして美しいメロディに似つかわないトロンボーンの強奏がありますが、当時ブルノで流行していたこれらの死者の山の記憶がヤナーチェクの脳裏にあったとかで、こんな荒々しい旋律で対比されて描かれているということです。ちなみに。第1楽章は「ファンファーレ」、第2楽章は「城」、第4楽章は「街」、第5楽章が「市役所」という標題になっています。第4楽章は躍動感あるリズムのトランペットで始まりますが、途中で鐘が鳴りこれが教会を描写しています。短い楽章ですが、チェコフィルの各楽器の音色を楽しむことが出来る楽しい楽章となっています。

 

 そしてフィナーレの第5楽章はチェコフィル本領発揮の熱演です。分厚いブラスの響きに柔らかい弦が絡み極上のサウンドを響かせ、アンチェルの的確な棒裁きで一糸乱れぬアンサンブルが素晴らしい効果を上げています。音像が定位しているので左右に分かれたヴァイオリンとヴィオラの掛け合いも見事で聴き応えがあります。ただ、3分50秒頃の第1楽章のテーマが入る少し手前シンバルが鳴る編集が雑で、弦の音が唐突に切られるのが惜しいです。しかし、総体的には最後のコーダも緊張感が切れること無く音の洪水に身が包まれ、心地よい快感の中でフィナーレを迎えることが出来ます。こういう感動は希有で、他の指揮者の演奏ではここまでの境地には至りません。

 

 
 LP時代から親しんできた演奏だがCD化も日本コロムビアのスタッフがマスタリングをしていて全く違和感のない仕上がりになっています。特にヤナーチェクは、数々の録音があれどこの演奏がスタンダードの地位は揺るぎそうにありません。