小澤のチャイコフスキー 1 | geezenstacの森

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小澤のチャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲 1

チャイコフスキー 
1.ピアノ協奏曲第1番変ロ短調Op.23
2.ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35*

 

ピアノ/ジョン・ブラウニング
ヴァイオリン/エリック・フリードマン
指揮/小澤征爾
演奏/ロンドン交響楽団
録音 1966/08/24-5、ウォルサムストウ・タウン・ホール,ロンドン
   1965/12/08*

 

独BMG 74321 17900 2

 

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 これらの演奏は小澤征爾のほとんど初期の録音です。小澤征爾にとっては日本デビュー盤とも言えます。録音はヴァイオリン協奏曲の方が古く、初出ではメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲とカップリングされていました。フリードマンはハイフェッツの一番弟子で、その技巧、音色はハイフェッツさえも驚愕とさせるものでした。でも、消えるのは早かったようです。小澤より4歳年下だったのですが、2004年3付き30日癌のため死去しています。享年64歳でした。

 

 小澤はロンドン交響楽団とこの1965-6年に4点録音していますが、それ以降、ロンドン交響楽団とレコーディングしていませんから貴重です。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を小澤はこれ以後、EMIにスピヴァコフと1972年に、そしてフィリップスにムローヴァと1985年に録音しています。
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 ここでは、フレッシュな新人の共演を楽しむことができます。第1楽章から熱気溢れるバトルを展開します。この速いテンポはどちらが主導権を取ったか分かりませんが、下記のデータから推測するとこれはフリードマンのテンポでしようね。ちなみに師匠のハイフェッツは、更に早くて第1楽章を15:46で弾いています。ここでは小澤は単に伴奏者としてではなく主張を持って対等に対峙しています。それはカデンツァに入る手前のフレーズを急にスピードを上げてならしている点にも伺えます。たいして、フリードマンは早いパッセージでも難なくこなしてはいるのですが、やや上滑りの印象が感じられます。技巧と芸術性が見事にバランスしているハイフェッツにはまだまだという感じです。新人としてのスタートは一緒でも、その誤、順調にキャリアをのばした小澤に対して、フリードマンは浮上することはありませんでした。ちなみに、初出のLPジャケットははフリードマンのアップのみで小澤はクレジットだけでした。

 

録音 第1楽章 第2楽章 第3楽章
1966年盤フリードマン 16:28 6:36 9:01
1982年盤スピヴァコフ 17:31 6:27 9:39
1985年盤ムローヴァ 18:10 6:04 9:42

 録音自体はけっこう優秀なのですが、マスタリングがちょっとお粗末でマスターテープに起因するゴーストが盛大に入っています。そして第3楽章のフィナーレは残響があるにもかかわらず、すぱっと切られていてちょっとびっくりの終わり方です。ただし、これはヘッドフォンで聴いてのことで、スピーカーから流れる音は部屋の残響でこんな風には聴こえませんので安心を。

 

 これに対して、ピアノ協奏曲は2歳年上のブラウニングとの共演です。ジョン・ブラウニングは、アメリカのピアニストで、1956年のエリザベト王妃コンクールにアシュケージに次いで2位を受賞しています。バーバーのピアノ協奏曲世界初演で、来日時もN響とこの曲を演奏していました。こちらも2003年に亡くなっています。

 

 こちらはきわめてスケールの大きな演奏で、雄大な音楽が流れます。ブラウニングのタッチも鋭く、録音はその鍵盤へのアタック音まで鋭く捉えています。オーケストラも低弦がギュンギュン唸る音で迫ってきます。まあ。古い録音なのでテープヒスはつきものですがRCAの録音の優秀さが際立っています。ひよっとするとこの頃はまだデッカのスタッフが手伝っていたのでしょうかね。

 

 ともかく、小澤もオーケストラをフルに鳴らしてきっちりビアノをサボートしています。冒頭のホルンも雄大で多少スタッカート気味に吹かせて存在をアピールしていますし、ピアノも豪快に左右いっぱいに広がり響いています。粒の揃ったタッチで美しいピアノを披露していて大型新人の登場を予感させます。第2楽章も詩情豊かな美音で1楽章との対比も見事です。第3楽章は目にも鮮やかに早いパッセージを弾ききり、切れ味も鋭いので聴き応えがあります。カップリングでこの演奏を頭に持ってきたのは正解です。ヴァイオリン協奏曲は3度も録音しているのにも小澤はこの演奏には満足していたのか、2002年までピアノ協奏曲は再録をしてませんでした。